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35話 まさかの遭遇!


一方で忘れてはいけないのは、私からラーラへのプレゼントも探さなければならないという点だ。


現代にいた頃は仕事の合間にスマホ一つでさくっと届けてもらったものだが、そうはいかない。


現代と変わらないのは唯一。お金がない、という条件だけだ。


目当ての物自体は、もう決まっていた。


「……化粧品があんなに高いだなんて驚きよ」


ただ、手が出ない価格だったので店をすぐさま飛び出した。


残念ながら、この時代にプチプラコスメはないらしい。


英世一枚で買えたはずなのに……! こちらの世界では3万ペリーはたいても買えない。


普通ならば別のものに切り替えているところだろう。

だがラーラが部類のお化粧好きであることを思えば、簡単に諦めたくはなかった。


はじめてできた女の子のお友達なのだ。喜んでもらうためには、なんでもしたい。


「よし、やるわよフェン!」

「……正直言ってまだ眠いのだが、アニーが言うのならば仕方あるまい」


決意を固め、頼もしい相棒とともに私が向かったのは王都はずれにある魔の森だ。


「しかし、化粧の元になる鉱石を直接取ってくるだなどと普通の令嬢であれば思いつきもしまいな」

「あら、そうかしら。現に思いついてるじゃない」

「アニーは普通ではないとおもうのだが……。特に近頃はそれが顕著だ」


それはおかしい。

私はモブキャラ、アニータ=デムーロ。もっとも目立たぬ普通そのものの存在であるはずだ。


「いいから行くわよ。まずは見つけるところから始めなきゃいけないんだから、冗談言ってる場合じゃないわ」

「……ほう。これを冗談と受け取られるとは心外だが、たしかに悠長に話をしている場合でもないか」


うんうん、うちの子は物分かりがよくて助かる。

私は彼を一つ撫でてからその背に乗り、魔の森へと踏み入れた。

できるだけ魔物との遭遇を避けながらにして、地図を頼りに鉱石の採取地へと向かっていると、出くわした。


私は一度フェンから降りる。


「えっ、ヴィオラ……さん! なんで、こんなところに?」


彼はちょうどコボルトと闘っている最中であった。

長い後ろ髪を風にたなびかせながら、長尺の剣を振るう様はなかなか美しい。


乙女ゲームならば今このシーンを一枚絵として差し込んだっていいくらいには、現実感の薄い光景だった。


コボルトをあっさり仕留めた彼は一度瞑目する。

それから紫紺色の瞳に訝しさを宿して、こちらに視線をくれる。


「アニータ・デムーロ男爵令嬢。あなたこそ、なぜこのような場所に?」


居酒屋の生ぬるいビールより、よっぽど冷ややかな目だ。

でも、もう怖気付いたりはしない。かなり見慣れてきたし、なんだかんだと悪い人ではないのだ。


「私はちょっととある鉱石を採取しようかと思いまして。さっき入ったばかりですよ。ヴィオラさんはどういったご理由で?」


にこやかに投げかける。


「私のことを聞いてどうされるのです?」


しかし、これだ。取り付く島もない。


「えっと、どうもしませんよ。ただの世間話ですけども」


まったくどこまでもお固い人だ。

こんな意外な場所で会ったのだから、もう少しくらいは愛想良く接してくれてもいいのに。


彼はそれを聞いてなお、ただ黙り込む。


なに、このいたたまれない空気は!


街中で友人と歩いている時に、友達の友達に出会った時より気まずい。


もうこの辺で退散しよう。なにか邪魔をしてはいけない場面だったのかもしれない。


そう踵を返しかけたときだ。


「……私の方は、ちょっとした肩慣らしでございます。普段は執事としてエリゼオ王子の側で勤めさせていただいておりますが、有事に備えた鍛錬は欠かせないでしょう?

 私は護衛も兼ねておりますから」


求めていた数倍、きちんとした回答が返ってきた。

もしかして、が私の頭を巡って少し、ピンときた。


王都の服飾店で彼は、エリゼオ王子に伝えるセリフを一人、ぶつくさ呟き練習していた。

今も、頭の中では文章をシュミレーションしていたのかもしれない。


笑いを堪えながら、話を続けることとする。


「ヴィオラさんって本当に真面目ですね。だからってお一人で鍛錬だなんて」

「……王子を任された執事なのですから、これくらいはできねばなりません。それに執事たるもの、人に苦労も見せてはいけない」


「え。私思いっきり見ちゃいましたけど、大丈夫でした?」

「他言は無用でございます。アニータ・デムーロ男爵令嬢」


彼はこう言い切って、会話はここまでだとばかり、コボルトの血で濡れた剣を布で拭うなど手入れを始める。


うっ……やっぱりいたたまれないっ!

上司からランチに誘ってもらったはいいが、天気以外に話題がない、あの感覚だ、これ!


「えっと、ヴィオラさん、それじゃあ私はここで!」


無理矢理、話を切り上げる。


本当ならしれっと足早にさりたかったのだが、肝心のフェンが地面にうずくまり尻尾まで丸めていた。


魔の森の中だというのに緊張感ゼロだ。

私はそんな彼の前にしゃがむと頭を数回叩いて、起きるよう促す。


「もうフェンったら! 早く行くよ」


普段はこのまったり具合が愛しいのだけど、今ばかりは困る。

私が急かすとフェンはやっとのそのそと起き上がり、口を大きく開けてあくびをした。それから身体を震わせる。


そして、またうずくまった。

ちくしょう、可愛いな、おい! けれど、今それをされては困る。


「アニータ・デムーロ男爵令嬢」


ほら、こうなっちゃうじゃない……!


まごつきすぎたらしかった。背中からヴィオラに声をかけられる。

どきりとしつつ、ぎこちなくも私は振り返った。


「す、すいません。この子ったらなかなか起きなくて」


子持ちの親みたいな言い訳とともに、曖昧に謝るのだが、それを求めていたわけじゃないらしい。


「たしか鉱石採取に行くとおっしゃっていましたね。私もご一緒してよろしいでしょうか」

「……………え」


どういう風の吹き回し……?

これまでのやりとりから、どうやったらそんな言葉が生まれるんだ?


思い返しても、ちっとも親しみの感情を感じられるない会話であった。

シナリオライターとして、こんな台詞回しを書いたら、ネット掲示板で叩かれる。


「いやいや、結構ですよ。えっと御迷惑でしょうし」

「なにをおっしゃいますか。もっとも迷惑なのは、あなたがお怪我をなさることでございます」


……えっと?

ヴィオラに心配されるようなことがあるだろうか。


「万が一怪我させてしまえば、エリゼオ王子に申し訳が立たない。それどころか事態が露見すれば、首を飛ばされるのは私の方ですから」

「えっと怪我しませんし、もししたら黙ってますから大丈夫ですよ」

「…………あなたは、わからない人ですね。エリゼオ王子はそれくらい簡単に見抜くくらい、あなたをよく見ていますよ。

 とにかく、私もついてまいります。それでなければ、ここから強制的に連れ出しますが」


長身のヴィオラが立ち塞がる。そのうえ、相変わらずフェンは起きない。


退路を断たれた私は、


「であれば、ご同行をお願いしますわ……!」


こう答えるほかなかった。






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