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34話 ヴィオラの実は。


私はたまらず、靴先で三度地面を叩いて、ヴィオラに集合の合図を送る。

もしなにかあった場合の手立てとして、事前に決めていたのだ。


少し状況を見てからエリゼオの隣を離れた彼は、私の元へと忍び足でやってくる。


「いかがしましたか、アニータ・デムーロ男爵令嬢」

「いかがって、いかがありすぎですよ。なんでエリゼオ王子は私のプレゼントを探してるの」

「すいません。あまりにも自然なこと、いつものことでしたので、ご指摘しておりませんでした」


いつも……?


私が訝しんで眉を寄せるのとは対照的に、ヴィオラはぴくりとも動じず、冷え切った氷柱みたいな印象の面で、淡白に言う。


「言葉通りでございます。最近のエリゼオ王子はなにをしていても、気づけば、あなたのことばかり考えております。あれくらい、なにも今に始まったことではありません」


かぁっと顔が勝手にほてってくるので、わたしは自分の耳をつねって、平常心を取り戻す。


別にエリゼオが私に好意を向けていると分かったわけじゃない。

単に、偽彼女として振る舞った例の一件の恩に報いようとしているだけの可能性も残されている。


それに、好意の有無はともかくとしても、だ。


モブキャラたる私に、メインヒーローが貴重な時間を割きすぎているというのも、いかがなものか。


「とりあえず、止めてきてくれません? 今のエリゼオを見てるとこっちの調子がおかしくなっちゃいます」

「どのようにすれば? 一応私なりに誘導しようとはしてきましたが、一向に振り向こうともしないのです」


「えっと。とりあえず、ラーラのプレゼントを選ぶって話をしつこく振ってみてください。それだけでも、今よりはマシになるかもしれませんよ。諦めないことが肝心です。どーか!」

「……かしこまりました」


細かな振る舞いで伝えたい点はまだまだあったが、これはあくまで緊急の打ち合わせである。


潔く切り上げて、私は再びエリゼオの方へと視線をやった。

彼はまだ熱心に棚へと目をやり、時折私の名前を呟きながら、吟味を続ける。


エリゼオはどういう魂胆なの、私の心臓を壊すつもり!? 

近頃の彼はどうもおかしい。プレイヤーとして見てきた嫌に優柔不断な側面を全く感じられない。


早く止めてくれないか、とヴィオラに期待をかけるが、遅い。なぜかいつまで待っても視界の中に彼は現れない。


少しあたりを探ってみれば、いた。

エリゼオから影になっている場所で、壁に腕をつくと、なにやらぼそぼそと呟く。


そのミステリアスな容貌もあいまって、まるで呪詛でも唱えていそうな光景だ。

気になった私は忍び足で入り口まで近づき、聞き耳を立てる。


「エリゼオ様、こたびの宴はラーラ公爵令嬢が主役。それをお忘れなきよう、王家の一員として立派なプレゼントを選ばれるようお願いいたします…………。いや、これでは堅いか? もう少し柔らかくしたほうがいいのだろうか……」


なんと練習をしていたのだった。


それも念入りなことに、語尾のほんの少しの抑揚をどう調整するかで迷っているらしい。

同じセリフを復唱する。


ぷふっと吹き出しそうになって、私はそれを必死で堪える。が、口角だけはどうしても上がってしまう。


それくらい、意外なギャップだった。


ただ冷徹に任務を遂行し、合理的でないことは取り合おうともしない。例えるなら、氷の塊が意志を持った人。


そんな印象と、今そこにいる彼は、全く一致しない。


普段の氷の表情ももしかすると、こうした鍛錬の先にできているものなのかもしれない。


ようやっと練習が終わりになり、ヴィオラはエリゼオの元へと向かう。


「エリゼオ様、こたびの宴はラーラ公爵令嬢が主役。それをお忘れなきよう、王家の一員として立派なプレゼントを選ばれるようお願いいたします」


一言一句、さっきの練習そのままに彼は繰り返した。

あまりにお固い。しかも、それしか練習していなかったからだろうか。


話半分に聞いていたエリゼオに、またしてもそのまま繰り返す。


「エリゼオ様、こたびの宴はラーラ公爵令嬢が主役。それをお忘れなきよう、王家の一員として立派なプレゼントを選ばれるようお願いいたします」


たしかに、『しつこく』とはお願いしたけど! 録音器みたくループ再生してくれとは頼んでいない。


(……声をかけられないのが歯痒いっ!)


今に2人の前へ出て行きそうになりながらも、なんとか理性で堪えて私は状況を見守る。


体感的にはかなーり長い時間だったが、


「あぁ、すまないな、ヴィオラ。分かったよ、そろそろ選ぼうか。これなんかどうだろうか」


ラーラへのプレゼントも選んでもらうことに成功はした。

手に取られたのは、オレンジ色のスカーフだった。たしかに可愛らしいけどれど、選ぶまでに要した時間はほんの数分であった。


棚の一番目立つところにあったものを、ひょいっと摘んだだけな。


私への贈り物はさっきまで散々悩んでいたのに……!


思いはしたけれど、贅沢は言えない。とりあえずは買ってくれたことが大切だ。

これで少なくとも、パーティ当日まではラーラのことを考える機会も増えるはず。


私は、そう思い込むことにしたのであった。





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