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32話 うっかり、きゅん。


こうして、私とその協力者であるヴィオラとによる、題して「エリゼオとラーラの自然ロマンス作戦」が始まった。


 動きだしたのは、ラーラにお化粧を施してもらうことになった際だ。


「エリゼオ王子、楽しみにしてたよ。アニーがお化粧した姿!」

「いやいや、私ほとんどお化粧なんてしてませんし。それに、エリゼオ王子も本心では、きっとラーラがより美しくなるのを期待してますよ」

「はいはい、私のことは今日はいいから! とりあえず、まずは下地から塗っていくって感じで始めていくよ」


 今はまだ、彼女はあくまでエリゼオのことを私の友人だと認識している。そこを地道な吹聴で、ちょっとずつ改めてもらう目論見である。


昔、クリエイター周りの各企業に対してシナリオやキャラクターの売り込み営業していた経験を思い起こしながら、私は話を進めていく。


もちろん、お化粧の手もとめない。


イメージは、高校の休み時間などにお化粧室にいって、友達と並んでメイクしていた時の感覚である。


「すご。普段やってないにしては、うまいって感じじゃんアニー」

「ま、まあ昔は毎日のようにしてましたから」


 といっても、霧崎祥子の頃の話である。

 外に出るときなどは化粧をするのは当たり前だったし、基本的には毎日していた。


 が、アニータに転生してきてからは、逆にめっきりしなくなった。

 若いアニータの身体では素肌でもそれなりにきれいであったという理由もあれば、この世界のお化粧事情に、そもそも詳しくなかったというのも大きい。


「ここで使うのは、これね。マカイアの粉。魔の森で取れる魔石を砕いて、オリーブの油と練って作るの。これ、ちょっと高いんだけど私のお気になんだ」


 材料などは聞いてもよくわからなかったが、たぶん下地のことを指すのだろう。

 肌に乗せてみれば、なんとなく似たような感触があった。


「あんまりつけすぎると、肌を痛めるから程々にね~」


 うーん、化粧のしすぎがお肌に悪影響なのはこちらでも同じらしい。


ゲームの世界とはいえ、やはりその現代で生み出された創作の世界だ。

共通項の多さを改めて認識させられながらも、私はラーラに倣って、お化粧を進めていく。


「……ラーラさん、なんてお可愛い」

「お世辞じゃなくて本気って受け取っていい感じ? ありがと」


 ラーラさんは抜群の腕前だった。

ただの化粧好きの人がやりがちな、すべてを誤魔化しにかかって、厚塗りになってしまうなんて失敗はない。


過不足なく、また自分の特徴をきちんと分かっている人のメイクだ。

そのままでも十分に人より優れた顔立ちが、さらに昇華されていく。


「やっぱり、すごく綺麗ですね、ラーラさん……。私のことなんかどうでもよくなるくらいです。これならエリゼオもきっと釘付けですわ」

「ふふ、ほめてくれるのはありがたいけど、それはありえないって感じかも」

「え、どうしてです?」

「王子の目に映っているのはどこまででも、あなただけですもの」


 一瞬、どきりとして、ちょっと心が熱くなったりもするが、私はそこで自分のペースを取り返す。


そんなはずないない。微妙な化粧を施した男爵令嬢と、完璧な化粧を施していて10人が見たら10人が美しいというだろう公爵令嬢だ。

これなら計画通りに……


「すまない、思わず息をのんでしまったよ。そうか、君は化粧をするとそういう風になるのですね、アニータ。慣れないのかい? 頬にチークの色がのってしまっているよ」


 うん、ならなかった。


ヴィオラは、話を吹き込むのに失敗したらしい。

お咎めの目を向ける私に対して、彼がとったのは目を瞑るという単純な返事だ。これ以上は、睨んでいても仕方がなさそうだ。


「え、えっと、エリゼオ。私なんかのへたくそなお化粧より、ラーラの化粧姿を見た方がいくらも目の保養になるんじゃ……」

「君はわからない人だね、ほんと。僕はもう十分、満たされているよ。意外と抜けている君を見られて満足だ」

「か、からかわないでくださいな」

「ふふ、別にちょっと本音が漏れただけのことさ」


 ちょっと揶揄ってくるキャラが大好きな私は、うっかりきゅんとしてしまった。が、そうじゃなくて、これは一筋縄ではいかないらしい。


もう少し作戦をきちんと練る必要がありそうだ。






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