31話
口にはしないものの、ただ目を瞑り壁にもたれかかる彼の態度は、明らかに説明をもとめている。
「えっと、ヴィオラ? これはその、ちょっとした試みよ。ほら、私のお友達同士、二人が仲良くなってくれたらいいなぁ、と」
「とても、それだけには見えませんでしたが」
はぐらかそうとしてみるが、そのパープルの瞳に射られると、全てを見透かされている気分になる。
まるで底の見えない湖をのぞきこんでいるみたいだ。その奥底では何者かが息をひそめていて、私からは見えないけれど、彼からはすべてが明け透けに見えている。
腹を割って話すしかないか、と私は一度つばを呑む。
さっそく多少なりシナリオが変わることとなるが、こういう時、求められるのは柔軟な対応だ。
納品日前日に、ストーリーの骨子から全部変更指示が入ったときに比べれば、こんなもの余裕で対応できる!
やりようによっては、むしろこれはストーリーにブーストを加えてくれるはずだ。
私はにっと片方だけ唇を吊り上げる。
「認めます、シナリオですよ。でも、これはきっと、ヴィオラにとっても悪い話じゃないですよ」
「というと? このような余計なことをして、私まで巻き込まれるのはご勘弁願いたいのですが」
「まぁまあそう言わずに、まずはお聞きくださいな。その懐に忍ばせている、金平糖のことを、大衆の面前でばらされたくなかったら従うことですわ」
「……驚きました。どこでそれを」
「あなたが私を見ていたように、私もあなたを見ていたんですよ」
まあ本当はゲームで見てきたから知っていただけだけれど。
彼が渋々そうながら頷いてくれたので、効果は絶大だったようだ。
私は、ざっくりと計画のあらましについて、彼に伝える。
一種の博打ではあるが、彼にとっても利益がある話のはずなのだ。
なぜなら、私のような男爵令嬢=馬の骨と違って、ラーラはれっきとした公爵令嬢。ちょっとばかりその中で序列が低かろうが、私よりはずっとましな存在だ。
「……たしかに、それだけを聞くと悪くない話に聞こえますが。それでエリゼオ王子が望まぬことになるのならば、執事としては判断が難しいところでございます」
「なにも無理にひっつけよう、というのではありませんよ。ただ単に、自然な流れでお二人の距離を縮められればそれでいいのです」
ヴィオラは、理屈っぽい性格である。
それはゲームでも見てきたし、このところの対面からでもよく存じていた。
基本的には接しにくさがあるけど、逆に言えば、筋さえ通っていれば話を聞いてくれるということでもある。
後ろで結んでいた長い髪が前に垂れてきていたのを、彼は後ろへと払った。しばし瞑目したあと彼は左手を後ろへとやり右手は腹の上に持ってきて深々と腰を折り、お辞儀をする。
「……私の負けのようですね。そういうのならば、少しだけお手伝いさせてください」
こうして私は、大層心強い味方を得たのであった。




