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23話 シナリオの着地(1章完結です!)



そのままフェンの背に乗り、走って走って。たどり着いたのは、王都外れにある丘の上だった。


追手がきていないことを確認してから、私はフェンから降りる。

いつものごとく丸まった彼の身体に背中を預け、夜空を見上げた。


この世界は街こそ文明の発展が見られるが、周りを囲む丘までいけば、その灯りもほとんど届かない。


おかげで、夜空に浮かぶ三日月と星々は住んでいた東京とは比べ物にならないくらい綺麗に映る。


映るはずなのだけど、どうしてか味気ない。


私は左腕を目の上にかざす。

月光を淡く閉じ込めた大粒の白水晶が、なにより美しく映った。


「よかったのか、アニー。あの終わり方で」

「うん、いいのよフェン。だってシナリオは大成功よ。私の身分もバレなかったし、エリゼオは今頃、王家の皆さまに直談判してるはず。それだって、ここまでお膳立てしたんだもの。きっとうまくいくしね」


なにも間違ってはいない。


妙だった関係が、あるべき姿に戻っただけだ。



だから、この体の一部をぽっかり失ったような感覚は、一時的なものに違いない。


もう考えるのはやめて、早く屋敷に戻ろう。こっそりと抜けてきたものだから、あんまり長く留守にしていると、屋敷の使用人たちに捜し始められてしまう。



そう思うのだけど、腰が重くて、私はぼうっと夜空を眺め続けた。


フェンとこうしていると、茶会を抜け出して王城の庭でまったりしていた時のことを思い出す。


できれば、同じくらいお気楽な気分になりたかった。

全てを忘れて、幸せな未来を考えることができたあの時のように。


……だが、今日はうまくいかない。


「…………エリゼオ」


目を瞑り、彼の顔を思い浮かべる。

今やクズかつ浮気性な元カレの顔とダブつくこともない。


脳裏で、にこりと先ほどフェンの上で見た彼が笑いかけてくる。

それが遠ざかっていこうとするので手を伸ばすと、なにかに触れた指先が自然と曲がり、じわり熱が伝わってくる。


さっきまで空があるだけだったのに。不思議に思って目を開いてみると


「呼んでくれたみたいだね、アニータ」


夢かうつつか。いや、現実。

私が触れたのは乱れのないきめ細かく白い頬。


そこには本当に、エリゼオがいた。






私は何度も目を瞬く。自分の頬を軽く叩いた後、彼の頬にも再度触れる。


やっとそこにいる彼が亡霊でもなく、私が作り出したイマジナリーでもなく本物らしいと気づいて、


「な、なんでこんなところにっ!!?」


少し遅れたぶん、不要に大きな声が出た。


それが反対の山壁に打ち当たって、二度ほどこだまする。


それほどの声量だ。

フェンの眠気を一気に覚ましたらしく、彼の身体を飛び上がらせる。 

となれば彼を背もたれにしていた私は放り出されるわけで。


それをエリゼオが片腕で持って、受け止めてくれていた。


なにごとかと理解する前、フレグランスな香りと少しの汗の香りが混じった匂いが鼻から流れ込んできて反射的に離れる。


ついで、混乱するフェンの召喚を解いた。


「危なかったな。もしそのままだったら、地面に顔を打ち付けていたかもしれないね」

「す、すいません。ありがとうございます……じゃなくて、なんでここにいるんですかエリゼオ王子!」


この際、私の顔がどうなろうが小さな話だ。

モブだしね。


でも、この人はその対極、メインヒーローを張る男だ。


「王城の人たちの説得は終わったんですか? というか、終わってもここにいるのは変ですし!」

「そう慌てないでくれよ。今話すよ。結論から言えば、説得はやめたんだ」


やめた……? あそこまでやって、シナリオを放棄した……?


頭が混乱して眉を顰めた私の顔に、なにかを勘違いしたらしい。彼は両手を胸の前で挙げて降参のポーズ。


「おっと、怒らないでくれよ? 君のシナリオを蔑ろにしたわけじゃない。ちゃんと言うつもりだったさ」

「だとしたら、ここにいるのはおかしいですよ。もしかして、いざ言おうとしたら、怖くなったとかですか?」


「いいや、演技することに怖さはなかったよ。ただ、今の日々が消えてなくなるのは怖かった。どっちが大切か天秤にかけて、自分で決めたんだ。

 そして僕は彼らに言ったのさ。どうしても彼女を追うのをやめろと言うなら、自殺してやるってね」


わお、そこまで大きく出るとは。


「そのうえで、君の正体以外は全部伝えたよ。一連の騒動が作り物であることも、事の経緯もね。

 そうしたら、一部の人は納得してくれた。もちろん反対もあったけどね」


彼は、絵に描いたかのごとく一本一本が美しいまつ毛を伏せて、軽く笑う。


「どうだい? まだ説明がいるなら、いくらでもするよ」

「…………状況はわかりましたけど」


わかったうえで、いまだに心の整理はついていなかった。

悲しくなったり驚いてみたりで、感情曲線が行く先を失っている。


ただそんな最中でも、どこかで安堵を覚えている自分が不思議だった。


「この決断があってたのかどうか、僕にも自信はないよ」

「……変わらないですね、エリゼオ王子は」

「いいや、変わったさ。前の僕が迷った末に選ぶのは、いつも視界の通った安全な路。わかりやすい方向ばかりだった。

 でも今度ばかりは綱渡りみたいなものだね、どうなるんだか見えもしない」


「ふふ。普通、未来ってそういうものですよ」


シナリオライターだからって、ここが元ゲーム世界だからって、私にもこの先のことは分からない。



最悪、私自身がエリベオと関わらなくなれば、あとは勝手にカテリーナ嬢とくっついてくれるなんて考えてきたけど…………


そもそも私が王子に手を貸した時点で、元のシナリオなんてとうに壊れているのだ。



それがさらに思い通りにならず、横道へ次々に逸れていったというだけ。


「でも、後悔はしてない。ここにこられて、よかったよ。君とあれで終わりだなんて、僕にはできない」


………にしたって、逸れすぎているような気もするけれど。


この台詞、よーく考えずともヒロインに向けられるべき台詞だし!


「君はどうだろう? 偽の関係はもう必要ない。そのうえで、僕とこれからも仲良くしてくれるか?」

「……もちろんですよ。また私の簡単料理、食べてもらいますからね。それに、これからもシナリオとか物語とか読んでもらいますから」


あぁ自分で発言しといてなんだけど、これもヒロインっぽくない!?


私はだんだん恥ずかしくなってきて、足を三角に折って、膝上に顔を埋める。


「望むところだ。いや、むしろそれは本望だよ。君の料理はとても美味しいし、君の書く物語は他の誰にも出せない魅力があるしね」

「もしかして娯楽に釣られて、戻ってきたんですか?」


「はは、それもあるかもしれないね。王子らしからないかな」

「まぁ、エリゼオさまらしくはあるんじゃないですか」

「たまに胸に刺さることを言うね、君は」


夜はだんだんと更けていく。


私のこの世界での初シナリオは、こうして思わぬ着地を見せたのだった。






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