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20話 決行は今夜!


その後、私を襲ったのはジュリアの従者たちだと正式に判明した。


エリゼオの訴えにより、王城にて人を襲わせたという行為が問題となり、ジュリアには謹慎令が下ったそうだ。


散々罵られ、手を上げられてきた記憶のある私、アニータとしては、ざまあってもんである。


しかし、問題となったのはエリゼオの方もそう。


あの一件以来、令嬢たちの間だけでなく、王城内でもエリゼオに秘密の恋人がいると持ちきりらしい。


「おかげで、なにをするにも見張りがつくようになったよ。抜け出してくるのも容易じゃないな、まったく。風魔法で駆け抜けて、やっとだ」


と、本人は紅茶のカップに口をつけながら、愚痴を漏らす。


今のところ、わが家はまだ安全だ。

まさかしがない男爵家に、王子が入り浸っているとは思わない先入観のせいもあろう。



とはいえ、おちおち油断していられるかといえば、そうじゃない。


よもやの事件で少し早めることとなるのは不服だが、次なる大イベントを起こさねばならないかもしれない。


「エリゼオさま、決行は今夜にしましょうか。これ以上は危険が増すだけです」


ネクストにして、これがラストでもある。

恋愛倒錯シナリオのフィナーレだ。


「……そうか、今夜か」

「なにかご都合が悪いですか?」


「いや、もう数日待ってもいいんじゃないかなと思ったんだ。王城は今ざわつきすぎているからね、少しは落ち着くのを待ってからでもーー」

「待ったらダメなんですよ。この勢いのままラストは駆け抜けないと」


噂が加熱している今だから、やる意味がある。


そう、私は理路整然と訴えるのだけど、エリゼオ王子の態度は決まりきらない。


…………うーん、ここにきて元の優柔不断な彼に戻ったみたいだ。


特段はっきりとした理由を述べずに、彼は私の提案を渋る。


「うん、このほうれん草ソテーは美味だね」


なんて、フォークをくるくると回し、料理話にうつつを抜かそうとする。


一度変わったと思ったからこそ、この後に及んでの逆戻りは前にもまして、がっくりときた。


こんなふうでは最後のイベントが思いやられるったらないが、これ以上のタイミングはもうないのだ。


「とにかく今夜ったら今夜です!!」



失礼だとか、そういう気持ちはどこかへすっ飛んでいた。


霧崎祥子としてゲーム機の前にいる気分で、私は机をどんと叩く。


エリゼオはといえば、その存外につぶらな目を丸くしていた。


「それ食べたら、もう帰ってください。今夜、やりますよ!」

「…………とんでもない圧だな。令嬢とは思えないんだが」

「悪かったですね、変な令嬢で! とりあえず、今夜ですから! 私は準備しますよ」


最終的には、そのまま押し切ってやった。



王子にそこまで強気に出るなんて、と。

周りのメイドや執事たちが恐々としていたのは、いうまでもない。



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