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19話 夜中の襲撃も撃退してくれる?


「あぁ、もう真っ暗。お母さまに怒られちゃうかも」


着替えを済ませて、私が衣装室を出たのはもう日が暮れる頃だった。


作戦がうまくいったからなのか、エリゼオ王子の機嫌はすこぶるよかった。

おかげで私も乗せられて、庭でまったり夕日が落ちるのを見たりなんかして。


うっかり、少し話し過ぎてしまった。


「僕のわがままに付き合わせたんだ。家まで送ろう。君の家からの帰り道ならば、よく把握しているからね」


彼はこう申し出てくれたが、とんでもない。


毎日のように会っているから現実味こそないが、王子が下手にふらつく方が本来はよっぽど危ないのだ。



家までは大した距離でもない。ご好意だけを私は受け取ることにした。


正面から出れば、衛兵らに不審に思われる可能性もある。


エリゼオに教えられた裏の通用口から、私は外へとでた。


ほんの一部の上流階級しか知らない秘密の道らしい。

世間には公にできない逢引なんかに利用されることが多いんだとか。



なるほど、たしかに隠し通路だった。

雑木林の間を縫うように作られた道が細々と続いている。ここを抜ければ、街まで繋がっているらしい。


さすがに裏手の道だけあって、魔導街灯の一つさえなかった。

私はエリゼオに借りた提灯チックな明かりを前へと掲げる。


その不安定なオレンジの光に、まるで肝試しをしているような気分でいると、草むらががさりと揺れた。


「間違いない、こいつだ! 誰だかしらねぇが、すまねぇな。お嬢様の怒りを鎮めるためだ!」

「……………へ!?」


飛び出してきたのは、人だ。暗さで、それくらいしか分からない。


気配が一気に濃くなったと思えば、それが五つ、六つと増えていった。


まったく対応できず、足をすくめているうちに、取り囲まれてしまう。



「お前たち、たかが女一人だ。団結してかかれば、造作もない」

「へっ、分かってるつぅーの。捕まえて、貧民街に放り込むんだろ? 全く趣味が悪いよ、ジュリアさまは」


襲撃の首謀者の名を聞いて、はっと息を呑む。



油断しきっていた。

もう今日のイベントは乗り越えたと思っていたし、シナリオは正しく実行されているはずだった。


それが、はずでしかなかったらしい。


ここにきて想定シナリオ外の事件だ。

思わず声をあげそうになるが、喉元でこらえる。


ここは秘密の通路、高貴な身分の人間くらいしか存在を知らない。

たかが男爵令嬢の私がこんなところにいるとバレたら、誰かが逃したことは自明の真理だ。


つまり、私とエリゼオの関わりが公になってしまう可能性もある。


私の身分がここでバレるのは、展開上とてもよろしくない。


ここは魔法を使って凌ぐ……? よぎるけれど、あぁそれも証拠となって私に繋がってしまうかもしれない。


「おら、刀の峰で頭を叩きゃあ意識くらいは飛ぶだろうよ!!」


振り上げられた凶器を見て、ひっと喉が引き攣る。


明白な害意に晒された経験は、現代日本でぬくぬく生きてきた私にはない。

結局頭を抱えてうずくまるしかできなくなっていると、


「だから、危ないと言っただろう?」


キィン、と金属音が私の頭の上で鳴る。


恐る恐る目を開けてみる。


そこには、ソードを手に男の攻撃を防ぐエリゼオの姿があった。


そこからは圧巻だった。


「僕の風魔法剣技は、王家御用達の剣の達人に鍛え上げてもらったんだ。悪いけど、相手にならないよ」


圧倒的な立ち回りで、六人の敵を簡単に敵を組み伏せる。


私が何かするまでも無かった。呆然と見ていたら、


「ほら、行くよ。やっぱり僕が送ろう。大丈夫、彼らの服を借りれば変装もできるさ」

「なんで、ここに!?」

「やっぱり心配だったからね。こっそり見送りにきたんだよ。さぁ、それより行くよ」


手を差し伸べられた。


思考が思考になりきらないまま、私は彼の手を掴む。

二人歩き出してから、やっと心臓がどくどくと鳴り始めた。


優柔不断だとか、元カレそっくりだとか、画面の前で酷評していたキャラと同じとはもう到底思えない。


今の彼は、正真正銘のヒーローだった。


「……随分、逞しくなったんですね」


素直な感想が溢れる。


「礼より先にそれか。あはは、君はやっぱり面白い」

「いえ、その、ありがとうございますとは思ってますよ。けど、それより先に、なんというか変わったなと思いまして」


「ふふ。そんなつもりはないんだけどね? 君は僕に無償で協力してくれているんだ。そんな有難い人のために身体一つ張れないようじゃ、いけないだろう」


それより、と彼は話を変えた。


「どうして叫ばなかったんだい?」

「えっと、バレたら計画が頓挫するかもなぁと思いまして」

「はは、どこまでも君はシナリオに真剣だな。

 でも、身の危険は顧みてくれよ。君がいなくなったら、それこそ頓挫だ。それに僕は君がいなくなる方がよっぽど――――いや、なんでもない。とにかく安全第一だ」


口元に手を当て、彼は言葉を濁す。

言外に含まれた意味を汲むような余裕は、今の私にはなかった。



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