12話 あれ、エリゼオ王子は情けないキャラだったはずじゃ?
私はカウンターの下、彼の高そうなシャツの裾を引く。
まともに相手するだけ無駄だ、と小さくゆすることで伝えたつもりが、
「大丈夫だ。こんな奴はすぐに追い払ってみせるよ。もちろん、君にもこの店にも危害は加えさせない」
逆効果になった。
ディエゴは血の気が多い男である。ただのアイテムショップの店内が、またたくまにまずい雰囲気に包まれる。
「随分な自信だなぁ、おい。どこの馬の骨だぁ? こんな令嬢やめときな。俺のお下がりだぜ?」
「残念だけど、そんなことで手を引く気はないよ。それに、僕は馬の骨じゃない」
「ハンッ、俺は貴族だぞ? 炎魔法だって使える。もしかしたらうっかり事故で、この店を焼いちまうかもなぁ。浮気されたんだ。それくらいやっても罪にはならねぇだろ?」
なんてことを言い出すのか。それだけは許せない!
私は思わず立ち上がるが、エリゼオは腕を開いてそれを止める。
「アニータ、君が出るまでもないよ。僕がどうにかしよう」
「これだけ言っても自信満々とは、正気じゃないな。なら手始めに、そこにある高そうな腕輪を焼いてやろうかっ!」
もうディエゴは正気の範疇を超えてしまっているらしい。
炎魔法を腕に纏わせて、カウンター奥にある白水晶の腕輪へと手を伸ばす。
私は咄嗟にそれを背中に隠さんとするが、
「……………なっ、どうして」
もう火は消えていた。
「口ほどにもない魔法だね」
と、にこり余裕の笑みを見せるのはエリゼオだ。
「な、なにをしたんだ、てめぇ! まさか貴族? 魔法を使えるのか! どこの家のものだ」
「魔法を使えるのは、その通りですよ。でも、家まで答える義理はないね。それに聞かない方がいいと思うな」
彼は、ただ触れるようにディエゴの胸に人差し指をとんと立てる。
それが、予想外の結果を生んだ。
「な、なんだこれはっ!!」
ディエゴはその胸を抱えるようにして、後ろへ弾き飛ばされる。
うまいこと、店の商品や人には当たらずに、入り口の扉にそのまま腰を打ち付けていた。
風魔法ーー。たしか説定上、彼は光魔法と風魔法の二種類を使えたはず。
そう分かりはするが、私の知っているものとは威力の次元が違う。
ディエゴはそこそこ魔法を使える側の人間であるはずだが…………ものの一撃であっさり伸びていた。
「まだやろうって言うなら、次は容赦しないよ」
周りにいた部下たちが恐れをなして、カウンターから逃げるように離れていくまでは、すぐであった。
泡を吹いているディエゴを抱えて、すごすごと出ていく。
なんと、あっという間の退治劇だ。
「ふぅ、変な輩もいるものだね」
エリゼオはいつもどおり笑顔を絶やさないが、まさかこんなに強いとは思いもしなかった私は、目を丸くする。
ゲーム中ではあまり扱われなかった特徴かもしれない。
気弱ではあるが、エリゼオは魔法の才に長けているのだ。
「あれとは、どういう関係だったんだい? と言っても、想像はつくけどね」
「その想像どおりですよ、たぶん。元婚約者なんです」
「………….君も災難だね。僕よりひどいんじゃないか。あんな輩と付き合っていただなんて」
「かもしれませんね。でも婚約破棄されて今は他人ですし、清清してますよ。
とにかく、ありがとうございました」
もし一人の時にあんな風に絡まれていたら、どうなっていたことか。
って、そもそも私ならもっと穏便に済ませてたわね。
荒事には発展させなかっただろう。
ん? でも、おかしい。
普段のエリゼオならば私と同じ方法を選びそうなものなのに。
「どうして戦おうと思ったんです? 正直意外でしたよ。穏便に終わらせるものかと」
「……ちょっとね。君のことをあまりにも蔑むものだから、イラッとしてしまっただけのことだよ」
「…………それは一応恋人だから、ってことですか?」
「少し違うね。恋人役をしてなかったとしても、たぶん退治してたよ」
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