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11話 元彼に馬鹿にされてきた貧乏居酒屋メシ、王子に絶賛される。


「お嬢様、でも、なにを作られるのです?」

「簡単なもの、すぐできるもの。とにかく急いでるの」


フライパンなどに残された食材を見れば、彼らが必死に試行錯誤した跡が伺えた。


各種野菜に、肉や魚、パスタ、香辛料の各種ーー。

ありとあらゆる食材、調味料が類が調理台の上に散らかっている。



冷静に考えると、王子の来訪って一大イベントだものね……。


「みんな、急に王子が来るなんて伝えちゃってごめんなさい」


私は反省の弁を述べながら、豚肉……いやいや魔物・イノタンの肉を手にする。


そう、このお肉は豚肉に似た味なのだ。さらに言うなら、この部位はバラ肉そのものだ。


だったらば、ですぐに動いた。


春キャベツとニンニク、オリーブオイルと一緒にさっと炒める。最後にレモン汁を絞ったら、春の爽やか野菜炒めの完成だ。


「な、なんて単純な料理を作るんですか、お嬢さま」


失礼な。これでも一応、毎日あのクズ彼氏に飯を作ってきた身だ。


と言って、こんな簡単レシピばっかりだけどね。

もっとも得意なのは、おつまみだ。


シナリオ仕事をしながら、さくっと食べて、洗い物も少なく済む。


言っていたら恋しくなって、きゅうりのオリーブ塩漬けを作ってしまった。


制作時間、計5分だ。


「せ、せめて私たちがお運びしますよ」

「これくらい大丈夫大丈夫。みんなは、適当にパスタ茹でて、とりあえずでいいからご飯作ってくれる? いつも通りでいいの」


そうして早回しで作ったご飯を盆に乗せて、私はまた廊下をダッシュ。

エリゼオ王子の元へと持っていく。


「大変お待たせしました!」


ゆっくりと席を立ち、私を見るその顔は唖然としていた。眉間が引き攣っている。


「…………君は本当に変わっているな。もしや、自分で作ったのかい?」

「令嬢らしからず申し訳ありません。えっと、見た目は地味ですけど、きっと美味しいので、どうかこれで」


「ありがとう。でも、そこまでする必要はなかったのに」


そこまで、というのは私が息を切らしているから言ったのだろう。


「あなたは王子ですもの。むしろ、これじゃあ失礼なくらいですよ。とりあえずお食事にしましょ?」


私は料理を手に、テーブルへと運ぶ。

そのまましれっと向かいの席に回り、手を合わせる。何の気なしにフォークを手にしようとして、やっとストップ。


そうだ、ちゃんとお作法を守らなければいけないのだった。


本来ならば席はメイドに引いてもらわなくてはならないし、ナプキンも膝に乗せねばならない。


自分で料理を作ったせい、つい日本での感覚になってしまっていた。


「君はなぜ、そこまでしてくれるんだ?」


彼は椅子に座りながら、私に再度問う。

全く同じ解答をしようとするが、そうではないらしい。


「今回に限った話ではない。改めて思ったんだ。こうしてるとよく分かる。好意もないのに、金銭の授受も断るのに、こうして協力してくれる理由が気になったんだ」


考えるまでもなかった。だって、誰もが頷くような深い理由も、裏もない。


「ただ放って置けなかっただけですよ」

「……それだけ?」


そう、それだけ。

元カレに雰囲気が似ていることも、一切関係ない。


「目の前であんなにくよくよされたら、こっちの寝覚めまで悪くなりますから。あ、あと私のシナリオが通用するか力試しがしたかったんです!」


せめて嫌いなゲームのシナリオには打ち勝ちたいところよね。絶対に本編より早く、エリゼオを救ってみせなければ。


シナリオライターとしての腕の見せ所だ。


私はぐっとフォークを手にしたまま拳を握りしめる。


「……そうか。やはり君は変わっているよ」

「悪かったですね、変な令嬢で」

「いや、むしろ感謝したい。君みたいな変わり者でなければ、僕の悩みを知って、わざわざ救ってくれようとはしないだろうしね」


褒めてるんだが、褒めてないんだか。


こんなところまで、どっちつかずだ。

でも逆に言えば、私の解釈で決めてしまっていいということかもしれない。


ならば、とりあえずはプラスに受け取っておこう。


作法を最初からやり直したのち、私たちは料理に手をつけ始める。


質素かつ豪快な私の手料理を、エリゼオはわざわざナイフで切り出しスプーンに乗せて上品に舌へと運ぶ。


「また変わった味だ……」


ざっと作ったから、何か味付けを誤ったろうか。

不安になりつつも手をつけてみれば、私にとってはとても懐かしい味だった。

イノタンの豚そのものな脂と胡椒の効き具合が、私に日本を思い出させる。


「悪かったですね、変なお味で」

「いいや、これは気に入った。今まで散々色々なものを食べてきたが、その中でも一二を争うほどだ。なんだ、ついもっと勢いよく流し込みたくさせる、とでも言おうか……」


存外に、王子の舌はコッテリをご所望だったらしい。


ふと、私の料理に「テキトーだ、マズイ」とケチをつけ、カップ麺を取り出していた元彼の顔を思い出す。


雰囲気は似ていても、違う人だ。

あたりまえのことを思って、私は少し嬉しくなった。


料理を褒められるのは、素直に嬉しい。





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