第1章 メディアクラシー
2011年3月11日、東日本大震災が勃発。しかし、浩志の住んでいた所でも大きな地震が幾度か続いたものの被害は特に出なかったので、休暇で自宅にいた浩志は夜の見たい番組が始まるまで能天気に昼寝していた。だが、当然ながらその見たかった番組は中止になり、震災に関するニュース特番が組まれていた。浩志は夜になってもニュース特番が続くほど大きな被害が出ているとは夢にも思っていなかったのである。
一方で同年同日、福島第一原子力発電所はメルトダウンを引き起こしていた。
浩志は担当記部署では無かったが、福島第一原発の事故と東日本大震災の被災状況のことで社内はごった返しになっていた。社内が落ち着くのはそれから2ヶ月ぐらい経ってからである。
社内は落ち着きを取り戻しつつあったが、浩志は内心動揺していた。絶対に安全だと思っていた原子力発電がメルトダウンを起こしたからである。しかし、浩志は担当記部署ではなかったし、まだ情報が乏しく福島原発の事故状況をあまり詳しく把握していなかったのである。だからこそ余計に落ち着かなかった。
状況が分かり始めてきたのはその年の12月頃である。徐々に情報が把握でき始めた。それまでは情報が入り乱れすぎており、どれが正しい情報なのか整理がつかなかった。12月になってからようやく情報が落ち着いてきたのである。
浩志「なんだ、津波が原因で原発事故が起きただけで、耐震強度には問題が無かったのか…。」
浩志は、福島第一原発の事故が起きた原因について段々とその詳細を飲み込んで行った。原発の事故の詳細が分かれば分かる程、原発事故は防げたのではないかと言う疑問が沸いた。原発事故の要因は津波の他に、ノウハウ不足・ヒューマンエラーが多い事を知った。
浩志は、原発事故の情報が分かってくるうちに、津波やヒューマンエラーの他にも福島第一原発の構造にも問題があったのではないかという事が分かってきた。
原発事故の情報は、知れば知る程「原発は危険」という思考には結びつかないものであった。普遍的な考えなら「問題がある部分がはっきりしたのならそこを克服すれば問題ない」と考えるのが普通だからである。
だが、愚かなメディア各局は違った。「原発=危険」であると決めつけて全ての原発が危険であるかのような印象操作を行ったのだ。そればかりか、「脱原発」「原発0」等と言う非現実的な理想論を掲げだしたのである。
しかし、メディアとは真逆に原発の事故について調べれば調べるほど、「原発は危険だとは言えない」と浩志は確信していくのであった。
ロザ「原発事故は地震のせいじゃなく、津波のせいだったのね。」
浩志は恋人のロザ・聖子に原発について話した。ロザは情熱的な真っ赤な瞳と紅蓮の赤色のS字型に大きく歪曲した長い髪で、その地面にまで届く長い赤髪は先端がくりんと大きくカールしている。独特のヘアスタイルの美女だ。
浩志「そうだ。原発は地震には強い。」
ロザ「でもテレビや新聞では原発は危険で無くすべきものとして報道してるわよ。」
浩志「そうだ。だが、東日本大震災が起こるまで他の原発は問題なく稼働していた。そもそもチェルノブイリで原発事故が起こった後もメディアも問題なく原発の安全性を説明し続けていたのに、なぜ福島原発事故が起きた途端、原発が危険だと言い出したのか?東日本大震災が起きた途端全ての原発が危険になったとでも言うのか?」
ロザ「でもそれはチェルノブイリの原子力発電と日本の原子力発電じゃ構造が違うって言われたからよね?」
浩志「うん。だからこそ、福島第一原発と構造の違う原発もあるのにその事実を無視して原発が一律に危険だと言うのはおかしいんだ。福島原発はBWRでそれと同じ型の原発は国内に29基しかないんだ。つまり、残りの原発を危険だとする根拠はどこにも無いんだ。」
ロザ「じゃあ、福島第一原発と同じ型の29基の原発は危険なの?」
浩志「いいや、そうとも限らない。津波対策が不十分だったのが福島の原発事故を引き起こした最大の原因なんだ。ならば津波対策さえ怠らなければ残りの原発も安全だといえるだろう。ただし、福島第一原発の事故が起きた要因として津波の他にBWRは構造状の問題も指摘されている。」
ロザ「……結局、BWRも安全なのね?」
浩志「いやいや、BWRは格納容器の圧力によってSR弁が開きにくくなる構造になっているからそこを改善する必要もある。また、ベントによって排気管から水素が逆流してしまう危険性がある場合は、逆流しないようなフィルターを設置しなければならない。」
ロザ「……じゃあBWRはやっぱり危険なの?」
浩志「いやややや、そうじゃない。構造の問題がはっきりしているんだからそこを改修しさえすれば安全だと言える。福島第一原発がメルトダウンした原因は作業員のヒューマンエラー・ノウハウ不足、そして予備のバッテリーの準備不足なども挙げられているから、福島第一原発事故で得た教訓とノウハウを活かした訓練と予備のバッテリーの準備さえ怠らなければもはや怖いものはない。強靭無敵だ。」
ロザ「…なるほどね。」
ロザはフサーと綺麗な長い髪の毛を得意げに掻き揚げた。
浩志「分かってくれたか?!」
ロザ「…よく分からない。」
浩志「…………。」
ロザ「テ、テレビのニュースとかではビーダブリュアールなんて話やってないし……。」
浩志「ニュースではなぜ原発の型・構造の違いについてきちんと説明しないんだ…。」
テレビのニュースでは驚くほど原発の型や構造について触れない。型について触れる報道があっても、福島原発と同じ型の原発が29基もあると、不安を煽るようなものばかりで、具体的な型や構造の違いや改善策の説明をするニュースは全くと言って良いほどに無かった。チェルノブイリ原発事故の時は散々型や構造が違うから安全だと報道したメディア各局だったが、29基以外の原発が福島原発とは型や構造が違うから安全だとは全く報じないのである。浩志の新聞社もそうであった…。
浩志の新聞社も東日本大震災後から突如「脱原発・原発0」を社是とした報道を行っていた。
浩志「編集長、なぜチェルノブイリ原発事故の時のように『福島第一原発とは型が違うから安全』と報じないのですか?」
上司「社の方針ですからねぇ。他紙でも同じような報道姿勢ですしそれに追従しているのでしょう。」
浩志「社是に合わない事実は報道しないという事でしょうか?ジャーナリズムとして自滅行為なのでは?」
上司「事実を伝える事と主張する事を同時にやるのが新聞ですからねえ。主張と合わない事実を報じないのは当然の事ですよ。」
浩志「事実を伝える事と主張する事は全く別の作業なのでは?」
上司「『報道しない自由』と言う言葉を知った方がいいですね。事実を伝える事と主張する事を混在しているのが新聞なんですよ。」
浩志「それではジャーナリズムと呼べないのでは?」
上司「ジャーナリストとは独立した個人が行えば良いもので新聞社やその記者はジャーナリズムよりも社益・社是が優先なんですよ。メディアはジャーナリストじゃないんです。」
浩志「メディアの記者と個人のジャーナリストは違うと仰るのですか?」
上司「そもそも独立した自称ジャーナリストだって、私情や自論にそぐう事実を積極的に集めているだけだと思いますがねえ。所詮は商業ジャーナリストです。報道の裏には必ず社益や私情が絡むんです。こちとら慈善事業で報道しているわけじゃないんですから。」
上司は恣意的な報道や偏向的な報道には全く罪悪感を抱いておらず、社是や自論を前提として情報を集めるのは当然だと完全に開き直っていた。この上司に限った話ではない。日本の全ての新聞社・テレビ局がこのような体質だったのだ。
事実を伝える事よりも自分(達)が正しい事を証明する事を優先する。それが日本のメディアの報道姿勢だった。