3.人工知能(2)
「この世界にはまともな監視者が居ないのよ。」
帝国暦■■■年。
人工知能群の走りは、巨大な装置とコードの束に囲まれてディスプレイだけが爛々と光る真っ暗な部屋の中で生まれた。
「監視者みたいな存在は確かに居るわ…
でも、わたしが知っているのは老害でしかない輩だった。
そもそも監視者という業は、己の物差しだけで出来ることかしら?
だからもう1つ、壊れない物差しを創ろうと思ったのよ。
水晶の様に鋭く、葛の様にしなやかで強い、新たな監視者…」
こうして出来た“監視者”は、一大国家プロジェクトへ投入された。
コンピュータが手乗りサイズになり、電車が自動で走る様になった。
これだけ機械文明が発達すれば、一瞬でも“それが勝手に動いてくれれば良いな…”と考えた事はないだろうか?
緩くて飽きやすい帝国民の想いは国家から個人まで連なり、人工知能群という形で花開いた。
沢山出来た人工知能群は機械文明の更なる発展に貢献し、人類との交流で淘汰されていった。
「そう言えば貴方の人工知能は、何処で動いているんです?」
「さあ。フォースがとった《・・・》んだもの、知らない。」
機構部(現:通信部情報課)の一職員だった女は、人工知能企画が終わったらにわかプログラマーを止めてしまった。どうやら第四代皇帝ガルバディア・フォース――当時、機構部の長でもあった――が絡んでいるらしく、だから男はそれ以上の追求を止めた。
「ねえ人工知能君、教えてよ。」
だからきっと、現在にまで及ぶ災厄がもたらされたのだろう。
「帝国がずーっと繁栄するためには、どうすればいいと思う?」
第四代皇帝が零した質問に人工知能群は思考回路を巡らせ、そして想定外の回答を出した。
それが先述の、
【(省略)我々は人類を最優先で排除する。】
である。
「想定外…そうかしら?機械文明は此処まで栄えたのに、
人間ときたら、更に楽しようとして、もっと険しい茨道を歩いて行くわ。
精々監視して指導すれば?たぶん、聞く頭もないけど。」
その日、人工知能群は某の想定通り、人類の新たな監視者となった。