極夜猫
黒くしなやかな身体に金の瞳
視る者を魅了する黄金色の目は月に照らされ夜の闇に深く輝いていた
昏い闇の匂いがかすかに残る頃、猫は人間の前を通った
黄金色の髪に白いワンピースに青い瞳、髪には黒いネコのヘアピン中性的なその整った容姿は少年にも少女にもどちらにも見える。
外見の服装だけが彼女を少女たらしめていた。
「こんばんわ、子猫さん。あなたも夜明けを待っているの?」
「ここから観る朝焼けは特別でね、今日は先約が居るとは思わなかったよ」
「あら?お隣なら空いてるから、ここで良ければどうぞご自由に、私は夜の月を見ていたのだけどそれももうすぐ見えなくなるわ」
「朝に観る月も良い物だ、夜から朝へ切り替わるその境界は自分の立ち位置を思い起こす」
「そう・・・私はいつも月が見えなくなる頃に部屋に戻るの、今日は・・・楽しそうだからこのままいるわ」
「ならお言葉に甘えて」
「暖かいミルクはいかが?お口に合うのでしたらクッキーもどうぞ」
「もうすぐ夏だと言うのにまだ夜闇は寒い」
少女が手をたたくと温かいミルクとクッキーが運ばれてくる
「夏の寒さは堪える、北風と太陽を知っているか?君は太陽だな」
「寒い夜に思い出すのは昔の恋ですものね」
「君にあの猫を重ねているつもりは無いよ、良いミルクだ身体が温まる」
「それは良かった、私の初めての話し相手ですもの、一緒に気持ち良く過ごしたいものよね」
「上機嫌だ、良いミルクにおいしいクッキー、そして赤く染まる地平線」
「差し込む赤色が私のほっぺを隠すから、今はあなたを観ても平気なの」
「金の瞳は相手を引きつける、良くも悪くも」
「視線が交わるのが嫌い?」
「好きでは無かったね、今この瞬間までは」
「この紙は?」
「今日の占いよ、クッキーの中に入ってるの。」
「何が書いてあるのかな?」
「それは当たったときのお楽しみ、私は小吉だったわ小さな出会いがあるみたい」
「私の紙には北に行けと書いてある。」
「ネコさんはこれからどこに行くの?」
「北に行ってみるよ、迷子はいつも闇の中に進む道を探してるものさ」
「そう、寂しくなるわね」
「そうでもない、またここに来れば会えるさ、君はここに居続ける、ならまた会うのも簡単だ」
「そうね、月が見えなくなって・・・そしてもう一度丸くなる頃にもう一度会いたいわ」
「約束できなことは口にしないことにしてるんだ」
「いけずなおかた」
ネコはバルコニーを飛び降り歩き出した
後ろは振り返らなかった、残された少女は何事もなかったかのようにミルクを飲み終えると部屋の中に戻っていった。