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全て満月のせい  作者: 史音
2/10

素敵な部屋とイケメンのせい

やっぱりというか、予想通りというか、川原の住んでいるマンションは綺麗で高級そうなマンションだった。家の中も整理整頓されていて、置いてある家具もいちいち小洒落ていて、そしておそらく高くていいものだと思う。

つまり、女性が見たらほぼ100%の確率で素敵だと褒めるような部屋だった。


どうして100%でなくて、ほぼ100%なのかといえば、私がいるからだ。


私はこういうオシャレすぎるところは嫌だ。

汚したらいけないとか、どうでもいいことを考えてくつろげない。

少しくらいごちゃっとしている方が、こっちもぐうたらしやすい。


男性の好みと似ているかもしれない。

格好良すぎると、気が抜けない。

神々しいくらいカッコいいより、身近に感じられる方が、気も使わなくていい。

気取らずにたくさん甘えられる気がする。



だけど、私の目の前にいる神々しいくらいカッコイイ男は、相変わらずキラキラした笑顔で私を振り返った。

夜になっても、場所がキッチンという生活感満載の所でも消えないイケメンオーラって、素直にすごいと思う。


「何飲む?ビール?」

「ビール以外って何があるの?」

「なんでも。好きに見ていいよ」

そう言って冷蔵庫を開けたから、私は遠慮なく中を物色する。ビールもワインも日本酒もあった。入手困難なものもある。お酒好きなんだと思った。

でも二人だし、わざわざワインを開けるほどでもない。私はひとまずビールに手を伸ばす。

「とりあえずビールで」

2本取り出して、1本を川原の前に置いた。私は勝手に缶を開けると、早速一口飲んだ。それを見て川原が驚いた顔をする。

「え、普通待たない?」

「あ、ごめん」

川原が何やら冷蔵庫や棚からあれこれ出している。おつまみを用意してくれるらしい。ちょっと気まずくなって慌てて遠慮する。

「別におつまみとか、気にしなくていいよ」

「いや、俺も食べたいから」


こういう返事もいちいち出来過ぎだと思う。


コイツのナチュラル女子ウケ対応は、軽くスルーするのがいいとこの短時間で学んだ。私はビールを一口飲んで、それをキッチンのカウンターに載せると、今度は手を洗った。

「これ、お皿に移せばいいの?」

川原が出していたチーズとこれまたオシャレなお皿を見て尋ねると、頷いたからその仕事を引き受ける。

「私、先に飲ませてもらったからこっちをやる。川原も飲んでよ」


さっき非難がましく言われたから、お返しのつもりでそう言ったのに、川原が驚いたような顔をした。だけどすぐにいつもの女子ウケの良さそうな顔をして、

「じゃあ、お言葉に甘えて」

なんて言って缶をあけてビールを飲んだ。


だから、気取った態度はいらないんだけど。

口元まで出かかって、飲み込んだ。

ご馳走になっているのに文句ばかりってわけにはいかない。


川原が飲んでいる間に、出されていたミニトマトを勝手に切ってオリーブオイルと塩で和えていると、隣からにゅっと綺麗すぎる顔が伸びてきた。私の手元を興味深そうに見ている。

「水村って料理とかするんだ」

超至近距離で私の目を覗いてくる。


まな板に向かう私の両隣を囲むように、だけど意識しすぎないくらいの程々の遠いところにヤツの両手が突かれている。

近すぎると怒られたり、嫌悪されない絶妙な距離。

だけどもし、相手が自分に好意を持っていたら、思わず胸をときめかせてしまうくらいの距離。


普通の女子にはいいかもしれない。だけど、私的にはアウトだと思う。


距離近いって、そう思ってげんなりとしながら私は軽く肘でその体をどかす。

あなたみたいに至近距離に耐えられる顔じゃないんだけど、と軽く睨む。だけどニヤニヤしながら川原は私から離れて、テキパキと冷蔵庫を開けてレンジを動かした。


「あとは?」

川原はお皿とグラスを持ってリビングのローテーブルに置くと、私を振り返った。

「好きに飲んでてよ」

「あれ、どっかいくの?」

それならそれでいいけど、って気持ちで軽く言ったのに、川原は私の目の前に立って、呆れたように笑った。


「どこも行かないよ」

クスリと笑うと体を曲げた。私の顔の目の前に綺麗な顔が見える。

そのいい方は、まるで自分がいなくなることを私が心配しないようにと、気を遣うようなものだった。


「俺、着替えてくる」

そう言って、右手で私の頭を軽く撫でて、通り過ぎた。


そういう余計なことは要らない。

だけどそれを言う前に、ヤツの姿は消えて行った。




部屋の中を見渡すと、リビングのソファの前のローテーブルには生ハムやらチーズやらが置いてあった。

いつの間にこんなにたくさん用意したのか、マメだなあと思う。


私はテーブルの前の床に座り込んで、一人ビールを飲む。ビールを空けてしまい、おかわりと思ったけれどそうもいかないと、自分を押しとどめる。キッチンを覗いたら、オーブンで何かが焼かれていて、香ばしい匂いに食欲をそそられる。


イケメンが食事やお酒をさっと用意してくれて、なんだか出来過ぎだな。と思う。だけど次の瞬間、どうせこんな風に持ち帰った女子を、いつもかいがいしくもてなしているんだろうと想像した。

コイツなら、簡単にできるだろうし、こんなふうにされたら大抵の女の子は喜ぶだろう。


なんというか、全ての言動が女子ウケ抜群だ。

普通でいいんだけど。もてなしてもらっているのに、不満をこぼす。

世の中の女子に受けるものは、私には効果はない。


心の中で文句を言うくせに、私はなんだか落ち着かなくて、ビールをぐいと飲んだ。


この家が素敵すぎるから、いけない。

だからこんなに落ち着かないんだ。






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