第一章 第三節 招かれざる客
「た、助けてくれぇ!!!」
その日は突然訪れた。
そう……小鬼に殺されかけ、その上師匠にまで半殺しにされかけた昨日の今日にだ。
疲れを感じた身体を酷使しながら、教わったばかりのポーション製作を延々と続けていた。
繊維を多く含んだ月輪草とまだ完全には液体化していないルポーションが入った窯にかき混ぜ棒を突っ込み力を入れる。
……途方もなく本調子とは言えない体調にはあまりにあんまりな仕打ちだ。
『どうだ、ギルベルト。良い修行になるだろう。』
作業開始前、突っ込んだ棒の感触にげんなりした僕にフィーネさんは真面目なのか皮肉なのか良くわからないことをいつも通り平坦な口調で語りかけてきた。
その表情は変わることがあるのかと思うほど常に無表情、ウィットに富んだ言葉はジョークなのか発破をかけて激励しているのかすら結局分からない。
謎のプレッシャーに『頑張ります』の一言しか囀れないまま棒を動かし始めて数刻が過ぎていた。
そんな切実さとは裏腹にそんなことはお構いなしと言わんばかりの凶報。
具体的には店の入り口の方から男性の命からがらの叫び声がした。
「……なんだってこんな時に!」
そこには商品の管理と店番をしているフィーネさんもいるはずだ。
釜から引き抜いて手に持ったままの長い棒は粘着物をまき散らせたが構わない。
そのまま急いで調合室を出て右折、突き当りには右に在庫用倉庫。左は店頭。
出会いがしらでも棒を叩くか突き込むことができるように構えて左の部屋に飛び込むかのごとく突入する。
「フィーネさん!!」
・・・真正面、店頭の中央にフィーネさんがいた。
中年の男を足蹴にしながら左腕の関節をキメた姿で。
「おい、五月蠅いぞギルベルト。少し黙っていろ・・・尋問中だ。」
「・・・」
「ふㇶイイいいい・・・っ!」
頬を踏まれ歪ませられながらも満更でもなさそうな顔をした男の姿はしばらく経っても忘れられないほどの不快さを僕に刻み付けた。