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『白椿の魔女』  作者: ハイドレンジア(Hydrangea)
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プロローグ

はじめまして、創作チームHydorangea/ハイドレンジアです。


初心者ながら無謀にも空想を形にしたいという欲望のままに白椿の魔女を執筆させていただいております。


勇往邁進していきたいと思いますが小心者のためお手柔らかにしていただけると生き永らえることができそうです。


自分たち自身を含め、物語を楽しめるように筆を執っていきたいと思います。

宜しくお願いします。


by チームハイドレンジアの誰か。

雪が舞い散る。


足も頭もフラフラするけれど急がなきゃいけない。


歩を進めようと決心し、顔を上げる。


瞳に映ったのは、一つの椿の木。


遠目に見ても分かる。


白い花をつけているようだった。


(白い・・・はな・・・?)


妙な違和感は恐らく花の色だ。


息も絶え絶えで余裕はもう、ない。


それでも僕は不思議な木に吸い寄せられていく。


いうことをほとんど聞かない右の脚を引き摺りながら。


(やっぱり・・・白椿だ。)


白椿は夏椿とも呼ばれる通り、夏に咲く。


冬に咲く椿は赤い花の方で凍って白く見えるだけかもしれない。


しかし、近づいて見てみても変わらず。


眩ささえ感じる、白く美しい花が咲いている。


その姿に恥じぬように、白椿には2つの花言葉がある。


一つは『完全なる美しさ』


二つは『至上の愛らしさ』


「き・・・れぃ・・・っあ!?」


花に視線を合わせてさらに三歩。視界が暗転した。


二転三転と世界が回る。


どうやら椿の木の向こう側はちょっとした下り坂になっていたらしい。


僕は見事に足を踏み外して坂下に転げ落ちた。


「ぐっ!」


ところどころの傷口から激痛が押し寄せてきて身が縮こまる。


(・・・ザクッ、ザクッ、ザクッ)


突然、少し離れたところから雪を踏みつけるような足音が近づいてきた。


「・・・おい。」


頭上から少し険のある女性の声が響いた。


「・・・・・・うぅ?」


時間をかけて薄く目を開ける。


「・・・その目、忌み子か。」


目の前には白いマントを羽織った、見目麗しい女性が眉を寄せてこちら見て呟いていた。


美しさと愛らしさが揃った顔立ち、光り輝くつややかな淡い水色の長髪。


妖精と見間違うような。


白椿の花言葉がとても似合う容姿だ。


僕のものとはあからさまに違う。


モフモフな大きな垂れ耳がなによりも特徴的だった。


「・・・その様子だと、「生け贄」にでもされかけたか?」


男勝りな口調だけれど凛とした声が言葉を重ねる。


「あ・・・うぅ・・・」


さっきの転倒が効いたのか、呻くことすらままならない。


そして、しばらくの間が開く。


「・・・チッ。」


僕を見ながら物思いに耽っていた女性は突然怒ったような、苦虫を噛み潰したような顔に変わる。


・・・反応しなかったから怒らせてしまったんだろうか。


しかし、表情とはかけ離れた静かな口調で女性は告げる。


「どちらか、選べ。」


何かの選択を僕に告げる。


「生きるか。野垂れ死ぬか。」


気づけば、意識がまどろみつつあった。


もう限界が近いのかもしれない。


かと言って、心残りも特に思いつかない。


全てが僕の思い込みで成り立っていた。


愚かな子どもの短い幸せ。その代償として嘘と裏切りと終焉が僕を待ち構えていた。


そんな「どうしようもなく救われない少年の物語。」その終わりが来る。


何もかもが最初から無かったように消え去る瞬間が訪れる。


この世界に僕を必要としてくれる場所も人も最初からいない。


そう思うと胸の奥が疼く。


存在する価値など最初からなかった。


奥底の疼きが胸に広がる。


もう何を選んだところで地獄には変わらない。


疼きはとめどなく溢れ、全身を満たす。


「あとはお前次第だ。」


分からない。どうして。なんで。


誰も僕を選ぼうとしないのに、僕は選ばなきゃいけないんだ。


全身を満たした疼きは限界を迎え、決壊する。


僕の目の前がゆがんでいく。熱くなっていく。


目はしっかりと開けているはずなのに、全部が滲んでもうよく見えない。


頬に生暖かい川が流れ、口には海水のように強い塩水が流れ込む。


僕は唇を強く噛みしめる。血が出るくらい。強く。必死に。負けないように。


おぼろげな視界の向こうでは、女性が地面に何かを落とすような仕草をして動き始めていた。


ぽつりと囁くように、しかしはっきりと詞を紡ぐ声が響く。


「答えよ揺らぎ、大地よ印せ。フィーネ・ベルネロイの祈りに歌え。フフラ・グラ・イレギュレント『介抱の揺り籠』」


空気が揺れ、周りの地面が震え始める。


地面から木の根のようなものが勢いよく飛び出し目の前を塞ぐ。


気付けば木の根は周りからも生えてきていたようで僕は木の繭のようなものに包まれていた。


繭の中は思いのほか暖かく、さらにゆがむ視界からは優しい光さえ感じられた。


ある日の暖かな木漏れ日としずかにやさしく揺れている青臭い芝生の布団を思い出す。


思い出せないようなくらい前、あったであろう幸せなあの日が脳裏を過ぎる。


「・・・ちき・・・しょ・・・ぅ」


僕は・・・ぬるま湯のような心地よさに意識を手放した。

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