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虚構の英雄  作者: 花桃院少将
第一章 虚構の王はかく語りき
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第2話 天界

白い朦気が立ち込める朧気な世界に僕はいた。


まるで夢の中に居るような感覚、進んでも進んでも緩慢な動きしかできない。


しかし、僕はこの感覚に覚えがあった。


「居るんですよね?ルナスティ様」

朦気が一際濃い場所に向かって話しかける。

すると………


「はい、久しぶりですね。ユーリ」

朦気が集まり、一人の少女へと変化する。

彼女の名前は魔法神ルナスティ

この世界の実質的な管理者だ。

紫の髪に深紅の瞳、白い羽衣、頭には月桂樹の冠といったこの世界では珍しく女神らしい女神である彼女によって僕たちは使徒に任じられた。

所謂上司だ。


「貴女の元に来たと言う事は僕はやはり……」


「はい、貴方ユーリ・イグナティウスは死に絶えました。」

ルナスティは予想していた通りの言葉を言う。

だがしかし……


「と、言いたいところですが厳密に言えば『死に絶えて』はいません。貴方には選択肢があります」

微笑を浮かべて言う。


「えっと……それって?」

ルナスティの言う意味がわからず戸惑う。

すると


「これを見てください。」

女神が僕の背中からいつのまにか生えていた一本の蒼銀色の糸を見せる。


「それは?」


「【彼岸蓮糸(アリアドネ)】ですね。」


「アリアドネ?」

僕は更に理解が追い付かない。


女神様は「うーん」と唸ったあと「では……この話はご存知ですか?」と言い


「貴方の妹さん……ルーシャ・イグナティウスの加護を?」

と聞く、


それに僕はもちろん


「【リコリス】ですね」

という。


女神様は苦笑いし、「まあこれは正直イレギュラーですけれどね」と付け加えた上で、

「それは半分正解ですね。………実は彼女の加護はもう一つありました。」

爆弾発言をした。

そして更に、

「実は彼女の本来の象徴花は【ロータス】でした。」

語られた事実に僕はただただ驚くだけだった。


それからの女神の言葉をまとめるとこうだ。


・象徴となるものは本人の性格に近いものになる。


・ルーシャには元々守る事に特化した【ロータス】の素質があった。

・しかし、本人が魔王を倒す力を望んだ為と本人に二つの加護を受け入れる素質があったので攻撃面に特化した【リコリス】が象徴花として与えられた。


・そして能力を使ううちに、【リコリス】のみが覚醒した為に【ロータス】が抑圧され、なおかつ象徴となるものに性格が近ければ近いほど使徒の能力は増大するためルーシャの性格は変化した。


「それで……そのアリアドネとの関係は?」

一番の問題はそこだ。


「それについては『覚醒』が関係しています。」

女神は続ける。


「使徒の『覚醒』とは愚直なまでに一意専心を続けた使徒にのみ許された頂です。」

「そして『覚醒』した時、象徴が花であれば『隠された花言葉』に関係する能力が解放されます。」


僕の脳裏につい先程の蒼銀の髪に戻ったルーシャの姿が浮かぶ。

「ひょっとしてルーシャーの【ロータス】が『覚醒』した?」


「はい、その通りです。」

女神は笑顔で答える。


「使徒が二つの加護を『覚醒』させるのは私も想定外でした。」

女神は彼女にはそれだけの素質があったのでしょう……と言い


「その結果として貴方の死の間際に【ロータス】と【リコリス】の力を合成した、彼岸の死者を現世に繋ぎ止める糸、『蓮糸』を無意識に使ったのでしょう」


女神はですが、『蓮糸』も万能ではありません。

と断りを入れた上で


「貴方の受けた魔剣の呪いは『生者』を殺し尽くす呪いであり、死後徐々に遺体から抜けて行ゆく毒のような呪いです。」


「だから直ぐには戻れない?」


「はい、そうです。私の目算では……200年といったところでしょうか?」

200年、余りにも長すぎる時間だ

その間に僕と同じ時間を生きてきた人々は居なくなってしまうだろう……

もちろんルーシャやイザベラ達も


そんな僕の懸念に答えるように女神は

「ただ、妹さんは大丈夫です。」

と言う。


「え?」


「この『彼岸蓮糸』は使用しているだけでかなりの魔力を消費します。その為、発動中は【ロータス】の加護によって時間を止めて術者の安全を守るように自己防衛が働いたみたいですね」


「つまり、貴方が目覚めるまで妹さんも目覚めません。」

だから、と続けて


「貴方には二つの選択肢があります。一つ、そのまま成り行きに任せて死ぬ。二つ、200年後に蘇生する。」

僕に問う。


僕の選択肢は一つだった。

「200年後に蘇生します。」

僕はまだルーシャと生きたい、ルーシャだってそう言っていた。

彼女は使徒とは言えまだ12歳だ。この歳で天涯孤独にさせてたまるものか


「ふふっ……貴方ならそうするでしょうね」


女神様は最初から分かっていたみたいだ


「これは私からのお礼です」

女神が祈る仕草をすると、僕は光に包まれた。


「運命を打ち砕き、魔法よりも可能性を掴める力……貴方に眠るその素質を今、開花させました。」


「運命?」

「はい、元々魔法は人々に運命や理不尽の風を力にして大空に羽ばたく翼になって欲しいという私の願いを具現化したものです。」


ですが、と女神は断りを入れる


「元々がこの世界の住人でない貴方には、魔法も強い『何か』を感じます」


そしてルナスティが中空に手をかざすと獅子と竜と鯱の意匠が施された一本の長剣が現れる。


「それは………」

異界の剣

仮にもこの世界の一部を支配した魔王はこの世界の武器では倒せない。

そう言ったルナスティが最初の時に授けてくれた剣


「今の貴方には正しい銘を伝えましょう……」


異界の剣は正しい銘を知ることによって本来の力を発揮する。


それ即ち、自分がルナスティの信頼を得たという事だ。


始源華霊の蔦剣(クトゥネ・シリカ)……これが正しき銘です」


「そして、貴方が開花させた加護は………」


古代始祖華(エウアンサス・パニィ)


僕は驚いた。

使徒の長としての権能は得ていたが、自分自身が使徒として覚醒するとは思わなかったからである。


「花言葉は……ありません。」


続く女神の言葉に絶句する。


「何にでもなれる可能性を秘めています。……王にもヒモにでも」


そしてルナスティが語り終えると、世界が白く染まり始める。


この、感覚に覚えがある。

ここにいられる時間が終わったのだ


「誰にも知られず……世界を救った兄妹に本当の幸せが訪れる事を私は願います。」


女神がその言葉を紡ぎ終えた時ーーー


ーーーー僕の意識は再び暗転した。

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