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第9話 私の想い。エリア・ マクスウェル

王宮を無断で離れたヒューゴ様と私。


ヒューゴ様の身体を休めながら王国を出るのは大変だった。

(お世話出来る幸せを感じた事は誰にも言えない)


ヒューゴ様の人脈を使い、ようやく帝国に潜入する事1週間、身体の癒えたヒューゴ様は早速行動を開始した。

帝国軍が侵攻の為に集めた糧食の場所を特定し、そして襲撃する事。


こちらは私とヒューゴ様の2人だけだが帝国内の兵は弱く、襲撃は全て成功した。


「これで全部か?」


「は、はいこれで全部です」


私が剣先を帝国兵の喉元に突きつけると男は涙を流しながら頷いた。

先程まで『殺してやる』と息巻いていたとは思えない。


「終わりました」


「ありがとう、こちらも終わりました」


ヒューゴ様は帝国兵に暴行されていた町の人々の手当てをしていた。

町の人々は兵に奪われた食料の一部を返して貰おうと交渉に来て殴られたのだ。

帝国は王国に侵攻する為、食料の強制徴収を領内で行っていた。


「これで宜しいですか?」


町長の男がヒューゴ様に頼まれ、高く積まれた枯れ木の前で震えた声で尋ねた。


「はい、結構です」


ヒューゴ様が枯れ木の前に立ち火を放つ。


「頼む」


「はい」


打ち合わせの通り一ヶ所に集めた帝国兵達の首筋に一撃を加え意識を刈り取る。


『1人たりとも殺してはいけない』そう言われていた。


「では皆さん食料を持ち帰り下さい」


「は?」


ヒューゴ様の言葉に町の人々は目を丸くする。

てっきり食料を燃やすと思っていたのだろう。


この連中(帝国兵)が集めた食料は私が燃やしました。

そう言う事です」


「それは一体...」


事態が飲み込めない町の人達、そりゃそうだろう。


「私達は帝国のやり方に反発しているだけ、この作物は貴方達の物です。

無益な戦争に使う為の物ではありません」


優しく話すヒューゴ様、ようやく町の人々に笑顔が戻る。


「帝国兵達にはそう言っておきなさい。

食料は上手く隠すのですよ」


「ありがとうございます!」


町長を始めとした人達は頭を下げる。

涙を流し喜ぶ様子に帝国軍の強制徴収が酷い物と分かった。


「ところで、この人に見覚えがありませんか?」


ヒューゴ様は懐から1枚の紙を取り出し町の人々に見せた。

紙にはキャリーの似顔絵が描かれている。


「これは?」


「まあ知り合いですかね」


「ふーむ、残念ですが」


「私も見た事はありませんな」


どうやら有力な情報は得られない様だ、ヒューゴ様の声に若干の焦りが見えた。


「ありがとうございました、それでは」


「せめてお名前を...」


町長の言葉にヒューゴ様はいつもの名前を言うのかな?


「...ルドルフです」


「ルドルフ様ですか」


「様は要りません。

[帝国の(いぬ)]、ルドルフと覚えて下さい」


真剣な声で話すヒューゴ様、思わず笑いそうになるが目深に被ったフードのお陰で私達の表情は彼等には見えない。


「そちらのお方は?」


え、私?5回目だけど初めて聞かれたよ。

それじゃ私も、


「マキシリアン」


「は?」


私の言葉に町長が聞き直す。

聞き覚えが有るのか?

それとも男の名前だからか?

どっちで良い、少し付け加えるか。


「[王国の豚]、マキシリアン」


「...こら」


小声でヒューゴ様が(たしな)める。

構うもんか、奴は既に反逆者、遠慮は無用。


「では」


足早に町を去る、長居も無用。


「なかなか見つかりませんね」


「帝国軍の糧食を奪っただけ良しとしましょう」


辺りに誰も居ない事を確認しフードを外す。

私の言葉に元気よくヒューゴ様は返されるが裏腹に落ち込みを隠せない様子。

ルドルフの調査を命じたキャリーの行方が掴めなかったのがショックなのだろう。


「今夜も野宿ですか」


「ああ」


ヒューゴ様はあっさり言うが私とてまだ24歳の乙女。

本当は川で行水よりゆっくり湯浴みもしたい。地べたでごろ寝より宿を取りベッドで休みたい。

(そんな事はもちろん言えない)


「エリア」


「はい」


「明後日は宿に泊まろう」


「え?」


「すまない、気遣いが足らなかった」


「ヒューゴ様...」


私は何て事を、宰相の娘という不要なプライドでヒューゴ様を困らせるとは!


「大丈夫です、ヒューゴ様と一緒なら」


「酒場には旨い酒もあるぞ」


「はい!」


そんな訳で2日後私達はある町の酒場に居た。

近くに宿を取り、王国を出て初めての酒場。

ずっと禁酒生活だったので少し嬉しい。

(私が格別酒好きと言う訳では無い)


「宜しいかな?」


「...誰だ」


気分良く、久し振りの酒と食事を楽しんでいると気配も無く近づいて来た男。

咄嗟に殺気を放ちながら、身構える。


大声は出せない、帝国領内で注目を集める様な真似は厳禁だ。

男は私の殺気に全く怯む様子を見せず、ヒューゴ様もいつも通りだった。


「彼は知り合いです」


「はい」


ヒューゴ様は落ち着いた様子で私を見、男も小さく頷いた。


「後程」


「分かりました」


男は足音も残さず去って行った。

一体奴は何者だ?


「私達も出ます」


「は?」


まだ少し(8杯)しか飲んで無いのに!


「殺気は駄目です、どこに帝国の目があるか分からないからな」


「...すみません」


またやってしまった。

冒険の時と色々勝手が違う。

全てに注意を払うヒューゴ様、彼が居ないと私は直ぐに捕まってしまうだろう。


宿に戻り荷物を下ろす。

先程の反省をしながら周囲を警戒した。


「エリア大丈夫だ」


「しかし」


「彼は宿の変更を言わなかった、つまり帝国はここを嗅ぎ付けていない」


「はあ...」


ヒューゴ様はベッドに身体を投げ出す。

気持ち良さそうだ。


「エリアもどうだ?」


「はい」


ヒューゴ様の隣に置かれたベッドに私も身体を投げ出す。

大きく伸びをすると強張っていた関節がほぐれ気持ち良い。


『いや待て、私は今ヒューゴ様と2人っ切り』


敵の領内とはいえ初めての状況。

ヒューゴ様の旅に同行した時、宿の部屋は別だった。


「どうした、顔が赤いぞ?」


「な、何でもありません、お酒のせいです」


慌てて身体を起こす。

酔いはとっくに覚めていた。

(今は集中、役目を果たすんだ)

何とか自分を抑える。


そんな私をヒューゴ様は優しく見ていた。


予定より少し延びそうです。

(2話程)

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― 新着の感想 ―
[一言] 難あり物件だらけの女性陣にあって、エリアが予想外に素朴ないい娘でなんだかホッとしたw
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