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第6話 宰相の娘 エリア・ラクスウェルと元公爵夫人キャリー・チューリス

「ルドルフの調査を?」


キャリーはよく分からないといった顔で私を見る。


「そうよ、それが貴女の息子を保護する条件」


「...シューリーを」


「泣くな!」


鬱陶しい()だ、ヒューゴ様がお前と婚約した時に私が受けたショックと比べたら遥かに軽いだろうが。


「それでルドルフの何を私は...」


「待って」


「え?」


詳しく話をする前にキャリーに聞く事があった。

宰相(父上)に聞く様命ぜられていたのだ。


「どうしてヒューゴ様を裏切ったの?」


「エリア...」


「答えて...お願い」


キャリーと私は友人と行かないまでも、面識はあった。

向こうは特に意識してなかっただろうが、私は違う。


[ヒューゴ様が選んだ女]


意識せずにおれなかった。


「分かりました、お話しします」


キャリーは顔を上げ私を見る。

涙は止まっていた。


「私がフリューゲル様の内弟子だったのはご存知ですね?」


「ええ」


フリューゲル様、ランドール家現当主。

ヒューゴ様のお父上。

キャリーは10年前に孤児となってランドール家に引き取られたのだ。

つまりヒューゴとキャリーは兄妹弟子の関係でもあった。


「私の父はファートの領主だった男」


「え?」


「あの戦争の時、帝国に真っ先に降伏した辺境の地ファート、その領主の娘が私」


「それって...」


10年前、突然王国に攻めて来た隣国のモスキート帝国。

国境を境にしていたファートの町は帝国に対し全く抵抗する事なく降伏し、更に敵兵の為に食料と水を提供したという。


勢いを増した帝国に早期和平を主張する第一王子と徹底抗戦主張する第四王子。

第二、第三王子は日和見に終始し、動こうとしなかった。


前国王は第四王子を支持し、彼の率いる王国兵は帝国軍を撃退して戦争が終わった。

第四王子はその後の皇位争いにも勝ち、次期国王へと就任して現国王のメルダース三世となった。


王国では子供達すら知っている話。


「卑怯者ファートの民、その領主の娘が私キャリー、キャロライン・ファート...」


「まさか...」


余りの内容に衝撃を受ける。

ファートの町民は戦後卑怯者の烙印を押された。

ある者は町を捨て、ある者は隣国のモスキート帝国に亡命した。


「私の秘密をルドルフは知っていた。

最初はとぼけたけどね...」


「そんな、どうしてフリューゲル様かヒューゴ様に言わなかったの?」


「言える訳ないじゃない!

私のお父さんは帝国に味方して王国を裏切りました。

戦争に負けると領民を捨て、家族すら見捨てて亡命しました...言えないでしょ」


項垂れ、涙を流すキャリー。

しかしそれでも可哀想と思えない。

だからといってヒューゴを裏切って良い理由にならない。


私なら迷う事なくルドルフを殺し、奴を執事に使っていたハウンドを締め上げていただろう。


「それだけ?」


父上から聞く様に言われた内容は手に入ったが私はまだ聞きたかった。

それだけでヒューゴを裏切った理由には不十分だと思ったからだ。


「...私が馬鹿だったからよ」


「馬鹿?」


「ええ、ルドルフは言ったの

『カトリーナは子を産めない、近い内に離縁し姉の元に戻る事になるだろう。

そうなったらカトリーナとヒューゴは愛し合っているから、キャリーお前はヒューゴに捨てられるぞ。

お前の秘密は黙っててやるからハウンド様の物になれと...」


「それでヒューゴを裏切ったと?」


「ええ...どうせヒューゴとは結ばれない。

それならハウンドの妻になり、公爵夫人で生きて行こう。

そう考え私はハウンドに抱かれ...」


キャリーの戯言に私の怒りは限界を越える。


「馬鹿!!」


「エリア?」


「ヒューゴ様の気持ちも考え無いで!

カトリーナ様とヒューゴ様が結ばれる?

ヒューゴ様がハウンドみたいに寝取る様な卑劣な真似をする訳無いでしょ!」


「それは...」


「ヒューゴ様がどれだけキャリーを奪われ傷ついたか!

こんな価値も無い馬鹿な女の為に私は...私は...」


涙も出ない、ただ悔しさが渦巻く。

こんな馬鹿な女に私はヒューゴを奪われたのか。


「もう良いわ、ルドルフの調査は任せるけど貴女に期待しない。

でも一言言っておきます。

ルドルフはモスキート帝国の間者よ、第一王子のマキシリアンと謀り王国に内乱を企ててるわ。

馬鹿(ハウンド)は帝国が背後に居ることに気づかず利用されているだけよ」


「...そんなルドルフが帝国の間者?」


「そうよ、貴女の秘密を知っていた時点で気づきなさい。

自分の保身の為にヒューゴ様を信用しないで裏切ったなんて愚かを通り超してるわ!」


馬車は予定していた場所に止まる。

扉を乱暴に開け固まるキャリーを無理矢理降ろした。


「あんたの息子は約束通り保護してあげる。

貴女がまだ人として、親としてやり直したいなら役目を果たしなさい!」


着替えや偽の身分証が入った鞄とキャリーが持参した鞄をの足元に置いた。


「それじゃ、もう会う事も無いでしょう」


扉に手を掛ける。

早くキャリーから離れたかった。


「...ヒューゴは?」


「は?」


「ヒューゴは大丈夫なの?」


「こいつは!!」


怒りで目の前が赤く染まる。

馬車を飛び降り剣に手を掛けた。


「止めろエリア!」


突然響いた大声、その声に抜き掛けていた手が止まる。


「陛下...」


馬に乗った国王陛下が私の後ろにいた。


「エリア、止めろ。

こんな奴でも斬ったらヒューゴが悲しむぞ」


「...はい」


剣を戻し陛下に(ひざまづ)く。


「キャリー、ヒューゴは無事だ。

貴様は言われた事をやれ。

最後のチャンスだ、人としてやり直せる最後のな」


そう言うと陛下は去っていく。

私を心配して後を着けていたんだ。

未熟だ、私はまだまだ未熟者だ。


「キャリー、ヒューゴ様は大丈夫です。

一時の危ない所は乗り越えました。

まだ意識戻りませんが必ず帰って来ます、必ず...」


固まるキャリーにそう言い残し馬車に乗り込んだ。


―――――――――――――――――――――


走り去る馬車を見ながら立ち尽くしていた。

自らの過ちから全てを失った私。

それは自業自得なのだ。


「...死にたい」


打ち捨てられた荷物から覗く1本の剣、それは私がヒューゴと旅をしていた時に愛用していた物。


鞘から剣を抜き自らの首筋に当てる。

冷たい感触、一気に引き下ろせばこんな悪夢の人生とおさらば出来る。


「...出来ない...」


手が震え力が入らない。

決して死が怖いのでは無い。

浮かんで来るのだ、愚かな女を母と慕う愛しい息子の笑顔が。


「...シューリー」


命ぜられるまま身籠った息子。

ハウンドに愛は無いがシューリーは私が産んだ大切な宝。

あの子が居なければ私は自由になれたかもしれない。


しかしあの子が居なければ私はヒューゴを裏切った後悔で自殺していただろう。

身勝手な女だが母としてまだするべき事がある。

私が勝手に死んだらシューリーは王宮から追い出されてしまう。

3歳のシューリーに生きていく事は出来ない。


剣を鞘に収めエリアが用意した荷物を開ける。

冒険者だった頃の服とナイフ、数日分の食料、偽名が書かれたギルドカードと結構な金が入っていた。


「もう死ぬなんて考えない」


決意を込め、ナイフで腰まで伸びた髪を切る。

5年掛けて伸ばした髪。

公爵夫人らしく優雅に見せる為だけの髪、未練は無い。

着ていた服を脱ぎ捨て荷物の服に着替える。


「よし」


脱ぎ捨てた服と髪に火を着ける。

髪の燃える嫌な臭いが鼻を着いた。


「チューリス家ハウンド公爵第二夫人キャリーは死んだ。

今から私は王国の間者キャリーよ」


決意を籠めて屋敷から持参した鞄から必要無い物を次々投げ入れた。


「ん?」


小さな袋に手が止まる。

中は分かっている。


「ヒューゴ...」


指輪を見つめる私の目から再び涙が流れた。


「これだけは...エリアごめんなさい」


鞄を切り裂き細い紐にして指輪を遠し首に掛けた、


「行きます」


エリアからの荷物を持ち私は歩き始めた。

役目を果たす為に。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [一言] キュリーが自殺して、シューリーが病死すれば全てが丸く収まるのでしょうね。 ヒューゴが良い奴のせいでキュリーへの風当たりが強いですね。 人格者で人としては素晴らし…
2020/08/18 23:47 退会済み
管理
[良い点] キャリーとの婚約は何処までも愚かで 自分本位なところや裏切り者の血など 全て含めて心配で仕方ない故の救済 に見える事 問題はキャリーがヒューゴの予想以上に 卑怯で自分本位の裏切り者だった…
[一言] キャリーの経歴でどうやって主人公の婚約者に成れるのか? 離反した内通者の娘何て良くて平民落ち、悪ければ斬首だから、王家に出入りする様な家には関われない(王家に排除される)気がする。
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