第5話 キャリーの後悔。
沢山の誤字報告ありがとうございます。
「キャリー様ハウンド様より返事が届きました」
「ありがとう、そこに置いといて下さい」
執事が部屋に入って来る。
ヒューゴの募金をお願いする手紙を執事にお願いしたのだ。
元婚約者の私より執事が書いた方が効果があると思ったのだが。
「お読みにならないのですか?」
「あなたの表情で分かります」
諦めに似た執事の顔、先に読む事を許可していたので大体の想像はついた。
「それ以上でしたよ」
執事は静かに呟いた。
「どういう事?」
「[王都の屋敷を国王達に気づかれぬ様抵当に入れ金を工面せよ、そして屋敷の者達の殆どを解雇せよ]とありました」
「なんですって?」
余りに馬鹿な内容、そんな事を国に知られず出来る訳が無い。
もし仮に出来たとしても私や息子の住む場所が無くなるではないか。
「[キャリーの仕業にせよ]ともありました」
「え? 」
私が勝手に屋敷を抵当に金を借りて家臣達を馘にしたって事にしろと?
「切り捨てられましたね、キャリー」
突然執事の口調が変わる。
いつもの憐れみでは無い、強い感情を感じさせた。
「どうやらこれで私の任務は終わりです。
キャリーもシューリーを連れて身を隠すんですな」
「任務って?」
執事は何も言わずタキシードを脱ぎ捨てる。
下のカッターシャツに包まれた身体は引き締まりただ者では無い事を感じさせた。
「5年前から国王より任を受けチューリス家に潜入していました。
別の方からも貴女を見張る事も頼まれましてね。
今回の件[公爵に謀反の意あり]と報告致します」
「え?」
謀反?どういう事なの?
余りな展開に頭が着いていけない。
「王国が貴族に忠誠を誓わせる為に貸し与えている王都の屋敷で金の工面等をあの馬鹿は...」
吐き捨てる元執事、元から忠誠を誓って無かったから当然か。
「屋敷の者達には王宮に出頭する様に命じます。
私の知る限り馬鹿に加担している者はいないと思うのであの者達は安心でしょう」
何事も無く言うが私はどうなるの?
ヒューゴを裏切った私に居場所なんか無い。
「シューリーと王宮に行きますか?身の安全くらいは国王も...」
「いやよ!」
そんな恥知らずな事出来るもんですか!
「それならここで死にますか?」
「そんな...」
どうしたら良いの、結局はこうなる運命だったって事?
婚約者を裏切り享楽に身を預けた女にはお似合いの結末なの?
「お母しゃま...」
項垂れる私を呼ぶ小さな声。
「...シューリー」
身体を震わせながらシューリーは私を見つめる。
愚かな女が馬鹿な男と結ばれ産まれてしまった可哀想な子供...
「明日の朝、王宮から使者が来るよう手配致します。
キャリー様はシューリー殿と一緒に」
執事の口調に戻り彼は言った。
この子に罪は無い、あるのは私とハウンド。
ハウンドに愛情は無いが息子には有る。
この子は愚かな私を母と慕ってくれてるじゃないか。
「分かりました。明日お待ちしております」
この子の為に生きよう。
例え人質にされようと私が守らなくては。
そう心に誓い自室で荷物の整理をする。
驚く程荷物は少ない。
ハウンドから贈られた宝石や装飾品はハウンドが自領に逃げる時持ち去られていたのだ。
家臣達はもう手伝ってはくれない。
厳しい視線が突き刺さる。
正に針のむしろ、しかしシューリーが居る。
それだけが嬉しい。
「お母しゃま」
シューリーが手を震わせながら何かを手渡した。
「これは?」
「執事のおじさんがお母しゃまにって、さっき」
「嘘...」
それは小さな指輪、宝石なんか着いていない質素な指輪...
「ヒューゴ...」
ヒューゴから贈られた婚約指輪、隠し持っていたがハウンドに見つかり捨てられたとばかり...
「おじさんがお父しゃまに黙って持っててくれたって」
シューリーの言葉に胸が痛む。
あの人は私を見張りながら見守っていた。
誰の命令か...もう分かった。
「...ごめんなさい」
「お母しゃま泣かないで」
優しく背中を擦るシューリー、その優しさとヒューゴに対する申し訳なさで私の涙は止まる事が無かった。
翌日小さな鞄に私物を詰め屋敷の玄関で王宮にからの遣いを待つ。
心細さから手が震える、しかしシューリーの手を離す事は出来ない。
(何としてもこの子を守らなくては)
目を瞑りそう決意した。
「お待たせしました」
低い声に目を開けた。
「あなたは...」
そこに居たのはエリア・ラクスウェル。
宰相の娘で、昔私とヒューゴの冒険に何度か同行していた人。
「さあ行きましょう、シューリー殿はこちらに」
「待って!!」
「お母しゃま!!」
エリアはシューリーを引き離すと私を馬車に押し込んだ。
「どうしてなのエリア...」
「貴女にはやって貰わないといけない事があります」
「やって欲しい事?」
「ええ、ルドルフの調査です」
エリアは冷たい表情を崩す事なく言った。