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最終話 ヒューゴとカトリーナとエリア、そして...

気がつくと俺は大きな庭園に立ち尽くしていた。


(見た事のある光景だな...

そうだ、ここは実家の庭園。親父自慢の庭だ!)


懐かしい光景に目を奪われていた。


「...ヒューゴ」


後ろから突然名前を呼ばれ、振り返ると1人の若い女性が駆けてくる。

一瞬誰か分からなかった。

何故なら俺の記憶にあるその()は身体が弱く、走る事が(まま)ならなかったのだから。


「カトリーナ...」


「ヒューゴ!」


「わっ!」


カトリーナは笑いながら俺に抱きつく。

その笑顔は全く病を感じさせない天真爛漫な物だった。


「カトリーナもう身体は良いのか?」


「何言ってるの?もう私に病気なんか無縁よ」


「え?」


カトリーナの表情に嘘を言ってる様子は無い、

どうなっているんだ?


「ヒューゴだってもう苦しく無いでしょ?」


「俺が苦しい?」


カトリーナの言葉に今までを思い出す。


俺はヒューゴ・ランドール、王国の治癒師。

カトリーナとエリアを妻にした。

結婚を期に冒険は止め国内の治癒に専念し、

5年後俺が35歳の時に親父の引退を期にランドール家を継いだんだ。

エリアに子供が産まれたのが大きかったな。


...いや待て、俺が当主を継いだのは20年も昔だ。

その時カトリーナはもう既に亡くなっていた。

俺は55歳で病気に...


「思い出した?」


「ああ思い出したよ。

俺はヒューゴ・ランドール55歳。

そして君はカトリーナ・ランドール、20年前に死んだ俺の妻だ」


「良くできました」


カトリーナは背伸びをしながら頭を撫でてくれる。

つまり俺は死んだのか。


「どうしたの?」


複雑な顔をしていた様だ、カトリーナは小首を傾げ俺を見た。


「いや何でも、カトリーナが若いなって」


「そっか、私が逝っちゃったのは30歳の時だもんね」


あっけらかんと笑うが今のカトリーナはどう見ても10代後半だ。

死の2年前から急に衰えて最後はどんな治療も効か無くなって。

それなのにカトリーナは笑顔を絶やさず

『ありがとうって』...


「こらヒューゴ!」


「痛っ!」


思いだしているとカトリーナに頭を叩かれる。

結構痛い、健康なのは本当の様だ。


「もう考え事ばっかり!

ヒューゴも今は私と同じくらいの年齢なのよ。

それより久し振りに会ったんだから妻に言う事は無いの?」


「言う事?」


何を言えば良いんだ?


「だから会いたかったとか、綺麗だねとか、...愛してるとかよ...」


真っ赤な顔で俯くカトリーナ。

何故かこちらまで赤くなる。


「...あ、愛して」


「ま、待った、それより先に聞かせて」


「何をだ?」


せっかく覚悟を決めたのに。


「私が死んでからの20年、何があったかを」


「知らないのか?」


「うん、ヒューゴに教えて貰う為、生まれ変わらず待ってたんだよ」


「それじゃ親父やお義母さんは?」


「フリューゲル様はこっちに来て直ぐに生まれ変わって消えちゃった。

お母さんもよ『悔いは無い』って言ってね」


そう言う物なのか。

でもカトリーナは消えずに居たと言う事は、


「俺を20年も待っててくれたんだ」


「うん」


「何か悪いな」


そんな事無いわ、思ったより早く来ちゃったって思ったくらいよ


「確かに」


まだ55歳だった。

孫も見れなかったな。

エリアや子供達泣いてたな、陛下も、フローレンス(王妃)も。


「ヒューゴ?」


「何でもない」


そう、何でもない。

もう死んだんだ、仕方ない事。

どこから話そうか?


「帝国との戦争の後は?」


「それ知ってるよ、私まだ生きてたし。

ルドルフとマキシリアンが処刑されたんだよね」


「そうだよ」


ルドルフとマキシリアンは帝国から護送されて来た。

ルドルフは観念していたがマキシリアンは自分こそが正統の王だと叫び、最後は泣きながら陛下に命乞いをしていた。

その醜い死に様は20年以上経った今も語りつがれている。


「帝国が滅んだのは?」


「滅んだの?」


「それは知らなかったか」


「ええ、帝国の各所で反乱が起きてたのは聞いてたけど」


「最後は皇帝が退位してな、帝国は解体されて沢山の国が独立したよ」


「大丈夫だった?」


「何が?」


「その国々が王国に攻めて来たりしなかった?」


「大丈夫だったよ」


陛下は各々の国と友好を結んだ。

皇帝は退位後生涯幽閉されたので心配は無かった。


「良かった、次はエリアよ」


「エリアとはな...」


カトリーナが亡くなった後落ち込む俺をエリアはしっかり支えてくれた。

その気持ちに俺は感謝と一途な愛を抱く様になり。

子供が3人産まれたんだ。


「3人も?」


「そうだよ、女、男、女の3人だ」


「見たかったな...」


残念そうなカトリーナ。

カトリーナの薬や治療に奔走して子供を作る時間が無かった...

いやそんな事は言い訳だ。

エリアに悪い事をした。


「シューリーは?」


「シューリーか...」


キャリーの息子シューリーは陛下の庇護の下教会に預けられた。

何かと所以のある立場のシューリーだったが真っ直ぐに育ち今は教会の神官で出世して活躍している。

ひょっとしたら俺の葬式を任されてるかもな。


「シューリーはキャリーと会えた?」


「いや」


「そうなの?」


「ああ、キャリーは一度も王国に帰って来なかったよ」


「ヒューゴは今もキャリーを?」


「俺はもう特に何もキャリーに思って無い。

あいつなりに考えて、キャリーの意志なんだろうな」


「そう...」


複雑な表情のカトリーナ、同じハウンドの妻だっただけに感じる物があるのだろう。


「これからどうする?

2人一緒に生まれ変わるか?」


「まだよ」


「カトリーナ?」


「まだ駄目、エリアが来るまで待ちましょ」


「そうなのか?」


意外だ、新しい人生を早く選ぶかと思ってた。


「だってエリアはヒューゴと20年2人一緒だったんだよ?

私はたった5年だけ。

後20年ここでエリアを待ちましょ」


「良いのか?」


「うん」


笑顔のカトリーナ。

『エリアは後40年は生きそうだぞ』

これは言わないでおこう。


「もうヒューゴは私だけの物、エリア、キャリー。

負けないから...」


「何か言ったか?」


「ううん何でも、それじゃ行きましょ」


「行くってどこに?」


「フリューゲル様のお家、ここは私達が過ごした思い出の場所。

決して誰にも邪魔はされないね」


カトリーナは俺の手を握り微笑む。


「それじゃ行くか」


「うん」


白い(もや)に包まれた家に向かい俺達は歩き始めた。


「ありがとうみんな」


そう呟きながら。



―――――――――――――――――――――


ヒューゴが亡くなり王国は国葬を決めた。

一治癒師には異例だったが国王の決定に貴族は元より国民からも反対は起きなかった。


ヒューゴの棺を乗せた馬車を国民達は涙で見送る。

棺の横には未亡人となったエリアが泣き腫らした目で国民達を見ていた。


「貴方はやっぱり凄いわ、みんなこんなに...」


窓から見える国民は沿道で感謝の言葉を叫んでいた。


「ありがとう!」


「え?」


1人の叫びにエリアは顔を上げた。


「キャリー?」


急いで声のした方を見るが大勢の人に特定は出来ない。


「気のせいよ、気のせい。

30年近くも聞いてない声だもの...」


そう呟きながら何故か先程の声が耳から離れないエリアだった。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後の「ありがとう!」はおそらくキャリーなんだろうけど、 「ありがとう」になる理由は謎。 シャーリ―と会えるようにヒューゴが便宜を図っていたなら……。 それ以外だと過去の行いから出る…
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