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第1話 元婚約者キャリー

その日キャリーは1人の治癒師が瀕死の重傷を負い王宮に収容されていると聞き、幼い息子の手を引き王宮の特別室に向かっていた。


治癒師の名前はヒューゴ‐ランドール。

代々王国で治癒師を勤めるランドール家、そしてキャリーの()許嫁だった男。


「そこを退きなさい」


特別室扉の前に立ち塞がる衛士達にキャリーは怒鳴った。


「それは出来ません」


「何故です?

私が公爵家第二夫人キャリー‐チューリスと知っての事ですか?」


声を荒らげるキャリーに2人の衛士は首を振る。


「だからこそ、お通し出来ないのです」


「どうして!?」


「国王陛下の命です、

『ヒューゴ様はキャリー‐チューリスの目に触れさせる事無く治療に専念を』と」


「な?」


「もっとも王の命無くとも貴女をお通しする気はありません」


「私もです。ヒューゴ様を裏切り、この様な事態を...」


涙を溜め肩を震わせる衛士達。


「お母しゃま...」


衛士達の様子にキャリーの幼い息子が不安そうに母の手を握った。


「早くお引き取りを」


「こんな所を子供に見せてはいけません」


「分かりました...」


キャリーは悄然と王宮を後にする。

王宮から公爵家に戻る馬車の中、キャリーは息子に涙を見せまいと必死で堪えた。


「おかえりなさいませ」


馬車を降り、キャリーを玄関で迎える家臣の目は冷たい。

第二夫人だからではない、皆ヒューゴを慕っていたのだ。


この王都、いや王国でヒューゴを慕わない者など殆んど居ない。

治癒師として貴族だけで無く平民まで癒し、夜中であっても急患と聞けば嫌な顔一つ見せず直ぐ様駆け付ける。


その人望は国王を凌駕する程であった。

しかも幼少の頃から国王や王妃と親しく、信頼も厚いとなると...


「シューリー様こちらに」


メイドがキャリーの息子シューリーの手を取る。

呆然とする母の手を離しシューリーはメイドに連れて行かれた。


「ヒューゴ様にお会い出来ましたか?」


別室に場所を移したキャリーにお茶を用意しながら1人の執事が尋ねた。


「...いいえ」


「やはり」


キャリーの言葉は執事にとって予想出来た物だった。


「ねえ」


「はい」


「私はどこで間違えたの?」


「それは...」


悲しそうに呟くキャリーに執事は憐れみの目を向ける。


「ヒューゴを裏切った事?

ハウンドのプロポーズを受けたのが間違いだったの?」


ハウンド‐チューリス。

チューリス家の当主、キャリーの夫。


「私はチューリス家の家臣です、ハウンド様の事は...」


「悪く言えないわよね、馬鹿な選択をした愚かな女の事は陰で幾らでも言えるのに!」


「...キャリー様」


「ごめんなさい」


悲しそうにキャリーを見る執事。

彼は町の人々や他の家臣達と違い、陰口を一切言わない人物だった。


「キャリー様、少し王都を離れられては?」


「そうね考えてみるわ、ありがとう」


執事が部屋を出ていく。

扉が閉まるのを確認するとキャリーは大きなため息を吐いた。


あの人(ハウンド)みたいに王都を逃げろって?

そりゃ『寝とり公爵』と皆に言われたら居られないわよね、それで愛人と自領に籠れるんだから本当気楽よ。

私にはシューリーが居るのよ?

このチューリス家の跡取りである息子が!」


王都を離れる事は出来る。

しかし跡取りである息子まで連れて行く事は出来ない。


公爵家の当主が王都を離れ次期当主まで不在になると王国への忠誠すら疑われかねない。

かと言ってキャリー1人が王都を離れると息子とは二度と会えなくなるだろう。


家臣達はキャリーと当主のハウンドを嫌っている。

王家に報告され、息子は正室の養子となり王宮に引き取られる事は明らかだ。


[子供に恵まれ無かった正室の為、側室に入ったキャリー]


表向きはそうであったが事実は違う。


元来身体が弱い正室の治療に来ていたヒューゴ。

その婚約者ヒューゴの助手、キャリーをハウンドが寝取った。それが真相。


ハウンドの不義を知った正室は心と身体を病み姉の住む王宮に戻ってしまった。

正室は王妃の妹であった事から一時はチューリス家を取り潰す所まで話は進んだ。


しかし正室が取り潰しを止めるよう王妃に願い出て、チューリス家は救われたのだった。


存続の条件はキャリーをハウンドの側室に迎え、跡取りを産む事。


「取り潰してくれた方が良かったのに」


キャリーが呟く。


もし王国がチューリス家を潰していたならキャリーはヒューゴの元に戻っていた。

謝罪をすればきっとヒューゴは許してくれたかもしれない。


都合の良い馬鹿な考えと分かっている。

更にハウンドはキャリーが2年後に息子を産むと全く王都の自宅に寄り付かなくなってしまった。


愛よりスリルを求め逢瀬を繰り返したハウンド。

そんなハウンドに流されヒューゴを裏切ったキャリー。

最初から本当の愛は無かった。


事が露見し、ヒューゴを失ったキャリーだが、側室とはいえ公爵の妻という地位と跡取りを産んだ事で何とか自尊心を保っていただけ。


街で聞いたヒューゴの受難。

話によればチューリス家の正室カトリーナの容態が悪化し、薬を求め旅に出たヒューゴが魔物に襲われ怪我をしたと言う。


婚約破棄から5年振りに聞いた元婚約者の悲報に激しく心が揺さぶられたキャリーは我慢出来ず王宮まで駆けつけたが門前払いをされたのだった。


『私がいればヒューゴは....』


今更と分かっていながら悔恨の涙を流すキャリーだった。


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