"愛の歌"を歌おうか
高い空の下でキミを想う。大好きなキミ。愛しい人。この歌はボクだけの歌。この歌はキミへの歌。
「ただ キミが好きで」
空に近いこの場所で足を垂らして座り、ゆらゆらとそのままゆっくり揺らした。歌に合わせて調子を取るように、ゆったりとした曲調と同じペースで。
「いつまでも 一緒に居ようと笑った」
キミの笑った顔をよく覚えている。小さな笑窪ができるのがとてもかわいかった。目を細めて笑う姿がとても好きだった。少しだけ見える白い歯が美しくって、少しだけ赤く染まる頬が愛おしかった。
「ただ キミを愛してる」
たぶん、ボクにとってそれはたった一つだけの愛だった。友情も恋情も慕情も愛情も、全部引っ括めた愛だった。
「そんな ボクの 愛の歌」
だからこの歌をキミに贈ろう。ボクがたった一つだけ見つけた愛を歌おう。キミに届くように。キミを忘れないように。
「哀しいことが 嫌いで」
自分が泣くのも嫌だったし、誰かが泣いているのも嫌だった。哀しいことがなくなればいいとずっと思っていた。それでも自分にできることは何もなくて、諦めたように笑うしかできなかった。
「辛いことも 嫌いで」
うまくいかないことばかりで、もう嫌だと逃げ出したい時もあった。自分には何もできなくて、辛くて塞ぎ込む時もあった。自分のせいなのはよくわかってたけど、それでもボクにはどうしようもないことばかりだった。
「そんな情けないボクに」
ずっとボクは情けないままで、何もできないままで、泣いてばかりいたんだ。前を向くこともできなくって、ただその場所に居ることだけで精一杯だった。
「キミは その手を 伸ばしてくれた」
そんなボクにキミが大丈夫?って手を伸ばしてくれた。誰からも見捨てられて誰にも助けを求められなかったボクに、手を伸ばしてくれたのはキミだけだった。
「偽っても 誤魔化しても 諦めずに」
キミが嫌いだと突き放しても、へらりと笑って大丈夫と装っても、じっとその綺麗な瞳でボクの嘘を暴いていった。無理してるでしょ。本当のこと言ってもいいんだよ。そう言ってキミはボクに笑いかけてくれた。
「本当の ボクを 見つけてくれたね」
キミの前ならボクは誤魔化さずに本当の心で本当の言葉で話せたんだ。辛くて泣いても何もできなくてもそれでもいいんだよって笑ってくれた。ボクがボクであるだけでそれだけでいいんだって言ってくれた。
「キミだけ だったんだ」
みんな最初は優しかった。でもボクが出来損ないだってわかると次々と手のひらを返していくんだ。もうそれに疲れてたんだ。だったら最初から期待しない方が楽だって。そう諦めてたのに。
「何も 諦めない」
でもキミだけは違った。どれだけ失敗しても、どれだけ出来損ないでも、大丈夫だって笑ってくれた。ボクにできることを探してくれた。
「強さを 持っていたのは」
ただ一人諦めないで居てくれた。ただ一人ボクの弱さに付き合ってくれた。それがボクには何にも替え難い幸せだったんだ。
「ただ キミが好きで」
そんなキミが好きでたまらなかった。それを大きな声で歌に乗せて叫んだ。青い青い空へと歌が溶けて消えていく。
「いつまでも 一緒と約束をした」
あの日、ずっと一緒に居ようねと約束を交わした。その言葉があったから今、ボクはここに生きている。だからそれを歌おう。
「ただ キミを愛してる」
キミがくれた愛に報いるために。キミにあげた愛を見失わないように。ただキミが好きで、ただ一人愛する人だと歌おう。
「そんな ボクの 愛の歌」
ボクにはもうそれだけしかできないから。キミへ届くようにこの愛の歌を歌うんだ。
「怖いことが 嫌いで」
怒られることは日常だった。それが怖くて怖くて仕方なかった。自分の不出来が原因なのはよくわかっていた。それでもボクにはどうすることもできなかった。
「痛いことも 嫌いで」
殴られることも日常だった。できないことが多すぎて失敗する度に殴られた。できるようにはならなかった。どれだけやっても他の人のようにうまくできるようにならなかった。
「そんな臆病なボクに」
怒られるのも殴られるのも嫌でいつも怯えていた。できないことを誤魔化すように笑うことしかできなかった。バカみたいに笑っていたらバカだと思ってもらえたから被害が少しだけマシになったんだ。それしかボクにはできなかったんだ。
「キミは 抱きしめて 支えてくれた」
でもキミはそんなボクを許さなかった。笑わなくても大丈夫だよって抱きしめてくれた。キミができることを探せばいいって言ってくれた。
「泣き出しても 逃げ出しても 諦めずに」
もうできないって泣いても逃げ出しても、じゃあ次を頑張ろうよって言ってくれた。ボクにできることが見つかるまでずっとキミは付き合ってくれた。ボクができることを探してくれた。
「いつまでも ボクを 見守ってくれたね」
ボクがボクだけで生きていけるように、キミはずっとボクを見守ってくれていた。
「キミだけ だったんだ」
そんな人居なかった。みんな自分のことだけで精一杯でボクはただのお邪魔虫だった。迷惑をかけることしかできなかった。
「全て 包み込む」
できないを許して、できるを探してくれた。できないのが全部悪じゃないって言ってくれた。できることだけで大丈夫って言ってくれた。
「優しさを 持っていたのは」
そんな許す優しさを与えてくれたのはキミだけだった。キミしか、ボクには居なかったのに。
「ねえ」
どうして。
「会いたいよ」
どうして死んでしまったの。
「キミに 今すぐ 会いたいよ」
もう二度と会えないなんてわかってる。死んでしまったキミに会えないなんてよく知ってる。
「キミが居なきゃ ボクは前を向けない」
先へ進まなきゃいけないことよくわかってる。立ち止まるなんてキミが一番嫌いだったのもよく知ってる。でもそれを言ってくれるキミがもう居ないんだ。優しく怒ってくれるキミが居ないんだ。
「キミが居たから ボクは」
キミがボクに優しくしてくれたからボクは前に進めたのに。キミが怒ってくれたからボクは怖いこともがんばれたのに。
「世界を好きだと やっと思えたのに」
キミが居るこの世界でちゃんと生きていこうって、そう決めたのに。なのにどうして。
「ただ キミが好きで」
すごくすごく大好きだった。キミが一番好きだった。キミとの思い出が溢れて止まらないくらいキミが大好きだった。
「いつまでも 一緒に居たいと願った」
また来年もこの場所で一緒に笑いたかった。キミの隣に座ってまた一緒にお菓子を食べて喋りたかった。それももう叶わない。
「キミを キミだけを 愛してた」
きっともうこんなに好きになる人なんかできない。キミがずっと一番で唯一でたった一人のボクの愛する人。
「そんな ボクが」
そんなちっぽけなボクができるのはこれだけ。何の力もないボクが唯一できること。
「キミへ」
大切で大好きな優しいキミにできるのはたったこれだけ。キミを忘れずにこの歌を歌うことだけ。キミへの愛を叫び続けるだけ。
「叫ぶよ」
感情がぐちゃぐちゃになって、声が震えて掠れてしまう。キミとの思い出が美しくて哀しくて、キミの居ない空に向かって吼えるように歌い続ける。
「ただ キミが好きで」
ほろほろと目から涙が零れ落ちる。ここなら誰にも見られることはないからと、拭いもせず落ちるままにした。
「いつまでも 一緒に居たかったのに」
ずっとキミと一緒に居れると思ってた。こんな別れが来るなんて想像もしてなかった。想像したくなかった。
「ただ キミだけを愛してた」
顔がぐしゃぐしゃになるけれど、気にせずに歌い続ける。愛してたって過去形になんかしたくはなかった。ずっとキミに愛してると伝え続けたかった。
「そんな ボクの」
叶わなかった未来が、望まなかった明日が。キミの居ないこの先がどうしようもなく苦しくて。それでもこの世界を生きなきゃいけないからボクはこの歌を歌おう。
「愛の歌」
キミだけに贈る愛の歌を。
ボクもキミも女の子のイメージが浮かんだので一応女主人公とガールズラブって入れてますが別に性別を限定する要素はないので想像は自由なのです。