クロスナイトハンター・カーチャの探偵日記2
「馬鹿野郎!」
思い切り殴られる男性二人、彼らは全く違う少女を拉致したのだ。一番の難敵であるカーチャを捕まえれば楽だったのだが、その友人との思われる少女を拐ったのだ。
部屋は何処かの倉庫、木箱が目立ち色の付いた電球がスポットライトのように床を照らしていた。
そこに筋肉質な男と、この場に不釣り合いな美形な男がいた。
「水色の少女を拐えとは言ったがなぁ…言い方が悪かったな…」美形の男は他人事のように呟いた。
彼らはラチェット兄弟、頭の切れる兄と物理に強い弟で雇われとして有名だ。だがそんな彼らも失敗することはある。拐った水色の少女は水色は水色でも服ではなく髪の毛が水色だったのだ。
「無駄にカーチャに目をつけられるだけつけられやがって!」
筋肉質な弟は外見どうりの口調と音量で怒鳴り付ける。
「まぁまぁ、こういうときは今相手がどう動くか頭の中でシミュレートするんだ。」
運が良ければバレてないのかもしれない、だがこっちの意図通りに杖のメッセージを読んでいたら?警察が必ず動くに違いない。
「名指しのメッセージだからカーチャは必ず動くな」
「兄さん一番最悪なパターンを再確認しただけじゃないか…」
すると奥から部下が現れる、上下黒のスーツにサングラスという分かりやすい悪役モブの格好をしている。
「あの~オニギリが食べたいって言われたんですけど…オニギリって何なのか分かりますか?」
「あいつどんだけ食うんだ?さっきパンケーキとピザを食べたばかりだろ俺より食うじゃねぇか」
丸太のように太い腕で腕を組み純粋に例の少女の底無しの食欲に感心をみせた。
「随分と大食いなお嬢さんを拐っちまったもんだな」
先ほどの中心街と違い少し落ち着いた通りがあった。そこでも自動車が行き交うがガソリンとは違う何かを燃やす匂いと蒸気に包まれた。
「警察に頼ろうとする人間が他人に通報させて目の前の公園で呑気にベンチで座るという…」
「どうしようもない。自分達はここだと身分証もないからな。」
武と忠は警察署の前にある公園でカーチャがことの経緯を説明しに行った。
だが二人はこの世界の身分証は持ち合わせてない、やむ無く警察署の目の前にあるベンチで腰掛けてカーチャが戻るまで待っている。
「しかし、何故イレブンさんが拐われたのか、本来ならカーチャが拐われる筈だったんだけどな」
「えっそうなのか!?」
「ああ、この回は珍しくカーチャ自身が拐われる珍しい回なんだ。ただ…」
「ただ?」
「俺はアニメ派なんだ。」
「ん?」
忠の理由が理解できなかった。
「つまり、俺はこの先の展開を知らないんだ。丁度アニメの二期が始まって第一話の終わりにこの拐われたシーンだったんだ。まさかこの話数だったとはな…」
「続きを見ようにもイレブンがいないし、元の世界にも帰れない。」
数秒の間を置き互いの顔を見合わせる。
「武!無茶苦茶やべぇじゃないか!!」
「えっ!?今さら!?」
「家にはカーチャの同人誌があるのに!!HDが削除してないのに!!糞!死に切れねぇ!」
「最悪な発言だ…」
武が忠の程度の低い考えに顔を被っていると忠がスマホを弄り始めた。
「そういえば、ここに来る前にシュレ猫の話をしただろ?」
「ああ、したけど?」
「仮にだ、あれが本の内容を変えた結果急に数百年前から出土したと過程する。でもこの作品の場合はどうやってその辻褄を合わせるのかな?個人的には同人誌の可能性が高いと思うけど。」
「そ、そうだね。」
「でもさ、その同人誌の書き手に一体何が起きたんだろ?俺らがここに来なければそんな展開を描いてないと思うんだ。俺らが知らない所でその書き手の脳に干渉してしまったか、もしくは本当に偶然なのか。
もしその本が一冊しかない状態で、かつ本を焼いてしまったらどうなるか。」
そう言って彼はスマホを見せる。
その内容は今の状態をメモ帳に小説風に書いていた。ただ、それだけではなく
「終わりまで書いている?」
「そうだ、今の仮説に沿って書いてみた。俺がその同人誌の書き手になってみる。」
この後カーチャが出て来て警察の協力の元、流れるように人拐いを逮捕してスピード解決。イレブンの力で日本へすぐに帰ったという内容だ。
「もし、この通りにならなかったら外の世界で、二次創作系のHPを覗いてみよう。あと丁度コミケの時期だしコミケにも行って買い漁ってみよう。」
「随分と検証をするね。」
「俺たちは大学生だ。論文を書いているんだぞ。」
その時だった、警察署の扉が開き渋い顔をしたカーチャが帰って来た。
「どうした?」
「一応捜索願いは受理されたけど、あの人らは科学博覧会の警備ついでに探す気よ。」
「う~ん上手く行かないな…何か理由でもあるのか?忠はどう思う?自分はこの…街をかじった程度しか知らないからさ…」
「街は知ってるところまでしか知らないし、近道を選ぶより地道に話を進めるしかないのかな?」
お互いに作品を街と言い換えたりして解決策を模索したが全く意味を成さず、むしろカーチャに不信感を与えてしまった。
「そうだ!」
「え?」
急に閃いた忠はカーチャと向き合う。
「なぁ、クロード通りまで案内してくれない? 」
「え、良いけどあんたあの人のことを知っているの?」
「いや初対面だ、だが俺はあの人のことを良く知っている。」
忠の親指を立てて、逆にカーチャは大丈夫かしらと不信感の共有を武に求めていた。