考察
相変わらず部屋の主である教授がいない研究室でアイスを食べながら論文を書く二人組。
内容は簡単だ。この間発見された桃太郎の資料を論文にするだけだが…
「本の世界に入って改変した?それ何てタイトル?」
流石のラノベ脳の忠でさえ頭を傾げた。
「まぁそれが普通の反応だよな。」
「仮に本当だとして証拠はあるの?スマホはアプリさえ入れたら何でも使える万能アイテムだけど、世界を変える力はないぞよ。」
ソーダ味のアイスバーを舐めながら懐疑的な視線と疑問を投げ掛ける。
「証拠はある。ただ図書館にあるんだ。」
「ん~武がそこまで言うってことは本気なんだろうけど…」
忠は武の正気を疑う、だが彼はそんな人物ではない。
「分かった行ってみよう。ただし、この論文に一区切りつけてからな。」
太陽発電のおかげかエアコンはついていた、そしてそこに漫画を読むイレブンの姿があった。
イレブンが足音に気付き階段の方に目を向ける、そこには二人組の姿が見えた。
「正気を疑って悪かった本当にあったな、カプセル…」
「ああ、一緒に分析をしてくれると助かる。」
二人が同じタイミングで座る、そして同じタイミングで麦茶を飲む。
少し間を空けて紙とペンを取り出した。
「ただ、一つ矛盾がある件。」
「ん?」
忠はスマホで例のニュースを見せる、それは出土した時の記事だ。
「こいつは君らが本の世界に入る前からあったんだ。君らが変えたとは限らない。」
「自分らが変えてしまったから、昔からあるように現実世界が変わったとかは?」
武はあの体験が嘘だとは思えない、道中の土を踏んだ感触に料理の匂い、そして血の生暖かさ。それらは実際に肌身で感じ取った。決して夢ではない。
「そうなるとシュレーディンガーの猫の世界になってしまうなぁ~」
「シュレーディンガーの猫?」
聞き覚えの無い単語に首を傾げる。
「ほら例えば箱の中に猫を閉じ込める。そんで装置が作動して毒が蒔かれ死んでしまう、ただし50%の確率で作動する。さて猫は生きているか死んでいるか?」
「えっと難しいな、死んだか死んでないかと言われても運任せとしか言いようがない。」
「そう、ただ君が猫を死んでいるか死んでいないかを確認して初めて運命が決まるんだ。」
「何だそれ?自分が確認しようがしまいが死んでいるか生きてるかのどっちかだろ?」
「普通はそうだが、まぁこの理論はそういうものなんだ。君が初めてイレブンを発見したからイレブンか存在する。君がイレブンを見つけなければイレブンは存在しないんだ。」
「?」
武は頭を傾げる、彼の説明は何とも言えない。しかも何を言っているのか分からない。
「例えるなら○×問題で言おう。この答えは○か×のどちらかだ。
それで、答えが何と○で正解の世界と×が正解の世界があるんだ。」
「つまり?」
「ちょっと本来の意味と違うけど、分裂すると考えたら良い、○の世界に行く自分と×の世界に行く自分があるって思えば良いんだ。」
「そんなの…実際に選択して体験しないと正解が決まらないじゃないか。」
本当に理論なのか。疑いたくなった、実際に体験しないと未来というのは決まっていない決まってないということだろう。
実際にタイムマシンが発明されない限り決められた未来はないだろうが。
「それより、もっと根本的なところから考えた方が良いかも。例えばイレブンの正体とか。」
「そうだな。」
哲学じみた理論を議論するより、目の前の問題に取り組んだ方が良い。そう考えて漫画を読むイレブンを見る。
相変わらずミステリアスな雰囲気だ、古代エジプトを連想させる白地の服に、金色のアクセサリー、そして前回回収した白い杖の先端は水晶玉を連想させる形状だった。
「君はあの時本が増えるだけで大丈夫だと言ったが、何で大丈夫なんだ?」
「昨日述べたとうり、本が増えただけで問題はない。」
彼女はそう言って杖を持った。
「もし、迷惑なら私を見捨てて構わない。私の問題。前回助けてもらったけど、命に関わることに巻き込んでしまった。だから」
「いや、特に…助けてもらったし。」
すると彼女は本を渡す、その本は一時期流行っていた漫画だった。
「次の世界はバトル漫画というカテゴリーの世界、そこでは命の危険がある。それでも?」
「構わない。」
「おい武!」
武の話を聞く限り命の危険があった。これがただの漫画の中の話なら兎も角現実の出来事だ、これで承諾をさせたくなかった。
「俺は!吹田の時みたいに逃げたくない。ここで逃げたらもう後戻りが出来なくなるような気がするんだ。」
「おいおい、言いたいことは分かるが…」
その時だった、空調とは別の風を二人は感じた。そして武はこの感覚に身に覚えがあった。
「まさか…」
「ん?」
振り向くと魔方陣を展開するイレブンがいた。
「今度は声をかける、今から本の中に入る。」
「そういう意味で言ったんじゃないいい!」
武の声も空しく武と状況に追い付けてない忠、そしてイレブンが次の本の世界に入っていった。