桃太郎??物語
犬の鳴き声?
この世界は桃太郎の世界だ、そしてそこに犬がいる。それを何を意味するか容易に想像がつかない程、武は鈍臭くはない。
「桃太郎の犬…?」
振り向くとそこには白いプラスチックで作られたリュックを背負い、白い杖を咥えた犬がいた。
ただそのリュックと杖は明らかに世界観を無視したようなデザインで、考えられる理由は一つしかない。
「なぁイレブン。もしかしてだがこの杖って…」
「私の杖。」
スタスタと前触れもなく歩き、犬から受けとる。すると犬は尻尾を振りクゥンクゥンと鳴いた。
「懐いているな…」
あながち、彼女が召還したという記憶は間違いではなさそうだ。
「そっちの白い鞄は違うのか?」
中々回収しようとしないので、確認を取ってみた。というのも、明らかに世界観が違う。外見もプラスチックに見えるし、杖同様SFチックだ。
「そっちは知らない。」
「本当?失くしたこと自体を忘れたとかじゃないの?」
すると急にビタンビタンとおきよが痙攣し始めた。
「!?」
恐らくショック症状だ、傷を塞いだとはいえ血液がなくなったことには変わらない。顔色は真っ白で唇も紫色になっている、このままでは死ぬかもしれない。
「イレブンなんとか出来ないか!?血液を作り出すとか!?」
「これは無理、流石に血は作れない。」
持ち物は鞄と水筒とタオルぐらい、教習所で習ったのは止血と救急車を呼ぶぐらいで他の方法は出来ない。
他に考え付くとしたら輸血すれば良いと思うが、やり方もそして道具もない。
「どうすればっ!?」
すると犬が自分の裾を掴む、最初は邪魔だと思い何度か払いのけたが頑なに掴むものだから犬をみると背中の鞄を見せつけていた、そしてあることに気付く、その鞄にはこのようにプリントされていた。
東京学園都市能力開発科 輸血・献血型キット(非常用)
まさかの献血キットだった。
時間がたち夜になった図書館は涼しくなったと思いきや、ただ気温が下がっただけで蒸し暑いことには変わらない。
とはいえ日光やエンジンで温められたスクーターはトンボがハンドル部分に留まるぐらい冷めており、物静かさを表していた。そんな静かで暗い中図書館に青白い光が灯る。
「戻ってきた…」
「…」
スマホ開く、いやガラケーと違いスマホを表示させた。すると電波のアイコンが表記されまた時間も表記されていた。
201X年 19:21
「本当に戻ってきた…」
幸い夜だ、血まみれになった上着は持って帰れる。持ち物も全部、そして処分に困るあの医療キットも置いていった。
そんなことを考えているとカタンと杖を置く音が聞こえた。
イレブンは杖を机の上に置き、何か点検をしていた。
「卑怯だと思っても構わない。ただ聞かせてくれ。何でそのまま帰ろうと言ったとき本当に帰らせてくれたんだ?」
あの後、輸血する際止む得ず自分の血液を輸血した。O型の血液は他の血液に代用でき、最後の手段として使えるとバイクの教習所で習った。
それで輸血をしたのだが、その後に早く帰りたいという感情が生まれた。最初は救うだのなんだのと言ったがいきなり斬りつけられる経験をすると嫌でも離れたくなる。
そして言ってしまった。
「帰ろうか…」と
そして帰ったのだが、安全な場所にきてから良心が疼いたのだ。そして罪悪感に負けて聞いた。
「私達は出来る限りのことはした。
衝動に任せて自殺に走ったけど一度助けた。それで十分。衝動で死を選ばなかったことこそが良い。あの後どう動くかは本人次第。
物語はハッピーエンドが良いけど結局本人が望まなければハッピーエンドにはならない。」
彼女の、イレブンの声色は無表情そのものだったが心なしに強い意思と強い声を感じた。
すると急にスマホから通知音が連続して発信された。見ると画面にはメールのアイコンがあった。
「ん?」
それを見ると佐々木からのメールだった。タップして確認する。
件名:桃太郎元服物語のレポートに関して
本文
なんかさっきニュースで新しい桃太郎の記録が出てきたらしいからニュースのURLを送るよ。
http://nhj.kyou-no.news.cm.jp
「っ!?」
ドクンと心臓が跳ね上がる。まるで隠していた赤点テストが見つかったような気分だ。だが、内容はそんな程度の低いものではない。本能的にそう感じさせた。
不安ながらリンク先をタップする。
発見された桃太郎異国物語
まるでSFのよう!?
今日の昼頃、京都の商店だった建物からいくつかの書物が発見された。その中に桃太郎の二次創作の書物が発見された。損傷が酷く題名も読み取れない状態であったが内容は辛うじて読めるようだそうだ。
岡山大学の◯◯教授は
「数ある桃太郎の書物の一つであるが内容が非常に興味深い。
空のような青い髪の幽霊と緑の服を着た賊が鬼の娘を救うという内容が確認された。
欧州ならまだしも当時の日本人が青い髪の人物を想像することに意外性を隠せない。
当時の流行や考え方を読み解く貴重な資料になるかもしれない。」
今後岡山大学を主体に研究を進める方針だ。
「嘘…だろ?」
自分達が本の中で行ったことが反映されている、肝心な物語の後半は分からないが明らかに自分達が原因としか思えない。
「イレブン、本当に自分達のやったことは良いことなのか?」
何か取り返しのつかないようなことをしている気分になった、だがイレブンはこう返事した。
「本が増えただけで問題ない。」