憧れだった冒険へ
グルッグーと鳩とは思えない不気味な鳴き声とそれとは対照的に爽やかな朝日によって目が覚ます。
目を覚まし、まず適当に握り飯を作る。中身の具材は鰹節や鮭を入れる。水筒にお茶を入れたあと剣道部の時に使っていたエナメル製の鞄に入れある場所に向かった。
朝とはいえ夏らしい湿度と暑さが身に染み、軽く汗をかきながら図書館につく。
図書館の入口に立ち数度深呼吸をした後、意を決して中へ入った。
「あ~そのイレブンさん?います?」
紙と建物の独特な臭いがしており、電気のない薄暗い空間がどうも不法侵入をしているのではと錯覚さえ感じさせた。
その時ゴトリと音がなる。青髪の女性が本を机に置いたようだ。絨毯のせいで足音が響かないが奥から見えるシルエットで辛うじて判断できる。
「カーテン開ける?」
「え?」
彼女の指さした所にカーテンがあった。
「頼む。」
すると彼女が手を振るとカーテンが勝手に開いた。
「昨日もその力を使ったね…その…手品とかじゃないよね?」
そう聞くと彼女は首を縦にふり肯定した。青い髪に碧眼、人形のような容姿でまた口調や性格も機械的で人形の様に見える。
「君は自分の名前がイレブンとしか分かってないでいい?」
「私はイレブン。それだけしか分からない。」
不思議な雰囲気を纏う女性、イレブンは自身の名をイレブンと名乗った。彼女は手を振るだけで物を動かしたり、また光らせたりするという不思議な力を持っていた。
「エイリアンか何かかな?」
「エイリアン?」
「いやこっちの話」
氷の音を鳴らしながら水筒のコップにお茶を注ぎ家から持ってきたおむすびを渡す。
「昨日のこともあるし自分の家に来る?と言っても親がいないのは1週間だけだけだからそれ以降は無理だよ。」
昨日何があったのか、それは出会った時まで遡る。
「あなたは?」
「いや、バッテリーをつけに来たんだ。」
指をバッテリーのスイッチレバーに指す、すると何を思ったのか彼女は手を振った。するとレバーが一人でに上がり電力が流れたのと同時に灯りが灯された。
「つけた。」
平然とした彼女の顔とは対照的に武の顔は困惑で包まれた。
「今の、どうやって?」
「分からない。」
「…分からないって、それはおかしいでしょ?」
「何故あなたは手を動かせるどうやったって聞かれたらどうする?」
「え?」
この時思ったのは頭のネジが完全に外れているのか彼女の常識が根本的にズレているのかどっちかだ。
いつもならネジが外れているも切り捨てるが、今回は目の前に謎のカプセルがありただのヤバい人と切り捨てきれなかった。
「というかどうやって侵入したの?」
「侵入?ここはどこ?あなたは誰?」
「土岐 武、君は?」
「イレブン」
「あ~外人さんか…道理で」
会話が成り立たない理由が分かったと思った時彼女がモニターに指を指す。
「何か映ってる。」
「ん?」
モニターは防犯カメラの映像で図書館のありとあらゆる場所が映し出されていた、その中でとある一室に不審者が一名映る。
「マジかよ!?」
その不審者は灯りが着いた途端に走りだした、だが不思議と慌てている様子はなく、最短ルートで出口に向かっていた。理由は分からないが手慣れているのではと推測する。
「そこに残ってて!確認してくる!!」
暫く放置されていた廊下は少し埃臭く、そして空気が心なしに重い。
侵入されていた部屋の付近にオレンジ色の帽子が落ちていた。
「これは…」
拾うと108と白の糸で刺繍されており、作りも頑丈だった。そのオレンジの帽子はツバの部分が少し黒く、指で何度か掴んだ後もあった。また新品のせいなのか、余計にその汚れは目立った。
「ん?この帽子どこかで見たことがあるような…」
記憶を探り、思いだそうとするが思い出せなかった。ここまで特徴的な物はない筈だが、それでも思い出せなかった。
「そんなことより、警察…」
警察に通報してこの状況をどう説明するか、記憶喪失の少女、いくら鍵を譲られたとはいえ、名義の人でもなく、金もない唯の大学生。
下手をすれば拉致監禁の容疑者に仕立てあげられるかもしれない。
「明日頭冷やして、話し合うか…」
そして冒頭に戻る。
「漫画みたいな不思議パワーを使う女性が急に現れました。なんて言ったら精神病院に送られるな。もう、外国人とか以前に人間かどうかを疑うレベルだわ。」
目の前でオニギリをムシャムシャと控えめに食べているイレブンを観察しながら現状の把握を努めた。
「あ~イレブンさん?他にも不思議パワー使えますか?」
「確か…」
そう言って今度は手のひらから半径一メートルぐらいの魔方陣が展開された。
「…これは?」
「これで物理的な衝撃を防げる。雨を凌ぐには最適。」
「…」
つまりバリアではないのかと思い横から覗いてみた。
「厚さは2mmぐらいかな…え~っとやっぱり頭が追い付かない。まるでラノベや漫画の世界に入った気分だ。」
頭を抱えて武はこういうラノベに詳しい忠に相談しようかと思い悩む、その時だった。
「欠片。」
「欠片?」
彼女は急に欠片と言って本を唐突に開く、その本の挿し絵に指を指した。
「私の力の欠片がここにある。」
「どういうこと?」
「欠片、欠片とは力と記憶。力と記憶の欠片がここにある。」
そう言って挿し絵に指を指す。
「え~っとヒント?場所のヒントを指しているの?それとも、この絵に関連するところ?」
その挿し絵、そしてその本は…
「桃太郎?岡山県に行きたいのかい?」
確か桃太郎は岡山県発祥だった。丁度論文を書く題材がないときに、誰も選ばなさそうな物を選んでいた。最も役に立つとは全く思わなかったが。
すると彼女は首を左右に振り、本を魔方陣に張り付け自身の右手を引いた。
「着いてきて、お礼は絶対にする。」
「はい?」
魔方陣が光り出すと、魔方陣は光の壁になり吸い込まれる感覚があった。驚き、危険だと思った武は待ってと言うが、あまりにも唐突な為蚊のような小さな声だった。
図書館に白に近い水色閃光が窓や扉から漏れる、そして収まった時には本だけが残されていた。