始まりと始まり
主人公の服装と趣味を修正しました。
澄んだ青空とは対照的にジメジメした湿気とセミの鳴き声が暑さを倍増させている。ただ木漏れ日が少し涼しさを感じさせていた。
その木漏れ日の中からスクーターに乗った青年が一人、スクーターの籠には携帯のキャリアが印刷された紙袋とスポーツ用のエナメル鞄が入っていた。
「暑い。」
目の前で遮断機が倒れるとため息をつく、一度倒れると電車が通りすぎるのに二分以上かかるという厄介なものだ。
買ったばかりのスマホを開いてみる、2010年に入った今世の中はスマホの時代だと言われている。世の中の流れに乗り遅れない為にも買うべきかと思いついに買ってみた。
というのも周りがあるアプリ、RINEを使って連絡を取っているのに対し、自分だけメールなのである。毎度連絡がワンテンポ遅れて来たり、最悪忘れられることもある。その現状を打開したい為に買ったことが本心である。
「と、いっても機械音痴なんだよなぁ。」
スポーツ飲料を軽く飲みながらブラウザを開く、とりあえずインターネット掲示板を開き今話題になっている内容を覗く。
名無し 夏だし肝試しかオカルト系の話しようぜ。
名無し そういえば神社で女の幽霊が出るって噂がある。http://sinrei.cm
名無し ひぃぃ俺の地元じゃねぇか((( ;゜Д゜)))
名無し その神社って確か教科書の帰ってこないあんちゃんのモデルになった所じゃね?
名無し 田舎の方でやばい図書館があるみたいだ。青髪の女が徘徊しているとかなんとか。
名無し 〉〉青髪って、黒髪の間違いだろ。
名無し なんか似たりよったりの話だな。
名無し ( ´・ω・`)もっと面白そうな話はないのかよぉ
名無し 米軍が見た幽霊が乗る特攻機の話知ってる?銃弾が全く効かずに最後は皆の目の前で消えたって話。
名無し そういえばそろそろ終戦記念日だな。おまいらコミケだけじゃなくちゃんと墓参りしてこいよ。
特に面白い記事はなく、ただの暇潰しだった。いつも通りの内容で特段目を惹く内容はなかった。
すると目の前で遮断機が下がる。
「あ…」
だが目の前のことが見えなくなるほどは夢中にさせたようだった。
そんな青年の名前は土岐 武 とき かける
大学一年でこれといった特徴はない。あるとしたらバイクの趣味があり、上着がOD色のライダースーツという見る人が見たら分かる微妙な特徴だ。購入の際店員から「ライダースーツはアウタージャケットジップアップがお勧めです」と謎の呪文を唱えられ購入してしまった。
暫くすると、何とも格式が高そうなその場所に着く。煉瓦造りの建物が見える。そこは彼の通う大学だ。その古さひ不釣り合いなカードキーを通して中に入る。
夏休みとはいえ中はクーラが効いていて、入ると一気に汗が引いた。
中に入り、階段を上ると研究室が見えた。研究室の中には同じく青年が座っていた。
「ようこそ文明の世界へ」
「人を過去の世界からやってきたように言うなし、ここは未来か?あとそこは教授の椅子」
「ガラケー使っている人はうちの教授みたいなオジサンぐらいだよ。」
「いや聞けよ。」
そんな彼は特徴のない青年と違い、容姿端麗で性格が良い。ただ重度のオタクで美少女をプリントしたシャツを恥ずかしげもなく着ている猛者だ。
彼の名は 佐々木 忠 (ささき ただし)幼馴染みだ。機械に強く、武道も嗜んでいるとチート機能でも入っているのではと疑いたくなるスペックである。
「さて、君のスマホを拝見しようではないか。」
「そこまで機種に拘っていない。とりあえずRINEとか、天気予報のやつとか色々いれといて。」
「はいよ。」
そう言って忠はスマホでアプリをダウンロードをしようとするが不思議そうな顔をする。
「他のスマホで何かしなかった?」
「店頭のデモのやつで動画サイトを覗いただけだが?何かあった?」
「他の端末でお前がアプリをインストールしていることになっている。」
「え~っとつまり?」
「武のアカウントで勝手に買い物してる人がいるかもしれないってこと。」
「え?何それ怖い。特定してくれ。」
「言われなくとも!」
忠はすぐさまスマホをUSBケーブルを繋ぎ、なんの操作をしているか分からないパソコンに繋げ算盤のような早さでキーボードを打ち始めた。
自分のアカウントで勝手に弄られるなんて堪ったものではない。まだ勝手にアプリをダウンロードするだけなら兎も角、これで変な買い物をされたら不安で夜も眠れない。
「あれ?同じ端末番号だな。」
「ん?どういうことだ?」
「えっとつまり、このスマホでインストールしたことになっている。」
「同じ機種で?」
「いや、そういうことじゃなく文字道理の意味さっき買ったばかりのこのスマホで。もしかして元からインストールされていたのに間違って消したとかじゃないの?初期化とかで。」
「んん?」
機械音痴な分変な操作をして初期化をしていないと言い切れないという考えと、流石にそれはないという二つの考えが合わさる。だが考えても結論の出ない答えに対しては
「多分そうだと思う。もう一度ダウンロードしといて。」
考えるのを止めた。
すると忠は待ってたと言わんとばかりに次の行動に移った。
「はいよ。wifiにも繋いでおくよ。通信料とか高いと思うから。」
「wifi?何だそれ?」
スマホ以外にもまた聞きなれない単語を聞き武は頭がこんがらがってきた。
「すんごい端折ると小さい電波局みたいなもの。あとコスパがいい。」
「とりあえずオーバーテクノロジーってことだけは分かった。」
「オーバーテクノロジーなもんか、十年前からあるものだぞ。」
「自分は機械オタクじゃないんで。」
ただ彼が使っている物は大抵あとから、皆使い始める。自分からしてみれば彼は流行の電波塔か受信塔だ、もしくは未来予知者だ。
「インストール終わるまでジュース飲む?ペプジしかないけど。」
「何でペプジだけだよ。」
「ペプジがあればタイムトラベルから異世界まで行けるぞ。」
「異世界はない。」
ツッコミを入れ適当な椅子に座りペプジを飲む。正直コケ・コーラとの味の違いが分からない、だが喉には関係なく爽快感を与えてくれた。
一口飲み終えると鞄の中から古いラノベを開く。
「おっ前に勧めた90年代のSFじゃん。マキシム博士って奴が出てからが本番だぞ。何処で手にいれた?」
「あの図書館借りてきた。」
「ああ、あの図書館か。鍵渡されたんだっけ?吹田も誘うか?」
あの図書館。
その図書館とはある変わり者の資産家が作った図書館だ。何でも昔の日本で学生運動と呼ばれるデモが流行になったとき、当時の図書館もその流行に身を任せその学生運動寄りの本を貸し出していた。
ただ、その資産家、もといじいさんが変わり者で「子供たちに火炎瓶を投げさせる本等読ませぬ!そんな図書館は危険だ!」と言って作った図書館だ。勿論国営ではなく私財を投じて作った。だが皮肉なことにその図書館は肝心の子供たちの親にあそこの図書館は危ないと躾られ、当の子ども達から敬遠された。ある三人を除いて。
その三人とは自分、土岐 武と佐々木 忠、最後は小中同じ学校だった吹田 素子だ。
「懐かしいよな。」
思い出が昨日のように思い出す、夏休み貴重な遊び場だったし勉強をする時も自然とそこに集まるようになった。
会長も嬉しかったのか、図書館であるのに菓子やジュースを振る舞ってくれた。
ただ高校からバラバラになり、そして大学に入学して間もない頃にじいさんは亡くなられた。たいそうな資産家だったらしく、会社も経営していたようだが、もう繋がりはなく知る術もない。最後に図書館の職員にじいさんの本業を尋ねたが職員は知らないと返答した。
「中学ぐらいで別れた吹田、元気にしてるよ。今専門学校で絵を描いているんだ。行ってあげたらいいよ。」
「…」
「もう、三年も経ったんだ。会えるだけ会おうじゃないか。向こうは仕方ないって言っているし。」
忠は気を使ったのか、それもと彼女の意思を代理したのかそう補足するが武は首を横にふる。
「会わせる顔がない。」
「気にしすぎだ、俺も同じクラスだったら救えるのかって言われると救えなかったと思うし。」
「…」
「止めだ!止め!明るい話をしよう。」
オーバーリアクションに手をふり椅子を回転させパソコンのページを見せる。
「最近サバゲーを始めたんだ、どうだここに写っているプレイヤーは?」
そこには時代はバラバラではあるものの兵士の格好をしたプレイヤーが並んでいた。
「装備を揃えるのに幾らかかった?」
「実は借り物なんだ、右端に中国軍の格好をした奴がいるだろ?」
指の先にはその他の兵士と格好の違いが分からなかったが、肩の辺りに中国の国旗のパッチが貼られていた。
「何故中国軍?」
「珍しいからだって、銃以外全部本物だ。」
しばらく雑談を楽しんだ後、スマホにインストールが終わった。
「天気予報のアプリに、ニュース、これは日記アプリか」
「ゲームは一つも入ってないんだな。」
「まぁ後で入れるよ。」
それからすることもなくなり、例の図書館にスクーターを滑らした。
例の図書館は東京都内にある、ただ東京都というだけで'ど'がつく程の田舎である。
ボロボロになった図書館の看板、そして手入れのされていない曇った窓。暫く管理されていないことが伺える。
「そういえば管理費とかってどうなっているんだろ?」
電気は太陽電池とかで動いているが、水道やガスは完全に止まっている。
職員も新しい職を見つけてからここを放置している、じいさんの親族にここのことを伝えたと言っているが、親族はここのことを忘れてしまったのではないかと思っている。でなければこんな得体の知れない若造が施設の鍵を掌握しているにも関わらず何も行動がないのは腑に落ちないのだ。
ここに毎日足を運ぶ理由はそれである。親族か会社員の誰でもいいので自分に接触し鍵を処遇を明確にしてほしいというのもあった。自分の知らないところで勝手に話が進み、不正に掌握していると親族に当たられては堪ったものではない。
「あのじいさん、全くもって謎なんだよな。」
だが変わり者だからと言っても悪い人ではない。全てが謎に包まれた人物だった。
ドアを開けて電気をつけるが何故か機能しない。何度とパチパチとスイッチをいじるが反応がなかった。仕方なく壁に埋め込まれている非常用の懐中電灯を抜き取り奥へ進む。
「バッテリーのスイッチかな?」
なにかの拍子でソーラーパネル用のバッテリースイッチが落ちたか、それのブレーカーが落ちたかを想像した。迷わず地下室に行き制御室に入るが、そこには変な物が置いていた。
「ん?」
卵形をした巨大なカプセルが鎮座していた。継ぎ目のような幾何学的な模様がありその模様はその中心には11と数字がプリントされていた。
また数字を中心に水色に発光しており、一言で言えばSF映画の何かの装置にも見えた。
怪訝な顔で見覚えのないそれを眺めているとスマホに着信が入った。
「これは?」
その着信はRINEによるものだったが、それは見知らぬ人からの着信だった。
「開けて」
RINEにはそう書かれていた。
そして画像も送られた。その画像はイラストで11の数字のところにスマホを押し付けるように示されていた。
「?」
意図は読み取れる、だが状況が読めなかった。何故送信相手は自分の連絡先を知っているのか、何故開ける必要があるのか。ただ胡散臭い状況下ではあったが、漫画やラノベではあるまいし考えすぎかと心の中で呟き試しに携帯を押し付ける。
するとその機械は反応しウィーンという開閉音を鳴らしながら縦に開いた。
反射的に少し後退りをし事の成り行きを眺めた。卵形のカプセルから水蒸気かまたは別の何かなのか大量の白い煙が吹き出てくる、そして中からフカフカの椅子そして謎のパネルがギッシリ詰まっていた。そして何より目に付いたのは…
「人間?」
水色の髪、そして碧眼、陶器のように白い肌をした人がいた。服装は古代エジプト人のようで、マネキンのように整っていて、作り物と錯覚してしまった。
「あなた…」
「え?」
ミステリアスな彼女からの第一声は、中二チックな謎めいたことを言わなかった。
「…あなたは誰?」
ただシンプルでかつミステリアスではある。
そう思ってしまった。