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悪意の襲撃4

 ブックマーク20,0000件突破ありがとうございます。

 1,100万PVありがとうございます。

 汚物は消毒のターン。

 お父様は護衛役と分かっていてもジュリアスに殺意がマシマシ。



「お父様、ジュリアスはゴミムシではありませんわ」


「では小蠅だな。私の美しい宝石花にたかる、卑しい羽虫だ。身の程を弁えないところがよく似ている」


「もう、お父様。どうしてそんなにジュリアスに意地悪な言い方をなさいますの?」


 あまりな言い様である。

 ジュリアスを見れば、従順な使用人そのものの姿で頭を垂れている。その表情はいつもの澄ましたものであり、感情は読めなかった。

 昔から手のかかるポンコツになんだかんだで仕えてくれるジュリアス。前世の品々を作りたいと駄々をこねる私に付き合ってくれる貴重な存在だ。

 それに、実は優しいのよ? 意地悪な物言いでサディスティック属性が隠しきれていないところもあるけど、私が本当に嫌がることは絶対にしない。

 困っていたり弱っていたりすると凄く優しくしてくれる――ただ、これをアンナに言ったら「騙されています」と愕然とした顔で言われた。何故そんなに信じていただけないのでしょう。

 お父様はわたくしを慈しみに溢れた眼差しで見つめるが、ジュリアスには鼻を鳴らして一瞥するだけだ。


「ふふ、アルベルは優しいね。どこかのあれらとは大違いだ。

 ――さあ、そろそろ離れなさい。まだ終わっていないからね」


 言うが早いか、お父様はトッと軽く私の両肩を押した。

 抵抗する暇もなく、あっけなく離れる。それを予期していたように、ジュリアスが支えてくれた。

お父様の後ろに大きな瓦礫がそそり立つ、何かが瓦礫を押し上げているのだ。同時にお父様の手には魔法剣が握られている。

 凄まじい魔力が渦巻き、お父様の体を覆う。一段と濃く錬成された魔力の本流は魔法剣の周囲を旋回している。


「くどい」


 お父様が恐ろしい速さで一閃を放つ。

 それは魔力を纏い、高出力の雷撃の刃となって人間だったはずのものを強襲する。

 流石に痛かったのか、グネグネと身もだえるカイン――といっていいのでしょうか。

 その周囲に魔力がうねったかと思えば、ぴしぴしと凍り付きカインの動きを阻む。その好機を逃すかと言わんばかりに鈍くなったカインに真っ赤に燃えた剣が突き刺さった。

 あのミスリルの剣には見覚えがある。カインに肉薄して白刃を突き立てたのはミカエリスだった。


「ミカエリス、離れろ! また来るぞ!」


「しぶといな」


 キシュタリアが警告すると同時に、後ろに飛ぶミカエリス。

 同時に凍り付いた体の表皮ごと吹き飛ばして、カインは氷柱となりかけていた己の拘束を解いた。苛立つようにびたんびたんと床を壊しまわりながら触手のようなものを振り回す。ミカエリスに突き立てられた剣の傷は、ぶすぶすと音を立てながら異臭を放っている。でも、徐々にその黒焦げた傷口は埋まるように消えていった。

 さらに凍った礫を細かく当てて氷結させようとするキシュタリアだが、不規則に動きながらその氷魔法に抵抗するカイン。


「分裂体は始末したか?」


「はい、父様。恙なく」


「分裂体には寄生能力はないようです……ですが、攻撃を受けた者達の動揺は激しく、統制もかなり乱れております」


 キシュタリアは手に魔法弾、ミカエリスは魔法剣を構えて隙なくカインを睨んでいる。

 公爵令息と伯爵という高位貴族のはずの二人なのですが、なんでこんなに実戦慣れしているのでしょうか?

 謁見の間にいた兵や騎士でも結構動揺しているのに。


「いっそのこと高火力の上級魔法で吹き飛ばしてやりたいのだけれど、下手に城下に逃げられたら面倒だな」


「父様が本気を出したら城が倒壊します」


「当たり前だ。アルベルを安全な場所にやらない限り、そんなことはしない……だが、下手に目の届かない場所に行かれても困る」


 当たり前なのですか……堅固なはずのサンディス王城が倒壊するのが。

 お父様の魔法はそんなに破壊力があるのですか。

かなり強張った顔でキシュタリアがお父様を見ている。お父様の本気の魔法、見たことがないですがやっぱりすごいのでしょうね。


「あ、あのお父様。わたくし、結界魔法で……」


「アルベルティーナ、これ以上の魔法の使用は禁止だ。

 三日は寝台で安静にして、一週間は部屋から出てはダメだ。魔法は今後一月一切禁止だ。

 ラティッチェの主治医が来るまではセバスかゼファールに診させる。王家からの医者は何と言おうと接見禁止だよ」


 即刻却下されました。

 あの、そこまで酷いでしょうか……わたくしの顔色は。その、頭痛はちょっとしますけれどまだまだいけますわ!

 ですが、そんなわたくしの抵抗を見越してかお父様が「めっ」と言わんばかりにおでこをトンと指で触れます。


「ダメだよ――まったく、親子の会話の途中だというのに無粋だな」


 ぶわりと熱気が巻き上がったかと思えば、炎の障壁がそびえたっていた。

 じゅ、と音がして襲い掛ろうとした影が燃えた。


「どの魔法もある程度効くようだが、やはり覿面に効くものは特にないようだな。光属性や聖魔法以外の属性はすべて変わらないのかもしれんな」


「どうしましょうか?」


 キシュタリアの属性は火水風土の四大属性。ミカエリスは火属性のはず。

 幸い、効かない属性はないとのことですが……弱点が分からないのは不安要素ですわ。


「このままではじり貧かと。一気に叩く方が良いのでは?」


「だろうね。ミカエリスは一属性しか使えないし、火属性で一気に燃やし尽くすか。

 まあ、多少城が焦げるけど背に腹は代えられまい。

 私は本体を狙う。もし奴が今の素体を捨てるようであれば面倒だ。周囲を囲い、それを突き破る素振りがあったら、先回りして素体を燃やせ」


 そういってお父様が手をかざすと、そこには赤い炎ではなく白炎が燃え上がる。

 燃え盛るというより輝いているように見える煌々とした炎だ。

 だが、手の上に浮いている程度なのに、ぞっとするような濃度の魔力が練りこまれていることがわかる。少し離れていても肌がピリピリとし、見ているだけで心臓が本能的な恐怖と緊迫で早鐘を打つ。

 キシュタリアとミカエリスも魔力で炎を生み出しているけど、お父様の手にしているものが、段違いに威力が高いというのは私にもわかる。

 目の前とはいえ障壁を作り出しているのに、さらに同時に別の魔法を短時間にこれだけ高出力で作り上げるお父様の技量には脱帽だ。

 恐らく、この障壁を取り払ったと同時に魔法を放つのだろう。

 高位魔法を三人同時に放つのだ。

 想像して身震いをすると、ジュリアスが包むように腕を回して抱きしめてくれた。鳥肌の立つ腕をさすると庇うように身を寄せてくれた。


「……とんでもない熱風と爆風が起こります。顔を私の体に付けてくれぐれも顔を上げないように。

 私も防護用のアミュレットを持っていますが、余波だけでも完全に耐えきれるか分かりませんから」


 耳打ちされ、ぴしりと凍り付いた。

 言われた通り、ひしっとジュリアスにくっついた。爆風で吹き飛ばされたら一瞬で襤褸雑巾になる想像しかできない。

 お父様に結界魔法だけでなく、すべての魔法を禁止されてしまいました。そもそも、今の私は疲労が蓄積しすぎて、碌に魔法が使えない。


「――来ますよ」


 ジュリアスが言うが早いか、なにかパキンと割れる音がした。

 一瞬だけ周囲が明るくなったが、ジュリアスに後頭部を押さえられて見えなくなった。

 ……ジュリアスの服に魚拓ならぬ顔拓ができていないといいのですが。

 暫くごうごうと強風が吹き荒れる音と、小さく軋みを上げる音が聞こえはじめた。もしかして、アミュレットの効果が負けている?

 あ、でもジュリアスにはくす玉アミュレットを渡しているから最悪、多少の怪我は軽減されるはずだ。あれは身代わり。使い捨てのリバースドールタイプだから。

 ……しかし状況的に、ジュリアスにはわたくしの肉壁になってもらうことにはかわりないのですが。

 ああ、ぼんやりしていないでポーションをすぐに飲んでおけばよかったです。

 そうすれば結界を張り直しできたかもしれないのですのに。

 わたくしは知らなかったのですが、ジュリアスのくす玉アミュレットはお父様の気まぐれにより既に使い物にならなくなっていたのだったりする。

 暫く身を縮めて、少しでもジュリアスが庇いやすいようにじっとしていたら静かになった。


「……持ったか」


 ぽつ、と安堵の滲む声が落ちる。ジュリアスだ。確認するように私の頭を数度撫でると身を起こす。


「お嬢様、少し移動しますよ。大人しく、そのままで」


 こくりと頷く。

 何か硬質的なものがぱりんと割れる。

 身を起こしてもうもうと砂ぼこりが立ち上る空間を見る。重厚で豪華であったはずの謁見の間が、崩落寸前の遺跡のようになっている。


「お嬢様、あまり顔を上げてはいけません。今の空気は埃が多すぎて、お体に悪いです」


 恐々ひょっこりと顔を出して周囲を伺った。ジュリアスは素早くわたくしの口にハンカチを当て、庇う様に肩口に押し付ける。

 言葉は柔らかいが、ジュリアスはねめつけるように周囲を確認している。

 その時、真上から影が差した。というか、私どころかジュリアスも一瞬気づかなかった。立ち込める砂ぼこりからぬうっと出てきたのだ。

 驚愕のあまり体を強張らせると、ジュリアスはすぐさま私を抱き上げて腰を浮かせた。その手には柄のないナイフが握られていて、すぐさま突き立てられるような体勢だ。


「………アルベルティーナは無事か」


「………ええ、御無事です」


 熊ぁーっ! いやーっ!

 声に出さなかったが、全身の毛が逆立つのが分かった。

 フォルトゥナ公爵だ。わたくしの天敵である。ジュリアスにしがみつけば、宥めるように背を撫でられる。いつの間にかナイフは手になかった。

 ジュリアスにかじりつくようにくっつき、フォルトゥナ公爵を伺いみる。

 私の猜疑心溢れる対応を窘めることなく、ジュリアスも怜悧な視線を向ける。そこには、最高位貴族への敬意などみられない。ただ少し、抱きしめる力が強くなった。

 なにを考えているか分からないフォルトゥナ公爵の、鈍色の瞳がこちらを見る。


「………無事ならいい」


 ぽつりと落とすと、なんだか心なしとぼとぼと下がっていった。

 警戒心を全開にして迎え撃つ所存でしたが、思いのほかあっさり下がっていくので少し驚いた。

 私が不思議そうにしていると、なぜかジュリアスが笑っている。口元をわずかに歪めたもの。くすり、と妖艶でいてどこかぞくりとする冷たい笑みだ。

 ……ジュリアスって男性なのだけれど、色気があるのよね。なんというか、冷気みたいな色気だけど。ミカエリスとも違うタイプの。メイド曰く、キシュタリアだって相当なモノらしいのですがわたしくしには感知できない。普段しっかりしているのに、たまに甘えてくるのがとっても可愛い自慢の弟ではあるのです。

 とそのとき、すっと音も無くジュリアスの首元に輝くものが押し当てられた。


「いつまで私の娘に触れているつもりだ、ジュリアス。

 用が済んだならさっさと離れろ」


「申し訳ありません。アルベル様、足元にお気を付け下さい」


 冷然と言い放たれる殺気の塊のような言葉。わたくしに目配せをするジュリアス。そっと床に足がつくように降ろされ恐々立ち上がった。

 ジュリアスの首元に魔法剣を突き付けていたのはお父様だった。

 あのう、父様? ジュリアスはわたくしを守るためにしていたことでしてよ?

 ジュリアスはお父様の前に膝をついて首を垂れている。そのジュリアスの首筋にぴたぴたと魔法剣の剣先を押し当てるお父様。あの、ジュリアスの髪が数筋落ちているのですが……

 冷たく、どこかつまらなそうにジュリアスを見下ろすお父様。

 ジュリアスは首に凶器が突き付けられているのにもかかわらず、静かに恭順を示している。


「お父様、あまりジュリアスを虐めないでくださいませ」


「…………庇う価値があるのか、これに」


 不服そうにしないでくださいませ、お父様。不貞腐れないでくださいませ。そんなお父様も可愛らしいと思いますが、だからといって従僕いじめはだめですわ!

 なんでそんなに殺意が高いのですか?

 困っていると、お父様が私の心情を察したのか剣を下げてくれた。ですが、ジュリアスの白い頬に赤い線が一筋。わざとですわね、お父様……


「それより、お父様。お怪我はございませんか? 先ほどはすごい風でしたけれど」


「ああ、問題ないよ。この部屋を壊し過ぎないようにアレを焼き払うのは少し面倒だったけどね。

 私の可愛いアルベルティーナ。お前こそ怪我はないかい?」


「ええ、何もありません。お父様、ありがとう存じます」


 すっかり娘溺愛モードになったお父様。

 これでジュリアスへのイビリはちょっと止まるはず。

 なんというか、お父様のジュリアスへの風当たりは一段と強い気がしますの。なんででしょうか? お父様は有能な人間を好ましく思うタイプのはずなのですが……昔から、ジュリアスに厳しい気がするのよね。

 ようやくお父様に甘えられますわ。わたくしの中のファザコンが騒ぎ出します。

 ねだるようにお父様を上目遣いで伺いみると、察したお父様が微苦笑とともに腕を広げてくれた。迷うことなく、腕に飛び込んだ。





 読んでいただきありがとうございました!


 頂いているご感想やメッセージはお返事しておりませんが、ありがたく読ませていただいております。

 更新をもってかえさせていただければと思います。


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