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建前と思惑

 ちょっと間が空きましたが更新です。

 アルベルは久々に信用できる人たちに囲まれスヤァとしています。

 アンナに心配を掛けまいと滅茶苦茶気を張っていました………アンナもそれに気づいていました。

 


 出されたものはすべて懐かしい味がして、優しい空気に囲まれていつもよりフォークもカップも進んだ。

 足元では毛足の長い絨毯の上で、ぷぅぷぅと変な寝息を立ててチャッピーが寝ている。

 ポッコリお腹を晒して寝そべる姿は大変可愛らしいのですが、何故かキシュタリアは物凄く微妙な呆れたような視線で見るし、ジュリアスに至ってはゴミを見る目な気がします。あれですわ。お茶を淹れようとしたカップをよく見たら、縁が汚れていたのを見つけたときの目にそっくりなのです。

 

 ………つまりジュリアスにとってチャッピーは茶渋などとほぼ同じ?


 もう! あんなに可愛いのになんでそんな扱いなのですか!


チャッピーは普通の動物ではないけれど、可愛いし私に害がない。それどころか癒してくれる。でもやっぱり妖精とか精霊という謎の存在なのか時折いなくなっている。

 空になったカップを片付けるアンナ。

 ついいっぱい食べてしまった。うう………ジュリアスったら絶妙なタイミングで次々と出してくるんだもの。ついついあれもこれもと欲張ってしまったわ。

 いつもなら「太りますよ」と「唯一の取り柄が無くなりますよ」と辛らつな言葉を吐いてくるのに、今日は何故かにこやかに取り出すだけだった。

 ちょっと食べ過ぎたかしら? 眠たくなってきたけれど、久々にキシュタリアとジュリアスに会えたのに眠りたくなんてない。

 気合よ、アルベルティーナ。根性で目を開くのですわ!

 でも、ねむねむ状態だったのはみんなにモロバレだったようでござる。

 ふらふらする頭を呆れ果てたジュリアスに小突かれて「寝ていていいですよ」とソファに転がされた。

 いつの間にか持ってきていたブランケットをふわりと被されてしまえば、もうすとんと眠りに落ちた。

 頭を、髪を優しい手が撫でる。紅茶の香りと甘いお菓子の香り。そして、ほんの少しだけ香水が仄かに混じるジュリアスの手。アンナの足音が少し離れた場所で聞こえて、キシュタリアの声が僅かに響く。会話の内容は分からないけど、声変わりした少し低めの柔らかいキシュタリアの声と、静かで穏やかなアンナの声。

 ジュリアスの香水は、お父様と似ているの。足音は静かで、でもしっかりしていてセバスに似ている。レイヴンも静かだけど、彼の足運びはしなやかな野生動物のよう。

 私が眠るときジュリアスは優しい。意地悪は言わなくて優しく頭を撫でてくれる。そっとシーツやブランケットを直してくれる。たまに、手を握ってくれて布団の中に入れてくれる。

私だけが知っている、私だけの秘密。


「おやすみなさい、アルベルティーナ様。良い夢を」


 額に落とされた柔らかい感触。

 久々によく眠れそう。そんな心地よい眠りだった。











「………とてもではないですが、会話になりませんでした。

 父はどこかとずっと泣きながら聞かれましたよ。やはり王太女と望まれるのでしたら、ラティッチェ公爵家当主である父に話を通して、父の口から説得させた方が安全かと思われます。

 まだその方が、納得もするでしょう………落ち着いたら話を切り出しては見ようとは思いますが、王家に移籍する話だけでもまだ早すぎるといわざるを得ないかと。

 迂闊に不安をこれ以上煽れば、さらに結界が強固になることもあり得ます………いずれにせよ、落ち着きを取り戻す時間が必要でしょう」


 柳眉を下げ、沈痛な面持ちのキシュタリアが静かに告げる。

 いけしゃあしゃあと嘘をつく公爵子息に、すました顔をした従僕は何一つ注意をしない。

 キシュタリアはたっぷりアルベルティーナを堪能し、甘やかし可愛がり、ヴァユの離宮を出るとき「また来るね」とにこやかに笑顔で手を振っていた。きょうだいとしては逸脱した触れあいであったが、相変わらずのポンコツ義姉のアルベルティーナも寂しそうであったが手を振って見送っていた。

 ジュリアスはジュリアスで、キシュタリアがアンナに今までのアルベルティーナの様子を聞き出している間ずっとアルベルティーナに寄り添っていた。

 美貌とあざとさだけは一級品のお嬢様は、寝ている間であってもジュリアスの服の裾を離さなかったのだ。いつの間にか握っていたのだ。

 珍しくその怜悧な美貌を緩めていたジュリアスに対し、アンナは氷柱の様な視線を寄越していた。キシュタリアは「あれ、本当に動けなくなるよなぁ」とどこか遠くを見て目を細めていた。

 ラティッチェ公爵すら引き留めるアルベルティーナの特技である。

 アンナやセバス、ラティーヌも餌食になったことがある魔性の手だ。

 そんなやりとりを知らない謁見の間の権力者たち。

 キシュタリアの報告を聞くラウゼス陛下も、ダレン宰相も、フォルトゥナ公爵をはじめとするサンディス王国の重鎮たちも重々しい顔である。錚々たる顔触れは、一様に苦々しくもある。

 それぞれ腹に思惑はあると言え、アルベルティーナの強力な結界に阻まれて窮しているのは同じだった。どうにかしてアルベルティーナと接触したい。せめて安否を確認したいのは、共通だった。

 数十年ぶりの新たなる王家の瞳――しかも結婚適齢期。家柄、身分ともに申し分ない。血統的にも、王家の色が出ても何ら不自然でない、確かな名家の姫君だ。すぐさま王家の一員として席を設けるに何ら不足のないほどの。

 半端な緑の瞳しか持たない謹慎を食らった王子たち。王族として自覚の薄い我儘な王女。現在王太子がいない上、その候補者たちが醜聞塗れなことを含めあまりにタイミングが良すぎた。アルベルティーナの存在は、まさに喉から手が出るほど王家に欲しい人物だろう。


「そうか………できることなら、本人に納得した上で王族として迎え入れたい。

 王家の後継不足は今代の最も痛い悩みであるからな………

 アルベルティーナも急に王城に連れてこられて身心をやつれさせているだろう。少し時間を与えてやるのも必要であろうな」


「陛下! 漸く現れた正しき王家の瞳の姫君ですぞ! そのような悠長なことを………っ!

 ラティッチェ公爵が戻れば、必ずや姫を領地へ連れてしまいます! 早急の御決断を! せめて、国内だけでもアルベルティーナ殿下の存在を周知させるべきです!」


 豪奢な衣装をまとう骨と皮に近いような老人が、しゃがれた声で叫ぶ。

 そのままヒートアップして血管や心臓がぷちっといかれて倒れればいいのに、と神妙な面持ちのまま内心毒づくキシュタリア。社交で鍛えた変幻自在の鉄面皮は絶好調だった。

 元老会が王家の瞳への執着が激しいのは知っていたが、謁見の間で唾を飛ばしながら激しく捲し立てる姿には老害の文字が浮かぶ。


「アルベルティーナは『ラティッチェ公爵令嬢』だ。何れ形を整え、王家に組み入れるべき存在ではあるが、四大公爵家であるラティッチェ当主の意向を全て無視するのはおかしかろう」


「あの男の娘への執着は尋常ではないと聞きます! そのような時間は………!」


「前提が違う。最も先に許可を取るべきは、そのグレイルだ。

 あの男の隙をついて、意思を無視して形だけの王族にしても無駄だろう。

 ………なんということをしでかしたのだ。フォルトゥナ公爵。お前らしくもない、何故ああも強引にアルベルティーナを連れてきた」


「………一刻も早く、お見せすべきかと。この老骨、恐れながら申し上げます。前王陛下が身罷り、陛下のご兄弟も相次いで身罷られました。我が妻も、娘も亡くなり、サンディス王家から陛下と同じ色の眼を持つ者は絶えたとすら思っておりました。

 我がサンディス王国は、大国あらずとバレンシュタット帝国やゴユラン国やウォレス王国をはじめ周辺諸国の大戦を押さえている最大の布石。我が国の守りあればこそ戦は避けられております。

後継者に恵まれず我が国の防御が落ちたとなれば、我が国は戦火の蹂躙を受ける可能性はけして少なくないでしょう」


 王の苦言には、流石のフォルトゥナ公爵も口を開いた。

 この国の元帥はラティッチェ公爵であるグレイルだが、騎士団をまとめるのはフォルトゥナ公爵である。

 サンディス王国軍の一角を担うものとして、国防の観点からも王家の問題は深く関わる。王家の結界魔法の後継者維持は国防の最重要事項の一つである。

 強引にアルベルティーナを連れてきたことは褒められたことではないが、ラティッチェ公爵とも遺恨が多い以上色々と腹に据えかねていたのだろう。フォルトゥナ公爵の愛娘、クリスティーナはラティッチェ家に嫁いだ。そして、そのままほとんど会うことなく早世した。彼にしてみればグレイルは、娘を色々な意味で奪った男だ。

 今回の件で、またこの二大名家の軋轢は増しそうだ、と内心ラウゼスは頭を抱える。

 ラウゼスの記憶のアルベルティーナは、まさに生き写しといっていい程にクリスティーナに似た美少女だった。

 クリスティーナよりおっとりとした喋り方をする、朗らかな中に幼い笑みが印象的の愛らしい少女だった。

 一目見て理解した。あれではガンダルフの興味を引くのも仕方がないとは思っていた。髪や瞳の色までクリスティーナ似であれば、なおさらだ。

 結界の中に入れず、見えない姿に内心はかなり肩を落としているのをラウゼスは知っている。

 不器用な男だ。武骨で、愚直で、実直で――その実、愛情深い男だ。

 愛する二人の女性の血筋を如実に表すアルベルティーナは、その姿だけで彼を喜ばせただろう。本来なら、フォルトゥナ領地に連れて帰りたかったはずだ。

 だが、様子を聞く限りアルベルティーナはフォルトゥナ公爵をだいぶ恐れているようだ。

 知らない男に誘拐されるようにいきなり家から出されて、アルベルティーナは随分泣いていた。その痛々しい程の様子に、息子のクリフトフもガンダルフを諫めたらしい。だが、聞く耳をもたなかったそうだ。

 青二才しかいない、賊の入った場所に等置いておけないと。

 強引過ぎる連れ去りはグレイルとガンダルフの間だけでなく、実の孫娘に当たるアルベルティーナとも確執ができたとしてもおかしくない。グレイルはもろ手を上げて喜びそうな話題だ。逆にクリフトフのガンダルフを見る恨みがましさの滲む目はさもありなんというべきか。

 親子そろってアルベルティーナに激しく嫌われているとはまだ知らないガンダルフ。

 ラウゼスの中では、ふわふわとした愛らしい印象が残っている。グレイルよりは断然説得しやすい――会えれば、の話だが。

 もとより、グレイルが物凄く難関過ぎる。

 両家の立場や軋轢、二人の気持ちも分からなくはないラウゼス。

 もしこの二つの家の仲が修復するとなれば、アルベルティーナにかかっていると思ったがその希望は盛大に木っ端となった。

 ガンダルフも大暴走をした、かつ原因の一つは年甲斐なくやらかした自覚もあるのだろう。いつもより歯切れの悪さが明らかだ。


「………ラティッチェ公爵家にはご子息がいらしたようだが、あのように大量の賊の侵入を許してしまうようでは未熟。あそこには置けないと判断いたしました」


「恐れながら言わせていただきます。賊は引き渡しましたが? 強く抵抗するものは始末せざるを得ませんでしたが………

 まあ、首謀者はそちらが逃がしてしまったようですが」


 首謀者、とは元ダチェス男爵令嬢のレナリアだ。

 手配状が出ていたため、王国に突き出したもののあっさり逃げ出した。折角生け捕りにした犯人。それは王国軍側の落ち度だ。

 キシュタリアがすぅっと青い目に静かに怒りを迸らせながら睨む。それをあっさり鈍色の隻眼の視線が打ち返した。


「牢番たちも、王城の警備兵や騎士たちもすべて選別し直した。

 どうやら普段目を光らせている悪魔が少し留守にしている間に、勝手に馬鹿が余計な人間をねじ込んだようだな」


「それはそれは………お忙しそうで何よりです」


 そういってほほ笑むキシュタリアだが、目は凍てついている。

 キシュタリアにしてみれば「何度も逃げられてお前らの眼は節穴か」と盛大に罵りたい。

 言外の嫌味を感じ取るには十分だったはずだがガンダルフは黙っている。

 ここ数年の貴族や騎士、兵たちの意識低下は明らかだ。質が下がっている。前王たちが享楽に耽り、メギル風邪が流行り目ぼしい貴族の跡目だけでなく、王位継承者は死に絶え、転がり込むようにラウゼスに玉座が来た。

幸いなのが優秀だが性格に問題のありすぎるグレイルは、意外にもラウゼスには忠実だったことだ。その辣腕をもって問題を次々解決していったが、情勢の急変に付け込んで幾度となく権力の甘い汁を啜ろうとする輩は絶えない。いつの時代も、そういったものは消えないのだ。

 現在、爵位を引き継いだ貴族たちには本来なら継ぐ予定でなかった次男坊以下が多い。金のない貴族など、長子以外には後継者教育を施していないものは少なくない。

 ラウゼスは安定した統治をしていたが、その足元を支えるべき貴族たちが心許無いのだ。

 不正、癒着はそういった貴族としての心得が甘いものが多くいることも原因だ。

 グレイルはそういった盆暗に地位を与えるなら、最早血筋より実力でとるべきだといったスタンスだ。王家とは違い、貴族に血族継承の魔法などほとんどない。おかげで、新興貴族には新進気鋭というべき粒がいるときく。

 そういえばキシュタリアの良く連れているという従僕は、子爵の地位も得ているという。

 ローズ商会を手掛け手広く商売をしている。新興貴族で、領地も持たぬとはいえその影響力は侮れない。平民から貴族まで老若男女問わない客層を持っている。ローズブランドは流行と技術改革の最先端を行く。その影響力は侮れない。





 冷え冷えとした薄ら寒い、二重音声の聞こえそうな会話が交わされる。

 こっそりと存在感を殺して筋肉大熊公爵と魔王ジュニア公爵令息を眺める貴族が多数いた。フリングス公爵もその一人だ。

 四大公爵といわれてはいるが、ラティッチェの勢力がずば抜けており、第二勢力のフォルトゥナとばちばちと火花を散らしている。

 レブラント・フォン・フリングスはその度に存在感を殺して、様子を観察していた。

 絶大な魔力と絶世の美貌を持つ魔王公爵ことグレイル・フォン・ラティッチェ。

 存在感から規格外の猛将にして騎士公爵ことガンダルフ・フォン・フォルトゥナ。

 あらゆるものが真逆であったが、二人とも見応えがあった。

 基本、会話は凍えて空気はひび割れていたが、フリングス公爵の心臓には毛が生えていた。もっさもさの剛毛が。

 この二人がバチクソに激しい喧嘩をした後、八つ当たりのように執務や訓練にあたる。

 殺気をまき散らしながら仕事をするので、周りはその火の粉を被りたくないとあくせく働いて、その時は王城の仕事速度が少なくとも三割増しになる。

 いいことづくめじゃないか、と大臣たちが胃を押さえているのを無視して頷く。

 是非、娘にもこの激しい男同士の仁義なき諍いを見せてあげたいと思っていた。

 残念ながら平凡なレブラントと似てキャスリンは大人しそうで地味な顔立ちだ。美しい妻に似て欲しかったとこぼすと「え、嫌ですわ。群衆に埋もれたい」とそっけなく断られた。自分と同じく人間観察の趣味の娘は、レオルドの婚約者でありながらどうも権力に興味が薄い。婚約者の歓心より、趣味を優先する図太い性格は、我が娘ながらあっぱれだった。

 あの大熊公爵相手に引かない若きラティッチェの後継者をしげしげと観察する。

 クリフトフはいけ好かない優男と称していたが、なかなか気骨がある。フォルトゥナ公爵の睨みに耐えられる人間など、同年代にどれほどいることか。


(………王城の牢にまでネズミの侵入を許すなんてね。そこまで腐敗がのさばっているとは。大物はラティッチェ公爵が大鉈を振るったときに仕留めたが、まだ残党は随分息をひそめていると見た。

 いや、狡賢いからこそラティッチェ公爵がいる間は引っ込んでいたと考えるべきか。

 ああ、小賢しい。鬱陶しいなぁ。アイツらが色々掠め取るせいで、いくつ事業がとん挫したことか。ラティッチェ公爵がいないとなれば、あいつらは結託しようと動きだすはず。

 今捕まえられるのは精々我慢のきかない小物。

 うーん、今のラティッチェのご子息とガンダルフ殿はだいぶ頭に血が上っているから僕がやんなきゃだめかなぁ~? ダレン宰相もちょっときな臭いし………)


 一番は誰かがやってくれた後にそっと不自然でない程度に上前をはねること。

 レブラントは大鉈を振り回すのには向いていないが、その影でそっと自分の利益を確保するのが得意だった。ラティッチェ公爵は自分に不利益が無ければ、さして目くじらを立てない。元々、我欲はない人だ。大切なモノに手を出さなければ、だいぶ大らかとすら言える。そして、レブラントも自分が得た利益の恩を小出しにしてそっとラティッチェ公爵家に色々な形で返した。

 アルマンダイン公爵を見れば、硬い顔をしている。

 ルーカスの失脚に、メザーリン王妃と負けず劣らずの大打撃を受けたのは彼だろう。

 娘のビビアンはルーカスの散々な振る舞いに、彼女はおかしなことをしていないというのにケチがついてしまった状態だ。今から縁談を組みなおすにも、これ以上自分の勢力を削がれたくないメザーリンが渋っている。

 アルマンダイン公爵家は王位継承の可能性は相当低いと言え数少ない王族の縁者という利点を手放せなかった結果、ずるずると今まで婚約は残ってしまっている。

 だが、その利点もラティッチェ公爵令嬢が王家の瞳を持ち、かつ未婚で婚約者すらいないという状態の前では完全に悪手となった。

ビビアンは王太子妃候補から、一気に価値が下落した。どうしてもこの状況で新たなる婚約者を探すとなれば、かなり格下をから選ぶか、問題のある若者、もしくはかなりの年上などといった相手だ。外国から探すにも難しい。

 ビビアンと釣り合いの取れるほどのクラスで、優良株といわれる年頃の男性はほぼもう残っていない。

 アルマンダイン公爵としては娘の価値は大幅にアルベルティーナの出現により下げられたが、同時に新たなる機会も設けられた。

 アルベルティーナには婚約者がいない。

 彼女ほどの家柄となると、最低でも伯爵以上の家柄でないと候補にすら上がらない。

 アルマンダイン公爵家には、未婚の男性が何人かいたはずだ。打つ手はある。

 今後、あの令嬢の婚約者選びは熾烈を極めるだろう。

 それにしても事の運びの強引さが目立つ。ラウゼス陛下が渋るにもかかわらず、アルベルティーナを今すぐにでも王太女にしたいと大臣や元老会は声高に叫んでいる。押し切られるのも時間の問題だ。

 ラティッチェ公爵の愛娘への溺愛は相当のものだと聞く。あわよくば、娘を使ってラティッチェ公爵を従わせたいのだろう。

 鬼のいぬ間にと言っても、横暴にも程がある。


(いやー、怖いもの知らずって凄い。明らかに逆鱗だよね)


 従わせる前に魔王が暴れ尽くして、娘を取り返しにかかるだろう。

 無謀にも程がある。それとも、グレイルを完封するほどの秘策でもあるというのか。

 ルーカスの大失態の時は、アルベルティーナ本人の取り成しにより粛清は終わった。

 レオルドの婚約者であった娘のキャスリンは巧く立ち回ったらしくお咎めは飛んでこなかった。

 炯炯と榛色の眼を静かに光らせ、レブラントは観察する。

 いつもならその中心にいるはずのラティッチェ公爵が不在。

この波乱の手綱は、誰の手に握られるのかと。







 読んでいただきありがとうございます。

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