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親子の形

本人たちは真面目


 

 アルベルティーナの少し遅めの反抗期が来た。

 グレイルの暴挙はゼファールにより告発され、愛娘の怒りに触れたのだ。

 むくれるアルベルティーナと落ち込むグレイルに、周囲の反応は様々だ。面白がる者、自業自得だと呆れる者、どうしたものかと慌てふためく者。

 グレイルにとっては天変地異よりも大事件だが、周囲からすれば可愛らしい親子喧嘩だ。あの我が道を行くグレイルが、ずっと謝るタイミングを見計らっている。しかもその相手が、温厚なアルベルティーナ。当の本人たちにとっては大ごとだが、周囲にとってはそうでもない。

 世にも珍しいグレイルが戸惑っている姿を、楽しんでいる者は意外といたりする。


(さすがに今回はアルベルティーナも折れないだろう)


 やっと得たお許しがすぐに撤回されてしまった。

 面白がっている代表のフリングス公爵から話を聞いたラウゼスは、苦笑するしかない。

 グレイルが戻って以来、ラウゼスの執務の量はかなり減った。今まで元老会やその派閥の貴族が出してきた不可解な増税や、法案が減ったから。

 出してくる人間がごっそり減っただけでなく、ラウゼスの目に触れる前にグレイルが確認する。その時点で却下される。根拠や正当性のない議題がラウゼスの下へ届かない。

 ラウゼスが盛られた毒はかなり強く、寝たきりの間に体力や筋力も落ちた。それでも不思議と気持ちは軽い。


「ラウゼス陛下、お疲れならばお休みください」


「少し考え事をしていただけだ。体調は良い」


 手の止まったラウゼスを気遣うのはガンダルフだ。

 コーディーたちの姦計により彼もまた被害を受けた。ラウゼスに毒を盛ったなどと覚えのない罪を着せられ、ろくに調べられず冤罪のまま投獄された。

 四大公爵家の一つフォルトゥナ公爵家の当主でありながら、随分な扱いを受けていた。もともと騎士として体を鍛えていたこともあり、その後に後遺症が残ることはなかったが、気弱な貴族だったらすぐに精神的にやられていただろう。

 ふと、ラウゼスは時計を見てため息を一つ。

 タイミングを計ったように来客の知らせが来た。


「……来たか。ガンダルフ、貴公にも同行を頼みたい」


「仰せのままに」


 家臣の礼を取るガンダルフ。訪問者はグレイルをちらりとやると、小さく鼻を鳴らした。

 色々言いたいことがあるが、以前のような剣呑さはない。一触即発の空気を漂わせていることが常だったのに、二人とも急に丸くなった。


(……いや、違う。きっと二人とも警戒していたのだろう。いつどこで、元老会やコーディーたちが動くか分からないから、今までは露骨に険悪にしていた)


 表面上は犬猿の仲を演じていた。この二つの家は絶対に手を組まないだろうと印象付けていたのだろう。

 確かに二人は仲良しこよしとは言い難く、性格の不一致はある。

 でも、本当に大事な者を守るためなら――と底の部分で通じ合うものがあったのだろう。

 そして今は、互いに『大切な者』がぴったり一致している。当の本人のアルベルティーナはかすがいになっていることなど知らずにいるだろうけれど。

 

(最近はガンダルフとの仲も良好のようだし、この二人が同じテーブルに着く日も近いか?)


 今まではどんなお茶会や夜会でも、両家を招待することがあっても近いテーブルに組ませることはなかった。社交界でも二人の不仲は周知のことで、催しを台無しにしたくなければ別々に招待する貴族もいるくらいだ。

 王家主催のお茶会ですらそうだったが、これからは変わるかもしれない。

 だって、二人はあの少女にとても甘いから。


「おい、小僧。またアルベルティーナを泣かせおって。さっさと謝らんか」


「分かっていますよ。これでも反省しているんです」


 仲直りしろとせっつくガンダルフに、不服そうながらも同意を示すグレイル。

 挨拶もせず、最初の会話が例の親子喧嘩について。そんな二人に笑みがこぼれるラウゼス。

 ガンダルフとグレイル。グレイルとアルベルティーナ。この親子は大丈夫だ。

 仲は修繕される。少なくとも、この家族はこれ以上に悪くはならない。


(私は間に合わなかった。……もう、何年も前からずっと昔から壊れていた)

 これからの未来を考えると心が軋む。胃に鉛でも詰まったように不愉快だ。足取りは重くとも、覚悟を決めたからには進まなくてはいけない。

 ラウゼスが向かう先には、彼の家族がいる。

 二人の妻と、三人の子供たち。

最近できた義娘は、絶対にこられないようにしている。ラティッチェ公爵家とフォルトゥナ公爵家の、親しい人たちに囲まれて、何も知らずに楽しい時間を過ごしている。






読んでいただきありがとうございました。

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