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第二次反抗期、到来

親子の時間




 お父様とお散歩です。お父様成分を大量に補給中。あーっ、潤います。何というか、幸福感と安心感がマシマシですわー。わたくしがほわほわしていたら、向こうからすごい勢いで向かってくる人影が。

 あ、お父様もどき……ではなく、ゼファール叔父様です。

 なんだか、珍しくぷんすかモードですわね。わたくしと目が合うと、素早く一礼を取ってからお父様に迫ります。

 ゼファール叔父様、律義ですわね。かなり慌てている時でも真面目に礼節を忘れない方ですわ。


「兄様! この魔法についてお聞きしたいことがありま――むぐ!?」


「お前は、私たちを見て親子の交流の場だと分からないのか?」


 これはアイアンクロー? 生アイアンクローですわ! 初めて見た……あ、叔父様が苦しそう。

 ついでに言えば、ゼファール叔父様に引きずられてきたヴァニア卿もなかなかグロッキーなご様子。

 同じくらいの体格の叔父様を片手で軽々と持ち上げるお父様。身体強化の魔法を使っていらっしゃるのかしら?

 じたばたと藻掻くゼファール叔父様の様子に周囲のメイドは唖然、騎士はドン引きですわ。


「お父様。叔父様も悪気があってのことではないのですから、許してくださいまし」


「アルベルがそう言うなら仕方がないね」


 顔だけこちらに向けて、素敵な笑顔のお父様。でもその手は、ずっとゼファール叔父様の顔面を鷲掴みしています。

 高い位置まで持ち上げたまま、パッと唐突に放すとゼファール叔父様が青ざめた顔で膝をつきました。

 原因にして主犯のお父様は、なんでそんなに冷たい表情なのでしょうか。


「話が長くなりそうだから、今日はこれでお暇するよ。また夕食でね、私の可愛いアルベル」


「はい、お父様。行ってらっしゃいませ」


 お散歩中断は残念ですが、お父様は多忙なお方。今日のお父様の供給はしっかりできました。それに、明日も明後日も会えますもの。同じ王宮にいると思えば、寂しさも我慢できます。

 お父様を送り出そうとすると、それを止めたのはゼファール叔父様でした。


「ダメダメダメ! 殿下がいないと有耶無耶にする気だろう!? この魔法はなんだよ!? 魔物にでもなる気だったの!?」


 なんですって?





 時が止まった。








 その情報に、今までになく機敏な動きでアルベルティーナがグレイルのマントを掴む。

 愛娘に捕まったグレイルは苛立たし気にゼファールを睨んだ。自分が不利な状況になると分かっていても、アルベルティーナの手だけは払えない。

 だからそうなる前に退場しようとしたというのに――弟の口が滑るほうが早かった。


「……どういうことですの?」


 ぽつりと問いただすアルベルティーナ。その声音は静かで、違和感しかない。

 強い感情を押さえつけている。嵐の前の静けさだ。

 そんな静のアルベルティーナとは真逆で、ゼファールは興奮を抑えきれないまま暴露する。グレイルを諫められる唯一の相手に訴えるしか、有効手段がないのだ。この機会を逃すことは絶対にできない。


「兄様の復活の方法だよ! 聖属性や光属性を持たない兄様が、あの魔物の性質を取り込むために魔力を同化させて無事に済むはずがない! たまたま殿下の結界が肉体や精神の浸食を完全に遮断したから何とかなったけれど、そうじゃなかったらアンデッド化していた!」


 その言葉に、その場が水を打ったように静まり返った。

 痛いほどの静寂を打ち破ったのは、アルベルティーナである。


「…………お父様?」


 可愛らしい、鈴を転がしたような声音。

 だがその裡に潜む深淵。果てしない常闇がじわりと滲むような、空恐ろしい問いかけである。


「こちらを向いてくださいな、お父様。ゼファール叔父様の仰っていること、事実なのですか?」


 アルベルティーナは微笑んでいる。だがいつもの誰をも穏やかにさせ、魅了する笑顔ではない。

 見た瞬間に恐怖で体が凝るような、ぞっとする表情だ。

 グレイルはこの笑顔を知っている。今は亡き最愛の妻、クリスティーナが本当に怒った時の表情もこうだった。

 誤魔化せないと判断したグレイルは、ため息を小さく吐いた。


「回復や蘇生の魔法適性がない私が死に戻る方法はそれしかなかった。私の魔力量と知識に精神力、そして素体である肉体の管理さえできれば百年くらいは正気でいられたはずだ。アルベルの生きている間だけ人の振りができれば、十分足りたんだ」


 その後は?

 生き甲斐を失った、人ならざる者と化したグレイルはその後どうなるのだろうか。

 もし百年で理性を失わなければ、永劫のような時間を過ごさなくてはいけないかもしれない。その間に徐々に狂ってしまう可能性だってある。

 グレイルの愛は深い。命も、人であることすら捨てられるほどに。

 同時にそれはグレイルを人足らしめる頸木だ。正常的な精神の主柱を失った後、グレイルは本物の怪物となる。人間の時点で人外魔境なのだから、想像すら恐ろしい存在になるのは言うまでもない。

 だが、それよりアルベルティーナにとって重要なのは『そんなことをやろうとした』こと。それが問題である。


「………お父様の馬鹿あああああ! お父様は人間なのー! 年を取るのぉおお! わたくしがちゃんと看取って、満足した人生を送らなきゃダメなの!」


 幼女泣き、再び。

 第二次アルベルティーナ反抗期勃発である。




読んでいただきありがとうございました

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