侍女ベルナ
ベルナ姐さん、参戦です。
国王ラウゼスの暗殺未遂事件。アルベルティーナもただ黙っているだけではなかった。
フォルトゥナ一家が捕まったことに納得していなかった。事件の詳しい状況の説明を求め、フォルトゥナ一家に面会を申し入れた。
疑惑も晴らさず釈放を要求するのは、さすがに難しい。
事件の真相を調べたくとも、すべてコンラッドの管轄下に置かれているようだ。
彼の許可がなくては、王太女であっても教えられないと突っぱねられてしまった。
キシュタリアやミカエリス、ゼファールも動いてくれたようだが、同様の対応をされたそうだ。こちらは、アルベルティーナに比べて随分な態度でもあったそうだが。
アルベルティーナはどうにかできないかと考えあぐねた。
だが、ヴァユの離宮の警備体制は相変わらずダンペール子爵家とダナティア伯爵家の関係者ばかり。アルベルティーナのごく身近な護衛のみ女性騎士が許可された。
警備が変わってから、何度も部屋に忍び込もうとした輩がいたのだ。
裏でレイヴンが暗躍し、アンナもあらかじめトラップを仕掛けていたので事なきを得た。
酷い日は、同日に二度も三度も騒ぎが起こるありさまだ――これでは、警備を総括するダンペール子爵やそれを任命したコンラッドの面目が丸潰れである。
相互監視のためにも、警備の人数自体は増えたがちっとも安心できない。
警備の目が多ければ、警備対象のアルベルティーナは自然と多くの監視を受ける。
せめてもの救いは、コンラッドの訪問回数が少なくなったことだ。
それでも、週に一度は絶対に来るのは悩みの種だ。
アルベルティーナは相変わらずコンラッドが嫌いで苦手であった。
「初めまして、アルベルティーナ王太女殿下。本日よりヴァユの離宮の侍女頭となります、ベルナと申します」
そう言って頭を下げた女性はとても、目鼻立ちのはっきりとした綺麗な人でした。
小さな白い顔に弧を描く赤い唇。艶のある黒髪は秀でた額と輪郭を縁取る少し長めの前髪以外は、すべてシニョンにまとめています。黒い瞳は少し物憂げでしっとりとした雰囲気があります。
お仕着せでもわかるメリハリのある体に、どことなくメランコリーというか未亡人のような色気を感じる――ラティお義母様も美しいですけれど、また違った大人の美貌を持っています。
「どういうことですの? ベラがいない今、その役目はアンナがやることになっているはず。貴女はヴァユの事情など知らないでしょう」
ベルナの顔は見たことがない。少なくとももともとヴァユの離宮を担当していた侍女ではないのでしょう。引き籠りのわたくしでは、王宮の侍女なのかもわかりませんわ。
これほどの美女であれば、自然と噂になったり、目に留まったりするはずです。
じっとベルナを見ると、彼女は赤い唇を隠すように手をやって小さく首を傾げます。
白く細い指が鼻の半ばまで顔を隠しますが、そんな仕草をしても整った顔立ちが分かります。
「確かに最近までは別の仕事をしていました。ですが、以前こちらで働いていたので勝手は分っています」
にこりと隙なく微笑むベルナは、引き下がる気配がありません。
「それに王太女殿下の専属侍女はアンナ一人と聞きます。貴女様のお立場を考えると、最低五人は欲しいところです。もし、アンナが体調不良になった際に殿下を煩わせるなんて、あってはなりませんからね」
「アンナ以外の侍女、いらないわ」
そう、いらないの。欲しくない。ベルナはわたくしとアンナの間に割り込もうというの?
コンラッド・ダナティアはジュリアスやトリシャ伯母様、クリフ伯父様やお祖父様を取り上げるに飽き足らず、アンナまで奪おうというの?
ベルナを睨み告げるが、彼女は「そんなつもりは」とまた手で口のあたりを押さえます。
「王太女殿下にご不快な思いをさせるつもりはなかったのです。お許しください。
ですが、フォルトゥナ公爵家の者たちがこの離宮から暇を出され、人手不足なのは事実です。陛下の次に尊い御身を煩わせるのを黙って見てはいられません」
芝居がかって「よよよ」と言わんばかりに顔をそむけるベルナ。
美女の悲哀にぽへーっとしている護衛騎士がいます。ダンペール子爵が厳選した騎士だそうですけれど、たるみすぎですわ。猫のお腹ですの? 猫のお腹はルーズスキンと言って、だるんだるんですわ。
猫ちゃん撫でたい。癒しがないのですわ。
…………猫の代わりに、黒猫っぽいレイヴンでも撫でようかしら?
小さい黒猫さんが、いつのまにかめきめきと成長してすっかり大猫さんになってしまっていましたが。
大猫さんになっても、レイヴンは優しくてよいこのまま。お願いすれば撫でさせてくれるはず……!
いけません。意識がそれましたわ。
どこか意味深な笑みを浮かべたまま、ベルナはそれ以上何も言わずに引き下がりました。
「アンナ以外、いらない」
去っていった背中に言葉を投げる。
ぼそりと呟いた声はアンナに聞こえていたようで、頬を染めながらいそいそとわたくしにカーディガンをかけてくれた。
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