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気配

最近涼しくなってきましたね。

ほんのすこーしですが。朝に全く起きれなくなってきました。



「アルベルはなぁ……アルベルだけは父様の食べ物の好みを見抜けたしね」


「無いとは言えない……ですね。ラティッチェ公爵……いえ、グレイル様に関しては機嫌の取り方といい、非常に敏い方でしたから」


 アルベルティーナは社交もできないヒキニート令嬢だったが、グレイルの扱いはプロだった。グレイルがアルベルティーナに非常に甘いのもあるが、それを差し引いてもアルベルティーナは特殊だ。息をするようにグレイルの望む言葉と行動をとっていた。

 絶妙に機嫌や嗜好を見抜き絶妙におねだりをする。そのおねだりすら、グレイルを喜ばせていた。


「ちなみに、この偽首の材料にはほぼ確定で閣下の本物の首が使われている。作ってすり替えた犯人は、今も本物を持っている可能性が高い」


「断定できるのか?」


 ラウゼスが口を挟むと、思い出したように口を押えて「やべっ」とした顔になるヴァニア。ついついいつもの砕けた口調でしゃべり続けていた。


「はい、陛下。ホムンクルス技術は非常に高度です。かつて失われた古代の秘術であり、どこの場所でも禁忌として封印されています。

 恐らく犯人は死に物狂いの研究を重ね、文献を探し読み漁りこの域まで達しました。

 そんなイカれた技術者が、極めて優秀な魔法使いの個体であり複数の特殊な血統をもつ閣下の体を早々簡単に破棄するとは思えません。少なくとも、すり替えにバレていないと思っているのならば貴重な研究材料として取っておくはずです。貴重なホムンクルスの製造サンプルとしても、重要でしょうしね」


 グレイルは父にラティッチェ公爵家、母にウィンコット侯爵家を持つ。

 父は魔法使いとして凡庸だったが、血統としては王家や上級貴族の流れを汲んでいる。

 母親は隣国ウォリスの魔法使いとしてエリートの家。強力な魔法使いや特殊な魔法使いを多く輩出しており、グレイルの魔力の強さはこの血筋からだろう。


「恐らく、この首もオリジナルである閣下が非常に豊富な魔力があったから作り易かったのでしょう。魔力がカッスカスの素体から写し取るより、ずっと定着させやすいはずです」


 ヴァニアの説明に、キシュタリアはぎょっとした。


「待って。それって父様でまたホムンクルスとやらを作ろうとするってこと?」


「逆に言うけど倫理観が壊れた奴が、こんな上手にできて大人しくしていると思う?」


 ヴァニアが肩を竦めた。

 ホムンクルスに手を出した犯人は自分の満足する完成品ができるまで、妄執的に繰り返すだろう。

 この技術は禁忌だが、金にもなる。生も死も偽造できる。研究には膨大な費用が掛かるから、金銭援助はあるだけ欲しい。


「もっと試したい、作りたいと考えるはずだ。死体が成功したなら、次は生体を。この技術を完成させたらいろんな人間から金をぼれるだろうからね」


 どれも胸糞悪くなりそうな用途や商売に行きつきそうだが、金が大きく動くことだろう。

 労働力もそうだが、相続の介入や家督の簒奪にも利用されそうだ。

 作り物の命を保護する存在は少ないだろう。新たなる奴隷商売になる可能性が高い。法規制が追い付く前に、暴利を貪る輩が出るのは想像できた。

 偽首作りの犯人は自分の研究を極めたいだけでも、放っておいたらろくな事にはならない。新たな犯罪の温床だし、他国や宗教を巻き込んだ大混乱が起きる。

 元より禁忌と言われている技術に熱意を燃やす輩は倫理観がおかしいか、悪事と分かっていても研究し続ける理由や覚悟がある可能性が高い。


「また面倒な気配がしますね」


 ジュリアスが軽く眼鏡に触れながら嘆息する。

 人の欲深さや業は大なり小なり多く見てきた。もしホムンクルス技術が確立すれば、巨額が動くことは容易に想像できる。


「恐らくですが『死の商人』が関わっている可能性があります。奴らは金になれば手段を問わない。喜んで研究資金も施設も提供するでしょう」


 恐らくとは言っているもののゼファールが厳しい表情で、断定的に言う。

 彼はかつて死の商人たちが関わった数々の犯罪を捜査していた。奴隷商売もその分野だが、それは一端でしかない。


「クロイツ伯爵はこの事件の裏に、奴らが糸を引いていると?」


「……有り得ますねぇ」


 苦々し気なアルマンダイン公爵に、フリングス公爵も肯定的に呟く。

 四大公爵家の当主として、国や貴族のいざこざを様々見てきた二人。当然ながら死の商人の関わる案件を扱ったことがある。

 どれもこれも厄介で、非人道的で、人の欲深さと業をまざまざと見せつけられるものばかりだ。

 

「そもそも最初から奴らの計画なのでは?」


 キシュタリアはまだ推測の域を出ないが、揃い過ぎている情報が訴えかけてくる。

 ずっとキシュタリアは違和感を覚えていた。蜘蛛の糸のように、僅かな感覚でも不快に纏わりついてくる不自然さ。

 その時は見落としてしまっても、思い出せばしこりのように残る。時折、不安や疑念がふつふつと湧き上がってくる。


「ラティッチェ公爵よ。何か証拠でも?」


「確証まではまだ。ですが、レナリアが人の心を惑わし壊す『お菓子』の出どころや、妙に内情を知ったように篭絡してくるやり口は誰かが裏にいるようにしか思えません。

 レナリア自体はお粗末で短慮な人間です。ですが、それ故に操りやすく行動力だけはあります。何度も脱獄したことと言い、国の中枢にも鼠がいるのは確かでしょう」


 キシュタリアの考察に、ガンダルフも頷いた。

 入ってきている鼠は一匹二匹ではない。グレイルが生前から何度も叩きだしているし、その後はガンダルフが幾度となく叩きだしているがいつの間にか変わっている。

 すぐに対応できる役職に、息が掛かっているのだ。


読んでいただきありがとうございました。

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