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看破

明日、書籍第三巻発売です。

カバー絵はキシュタリアとアルベル+チャッピーです。



 それは会場に遅れたことか、爵位の継承か、お父様を見つけることか。

 フォルトゥナ公爵を促し、一度降ろしてもらう。そして、キシュタリアの持つ瓶に手を伸ばす。

 少しためらう様子を見せたものの、キシュタリアはわたくしを見て「結構重いよ?」と、瓶を差し出してくれた。

 ガラス越しに薄く黄緑がかった液体が揺れる。それに合わせて髪がゆらゆらとしている。伏せられた瞳の色は分からない。色白な死人の肌を、わたくしは見つめた。

 受け取って胸に抱きしめる。目を伏せた時、また涙が零れ落ちた。


――アルベル


 耳朶の奥でどこまでも優しい声が蘇った気がした。そんなはずはないのに。

 抱きかかえたまま、座り込んで、しくしくと涙を流す。悲しい。悔しい。

 フォルトゥナ公爵がわたくしを見かねてか、ラウゼス陛下の許可を得てわたくしと共に退席することになりました。主治医のヴァニア卿も付いてきます。

 わたくしが会場を出て、扉が閉じた瞬間にオーエンへの糾弾が爆発しました。

 これは終わりではないのです。


「ヴァニア卿」


「はい、殿下。歩くのもきついですか? 頭痛でもする? 胸痛?」


 わたくしは首を横に振る。

 瓶を改めて見下ろす。ああ、本当に。


 本当によく似ている。出来ている。



「これは、お父様に似ているけどお父様ではないわ。人体を模造する技術はあるかしら?」



 わたくしの言葉に、ヴァニア卿はまさかと言わんばかりに驚愕を貼りつけた顔で振り向いた。それは、フォルトゥナ公爵も同じです。


「どうしてこんなに似せられたか、魔力まで……でもね、違う。違うのよ。お父様ではないの」



「……本気で言っている?」


「ええ、わたくしはお父様を見間違えたりしない。調べて頂戴。でも、慎重にね。お父様と凄く関係が近い気がするの。でも、双子であるとか、そんなものは聞いたことないし……」


 でもね、わたくしの心が「違う」と言うの。

 遠目で見て、まさかと思ったわ。あんまりにも姿はそのもので、でもどうしてもそれがお父様だと認められないことに悩んだ。言えなかった。あの状況では、言ってはいけないと思ったの。

 わたくしの視線を受け、ヴァニア卿は声を潜めながら答えます。


「殿下……質問、答えはアリだ。知らないのは当然だ。禁忌だからだよ。ホムンクルス……その中でも人造人間や魔導人間と言われる生命体や、複製体はどこの国でも禁止されている。危険性と倫理的な問題があるから。

 使い魔みたいな魔獣や人工妖精は過去にあったらしいけど、とにかく高度な技術を要するしね」


「当然ね。その技術で死者蘇生や延命を考える人間が出そうだもの」


 手が白くなるくらい、瓶を抱きしめる。

 見かねたヴァニア卿がかっぱらうようにして、お父様(偽)の首を眺めます。


「……うーん、手っ取り早く調べる方法はあるけど……瓶開けて、一部出していい?」


「丁寧に扱ってくださるなら……それは、必要なことなのでしょう?」


 ヴァニア卿はあーうーと考えあぐねた後、瓶を開けた。どうやら、真偽の判別がつかないようです。ピンセットで髪を数本引き抜いてジッと見ていると、見る見るうちにその髪の毛はぐずぐずに溶けて消えてしまった。普通の死体なら、あり得ないことです。

 膝を付いて崩れ落ちたヴァニア卿は「うっわ、マジだぁ。禁忌案件……」と呻く。

 フォルトゥナ公爵も、信じがたい眼差しで溶けて何もなくなったピンセットを見ています。


「殿下、ビンゴ。これホムンクルスだ。魔溶液から出すと、原形が留められないんだね。姿の再現度は高いけれど、それに極振りしすぎたのかな。

 どうやって見抜いたの? これ、ボクですら調べなきゃ無理だったんだけど」


 何って。見たままですわ。違うと思ったら違う。ただそれだけですのに……。

 しいて言うなら?


「お父様みが足りないですわ。わたくしの中のお父様レーダーが、それに対して反応しなかったまでです」


「怖いよ。殿下ってストーカー気質?」


「重度のファザコンを患っているだけの、ただのポンコツヒキニートですわ」


 わたくしには付き纏い行為をするだけの勇気とガッツと体力と精神力が足りません。思ったよりたくさん足りないですわ。


「うーん、殿下の類稀なる魔力分析の資質とファザコン気質が奇跡の看破を成し遂げたってことにしとく」


 そういって、眉根を寄せながらヴァニア卿は瓶詰を見ています。

 ずっと黙っていたフォルトゥナ公爵が、やっと口を開きます。


「待て。だとしたら、グレイルの本当の首は? あの子倅は気づいているのか?」


「子倅って……多分、気付いてないよ。そんな前提、あり得ないはずなんだから。

 マトモな感性をしてたら、思いつかない。あと殿下みたいな異常な勘の良さとか?

でも、間違いなくコレを作った人物は遺体を持っている可能性が高い。これだけ精密なホムンクルス、原料に本物がないと作れないはずだよ」


「ならば……」


「待ってくださいまし。会場では、これで首を取り返したということにしておくべきです。首のすり替えに気付かれたと知れば、犯人は証拠の破棄を考えるかもしれません」




読んでいただきありがとうございました。

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