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覚悟を決めて

最近キシュタリアが出番ないなー。有りますよ、もうちょっとしたら!



「お父様の過去の遺恨をわたくしと自分の代でどうにかしたいのかしら? クリフ伯父様やトリシャおばちゃまが言っていたのだけれど、そういうリベンジを目的にしているところも多いらしいの。クリスお母様は大変おもてになられていたけれど、お父様のいる手前では黙っていたみたい」


「それはまぁ……焦がれる男性も多かったでしょう」


 物憂げにするアルベルティーナを見れば、嫌でも理解できてしまう。

 アルベルティーナは社交に出ない故に、出会いの機会は極めて限られていた。

 もし普通の令嬢のようにお茶会や夜会に出向いていたら、入れ食いのようにダンスの申し込みがあっただろう。

 見目の良い妹のいるミカエリスや、年齢を感じさせない美女である母を持つキシュタリアすらアルベルティーナの美しさに目を奪われた。暴力的とすら称される美貌は、完全にクリスティーナ譲りのものだ。


「ですが、それもあって陛下は先手を打とうと考えているのかと。周囲は喪を開けてからの戦いを想定しています。ここでアルベルが選んだ私たちを候補とすると叩きつけ、そのまま王配にとお考えなのでしょう」


「それでは、陛下への反発が大きくなるのではなくて?」


 穏健――悪く言えば保守的なラウゼス。

 今まで大きな波風は極力立てずにする傾向があったので、こんなに強引な事をするとは思えないのだろう。だが、ミカエリスはその理由を察していた。


「ですがアルベルの婚約者に元老会の息がかかった人物になれば、目も当てられない。ラティッチェ公爵がいないのをいいことに、最近は大胆な行動が目立っています」


 その婚約をもってラウゼスを用済みとみなす可能性すらあった。

 殺さなくても老齢だからと理由を付けて幽閉したり、体調を崩すように毒を盛る可能性だって十分にある。

 ミカエリスにとって「それくらいやりかねない」と言うほど、元老会は信用ならなかった。

 宴の時も感じたが、彼らは新たな者を旗頭にしようとゴマすりに勤しんでいる。


「国の有事に私利私欲に走るなんて、何のためにその身分を与えられていると思っているのですか……! 政はままごとではなくてよ」


 顔を顰めて、憤慨するアルベルティーナ。最初から底辺をさまよっている好感度が、更に底が抜けて崩落しそうだ。

 次期王の選定や、後継者の確保は元老会の管轄だ。分家の管理も彼らがやっている――が、この空前絶後に後継者不足の状態で役立たず。

 己の至らなさを恥じるどころか、私腹を肥やすための遊戯にするつもりだろうか。

 しかし、一方でラウゼスの動きにも納得がいったようだ。


「ですが、ラウゼス陛下がそこまで覚悟をしているのなら、わたくしも腹を括るべきでしょう。後手に回って良いことなどないわ」


「アルベル……」


 心配そうなミカエリスの視線に、アルベルティーナは気丈に笑う。

 緑の双眸でしっかりミカエリスを見据え、背筋を伸ばしている。


「ラウゼス陛下に何か考えがあるとは思っていましたの。サンディスライトを渡した時には、これは決まっていた事だったのよ。折角陛下が用意してくださった好機なのですから、こちらから畳み掛けましょう」


「……ええ、そうですね」


 相手は慌てふためくはずだ。態勢を整える前に叩き潰す。

 最も怖いはずのアルベルティーナが覚悟をしている。ミカエリスが迷うなど論外だ。

 ほんの僅かな躊躇いで足元をすくわれる可能性は十分あるのだ。


「一度みんなで集まれれば良いのだけれど。ジュリアスとはすぐに連絡は取れるけど、キシュタリアは難しいわ。最近、便りが少ないの」


 心配半分、寂しさ半分でアルベルティーナは憂いている。

 そんなに心配しなくても、あの魔公子は殺そうと思ってもそう簡単にくたばるような人間ではない。最後にあった時の、怒りを押し殺して肌のひりつくような雰囲気を覚えていればなおさらだ。

 

「ラティッチェ公爵家は喪に服しているでしょう? キシュタリアがこの宴にも顔を出さない可能性も十分あると思いますの」


「確かにそれは一理ありますね」


 ラティッチェに、グレイルの顔に泥を塗った不作法者を捕まえて、白日の下にその罪を晒すまで戻ってこないかもしれない。


(キシュタリアの噂を最近とんと聞かない。社交界ではアルベルとは別に、キシュタリアも噂の的であるはずなのに……)


 恐らく非常に秘密裏に動いているのだろう。きっと、キシュタリアの行方を隠している誰かがいるはずだ。キシュタリアの行動を犯人に察知されないために、情報操作している。

 そんなの誰が、と思ってグレイルに似た面立ちの金髪の青年が脳裏を過る。


(クロイツ伯爵はキシュタリアを手助けし、立場を何かと擁護している。彼は王宮の中枢に深く入り込んでいるし、人脈も広い)


 筋金入りのお人好しで善人だと言われるが、彼はやり手だ。

 かつては幅広く犯罪を摘発する任務に就いて、捜査官として動いていた。騎士として、文官として両方に顔が利く。

 今日の宴では見なかったが、きっとそのうち顔を出すはずである。色々と為になる話や、有益な情報を得られそうなこともあり一度じっくりと話をしてみたい相手だ。


「様々なことを想定しておくに越したことはないでしょう。なんにせよ、元老会には気をつけてください。思い通りにならないと、どんな汚い手を使ってくることか」


「ええ、くれぐれも」


 こくんと頷いたアルベルティーナを安心させるように、笑みを浮かべるミカエリス。

 そっとアルベルティーナの前髪をかき分けて、その白い額に唇を落とす。

 予想意外だったのか「ぴっ」と小さな悲鳴と共に肩が飛び上がった。こういうところは変わっていない。それが嬉しいような、愉快なような、懐かしいような複雑な感情が交じりあう。


「では今夜はこれで。夜分に失礼しました。暖かくして寝てください」


 どうか、よい夢を。

 幸せな箱庭に戻れない彼女が、せめて夢の中では幸せでありますように。

 祈り、希うような気持で告げる。ミカエリスにはアルベルティーナの最愛の父を、虹の橋の向こうから取り返すことはできない。

 顔どころか耳や首筋まで真っ赤にになったアルベルティーナが、頬を指で押さえながらしどろもどろに返事をする。

 帰り際、レイヴンが「殿下が落ち着いて寝られなくなるようなことをしないでください」と無表情の中に鋭利な眼差しを光らせながら言った。




読んでいただきありがとうございます!



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