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意外な訪問者

バレンタインの翌日以降に割引されているお高いチョコを禿げたかのように狙いたい……。

しかしそんなときに限って胃がおかしくなるのはなんででしょうね。





 息苦しさに目を覚ます。

 はっと目を開けると真っ暗で、悲鳴を上げかけるが、顔の上半分を覆う何とも言えないもったりとした柔らかい感触がする。同時に聞こえる、何とも気の抜けた寝息と気配。


「チャッピー……わたくしのお顔の上で寝てはダメよ」


 よっこいせと顔の上の低反発な丸いフォルムをどけると、ぷしゅるると寝息ともいびきともいえる音がよりクリアに聞こえます。

 少し喉が渇いたので、ベッド脇に置いてある水差しをコップに注いで飲んだ。流石にこれしきの事でアンナを呼びつけるような真似はしませんわ。

 ふと目に入ったチャッピーのポッコリお腹を撫でていると、布団の中からハニーが顔を出す。とことことチャッピーの傍に寄っていく。

 仲良く並んで寝るのかしら、と思ったら――強烈な頭突き。

 チャッピーの頭半分がベッドにめり込む勢いで頭突き。互いの低反発しっとりスキンが音をかなり掻き消したけたはずだけれど、頭蓋のぶつかり合う音が大きく響いた。

 容赦なく頭突かれたチャッピーは手足をバタバタさせて「ぴゃ……ちゃー!?」と小さく悲鳴を上げてパニックに陥っています。そこに第二派が強襲!


「ハ、ハニー!? モーニングコールにしては激しい? いえ、早いのではなくて?」


「ギャ! ピギャ!」


「めっ! イジワルはダメですわ!」


 ばたつくチャッピーを見ていられなくて、ハニーを持ち上げて膝に乗せる。

 なんで仲良くできないのかしら。ああ、チャッピーがベッドを涙で濡らしている。

 そんなチャッピーに対し、ハニーは勝鬨とばかりに歯をガチガチと打ち鳴らしています。何故ハニーはこんなにも好戦的と言いますか、攻撃的と言いますか……。

 姿はこんなに可愛いのに、中身はちょっと猛獣さんのようです。


「起きていらしたのですね、姫様」


「ひぇっ」


 気配がなかった。背後からいきなり声を掛けられて思わず肩がびくついた。

 しかし、その声は聞き覚えがある。恐る恐る振り向くと、魔石のランプの薄明かりに照らされていたのはレイヴンでした。その光を吸い込むような真っ黒な髪と瞳に、浅黒い肌が闇にぼんやりとした輪郭として浮かび上がる。背は高く、こんなにも立派な体格なのに気配はびっくりするほど薄い。姿が見えているのに、存在感がないのです。


「レ、レイヴン……どうしましたの? 貴方から姿を見せるなんて、珍しいですわね」


 動揺したのがちょっと恥ずかしくて、早口になってしまいます。


「お客様がいらしております」


 お客様? こんな夜更けに? いえ、王宮でまだ夜会はやっているんでしょうけれど、わたくしは基本早寝早起きなので普段はぐっすりの時間帯です。

 首を傾げるとネグリジェ姿で薄着のわたくしを気にしたのか、レイヴンはストールを持ってきてくれました。


「ありがとう。レイヴン」


レイヴンが案内するということは、信用ある方と言うことよね?

 正面から来たら、普通に門前払いされる時間帯です。少なくともフォルトゥナ家の方ではないはずです。

もしかして、隠し通路から来たのかしら? となると、キシュタリア? それかミカエリス? ジュリアスなら、なんだかんだ上手く周囲を言い包めそうですし。

 となるとやはりキシュタリアかミカエリス。ミカエリスはこんな時間帯に来なさそうだし、今夜のパーティの主役だから無理よね。


「ミカエリス様がいらしております。以前、許可を頂いた隣の一室でお待ちいただいております」


 ま・さ・か・のミカエリス! 二分の一で読み違えるとは……!

 びっくりしますが、ミカエリスが先触れ無しに来るなんて。何か急な用事でもあったのかしら?


「すぐ行きますわ」


「その前にガウンをお召しください。体を冷やします」


「大丈夫よ。ストールがありますわ」


 そう言うと、レイヴンは頑として納得しません。首をふるふると横に振りながら、わたくしの言葉に否を言います。

 ストールだけではダメですか……そうですか。


「いえ、アンナ様とジュリアス様が『お嬢様の大丈夫という過信は信じてはいけない』と言われております。特に体調に関する妙な自信は特に信用ならないと」


 なんですってー!? いつの間にわたくしの使用人たちの間でそんな情報共有が!

 確かにちょっと眩暈を起こしたり気を失ったり、ちょっと深窓令嬢ムーブが多いかもしれませんけれどわたくしは健康ですわ! 健康……です、わよね?

 なんでしょうか。周囲と比べて自分は脆弱・惰弱・虚弱なような気がしてきましたわ。いいえ! 周りがちょっと丈夫で強い人が多いだけ! きっとそう!

 だんだんと自信が無くなってきて、結局ナイトガウン+ストールの両方を纏うことになりました。髪は手櫛で整えるだけです。余りもたもたしていたら、別室で待機しているメイドたちに気付かれてしまう可能性があります。

 基本、呼び鈴を鳴らして呼ぶのですが……他は兎も角、アンナはわたくしの挙動の気配に敏感なのです。長年の勘というか、すぐ気付くのですわ。

 よし、いざ対面! と、言うところでハッとします。


「レイヴン、わたくしどう? 変じゃない?」


 寝起きでむくんでいたり涎の跡とかがあったりしたら最悪ですわ。淑女としてというか、普通に人としてアウトです。ひっどい寝ぐせとかないですわよね?


「いつも通りとてもお美しいです」


「……なんで皆さんそればかりなの?」


 いつだったかアンナもそんな感じの返答だった。


読んでいただきありがとうございましたー!


コミカライズの第一巻の発売準備が着々と進んでおります!

書籍の三巻も原稿作業中ですよー!

春頃~初夏頃に発売予定。確定情報が出ましたら、改めましてご報告します。

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