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ダナティア家の因縁8

ダナティア伯爵はキーパーソン。敵ですが。


「うちの孫は美人過ぎて、使い物にならない騎士が多すぎただけだ。警備中に不審な動きをした者を排除したら、自然とそういう形になった」


 ガンダルフの言葉は嘘ではない。アルベルティーナに思慕を募らせて拗らせた護衛は、首にせざるを得ないのだ。職務上の立場を利用して部屋に近づいたり、夜這いをしようとしたりした男たちは両手で足りないほどいる。

 だが、すべて他の護衛に阻まれ、時にガンダルフ直々に叩きのめされ、それすら掻い潜ったのはレイヴンに仕留められた。

 それ以外にも、メイドに金属ケトルで仕留められたのもいれば、チャッピーを踏んで転ぶ者や、ハニーに歯型が付くほど噛みつかれた者などで見つかった不運な侵入者もいた。

 それ以外でもある一定の距離内に入ると、アルベルティーナが知らぬ気配に目を覚ましてアンナを呼ぶ。すべては事件にはならなかった。

 だが、未遂の数はすさまじかった。

 その内情を知らないアルベルティーナは、忙しいはずのガンダルフがやたら離宮にいるのを不審がっていたが、そういう事情があったのだ。

 ガンダルフがいれば、多少ふらついた騎士がいても正気に戻る。

 その数は多かった。心配するあまり、ガンダルフの愛情が余計に拗れてしまいそうである。

 そんなことを知ってか知らずか、コンラッドは油を注ぐようなことを言う。


「ああ、王太女殿下はクリスティーナ様の生き写しだそうですね。とても美しいとお聞きします。お会いできるのが楽しみですよ」


 また空気がピリリとしたが、コンラッドは微塵も引く気配がない。

 コンラッドはコーディーの起こした事件を知って言っているのだろうか。

 まさか、コーディーがクリスティーナを娶れなかったことに対し、コンラッドが王配になることによって清算するつもりなのか。

 ダナティア家は元が大公でありながら、伯爵家にまで落ちぶれた。

 親の仕出かしたことを、彼が知らないはずがない。知らなくとも、社交界に顔を出せば嫌でも耳に入るはずである。親切な振りをして、そういった気まずい事情を耳打ちして他者を苦しませようとする人間は多いのだ。

 王配として名乗りを上げるには爵位はギリギリだが、コンラッドは王族に近しい血筋をアドバンテージに持っている。

 ふと、コンラッドを窺っていたジュリアスは気づく。


(……そういえば、ダナティア大公はいつコンラッドの母親と懇ろになったんだ? 年齢的に、まだクリスティーナ様を巡って争っていた時期に浮気をしたのか)


 だとしたら、ガンダルフは相当不愉快だろう。

 しつこくクリスティーナに求愛して騒動を起こしていた癖に、裏では別の女性に手を付けていた挙句、孕ませたということになる。

 聞こえてくる会話からして、コンラッドとコーディーは瓜二つで血縁を疑い様もない。


(ダナティア大公がクリスティーナ様を諦め、別の女性と結婚した後にできたにしては年齢が高すぎる。となると、母親は訳ありか? 不義の子や身分差の子を疎ましがって、認知しなかったのか……クリスティーナ様が本命で、キープや遊びで手を出してできたから存在を認知されず、ずっと秘匿されていたのか?)


 貴族の中には、使用人や平民に手を付けて孕ませてしまったとき、表ざたになる前に始末をすることが有る。手切れ金を渡したり、引き取ったりするのはまだ良心的だ。知らぬ存ぜぬを貫く場合も多い。

 中には使い道があるかもと、母子ともに飼い殺しにし続ける場合だってあった。

 貴族側が男の場合はそうなるが、逆に女が貴族だった場合は悲惨だ。

 未婚の令嬢だった場合は、修道院や屋敷のどこかに幽閉される。貴族は醜聞を嫌うので中には、勘当されて家から追い出される。籍を抜かれ、路頭に迷う場合だってある。

 どっちにせよ、女性側が不条理を強いられることが多い。


(……ダナティア伯爵家が、起死回生のために今まで無視していた私生児を引き取ったのはありうるな。伯爵家に他に年齢の釣り合う子息がいないなら、社交界で返り咲く手立てでこれ以上の手はない。王家筋というのも強みになる)


 だが、不思議とコンラッドにはそういう空気を感じない。

 ジュリアスは子供の頃、親に捨てられた貧しい浮浪児として生活していた時期があった。

 親や家族に捨てられた人間というのは、独特の空気を感じる。生きるか死ぬかの貧しさで生きた人間の飢餓感とまじりあい、それは酷く尖った印象がある。寂しさや辛さばかりで、愛情が欠如している。感情の根本的なところが満たされていないからか、どこか飢えてしまうのだ。

 父に愛されず貧しくともキシュタリアのように、強く愛情深い母に育てられた人間だっている。

 彼の場合、そのタイプなのかもしれない。


(でも、本当に?)


 推測で片づけるのは良くない。ジュリアスは人を見る目がある方だ。

 コンラッドは違う。ジュリアスやキシュタリアとも違う。だが、ミカエリスともアルベルティーナとも違う。

 近いのは、そう――強いて上げるならばグレイル。

 何も諦めず、すべてを手に入れてきた人間の気配。目的の為なら、手段を選ばない人でもある。



読んでいただきありがとうございました。


<ご連絡およびお詫び>

二巻にて幕間の一部重複がありましたので、修正が入っております。

重版分より変更が入りますが、全体が激変というわけではないです。

謹んでお詫びを申し上げます。大変申し訳ありませんでした。


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