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ダナティア家の因縁4

上っ面をつるつるしまくる社交辞令。


 

「……誰のための席だか分からないな」


 苦々し気にガンダルフが呟く。

 この催しは、戦場で活躍した者達を慰労するためのものだ。

 だというのに、空気はすっかりダナティア伯爵を中心になり、彼の話題中心に染まりつつあった。

 アルベルティーナの近辺を守りながらも、グレイルの後任元帥として、サンディスの戦線を中央から支えていたガンダルフとしては良くない雰囲気だろう。

 ガンダルフの元には様々な戦線の被害が寄せられている。確かに結果を見ればサンディス側有利で終息したが、被害はゼロではないのだ。

 ミカエリスはいたって無傷で華々しい戦果と共に戻れたが、出兵した中には戦死したものや、大怪我を負い、後遺症を残した者だっている。

 だが、和やかな雰囲気を壊す気にはならないのだろう。ガンダルフは給仕からワイングラスを受け取ると、一気に煽って不満と一緒に呑み込んだ。

 その時、またざわりと空気が動いた。

 その方向へ目をやると、ジュリアスが戻ってきていた。

 改めた装いを一目見て、ミカエリスは皆が騒ぐ理由が分かった。

 一見シンプルで、タイトなシルエットは今までにないデザインだ。ジュリアスの体型に合わせたオーダーメイドなのが良く分かる。

 洗練されたシルエットの映える礼服は、細身で長身のジュリアスに良く似合っていた。特に大きな宝石や、派手さはない。だがジュリアスが歩くたびに、極上の絹が繊細に輝く。そして、それを損なうことなく施された刺繍の技巧や意匠も秀逸だった。

 ジュリアスがこちらに気付き、ガンダルフとミカエリスが同時にいたのは意外だったのか驚きを隠すように軽く眼鏡に触れた。

 手を動かすとボタンの大粒の黒真珠が金細工と共にあしらわれており、目を丸くする人が多くいた。あんな大粒な真珠を大胆に使ったボタンなど、そうそうある代物ではなかった。白い真珠で、小粒なものを使う場合はあるが黒真珠はあり得ない。 

 今までダナティア伯爵に集まってばかりの視線が、どんどんジュリアスに集中する。

 

「父上、ただいま戻りました。ドミトリアス伯爵、お久し振りです。この度のご活躍は大変見事だとお聞きします」


 視線をかっさらいながら、優雅な一礼をするジュリアス。

 優美な笑みも、洗練された所作も公子として実に素晴らしいものだ。


「……あの子からか」


 ぽつ、とガンダルフが呟くと、ジュリアスは隙のない笑みを返す。小さなガンダルフの声が拾えたのはすぐ傍にいた彼らだけだろう。

 ジュリアスの笑みはどちらとも取れそうだが、ミカエリスの勘が是であると訴えていた。

 アルベルティーナは良くジブリールに贈り物をするし、ミカエリスも貰うことが有った。彼女は人に似合うものを贈る。欲しいデザインが無ければ、仕立てるとか作ると言う所からチャレンジするのだ。

 時折、突飛なところに凄まじい行動力や執着を見せる。

 ミカエリスは、未だにアルベルティーナがどうしてそこまで駆り立てられるか良く分からない。

 ついでに言うと、女同士で殴り合いをして相手のリボンやドレスを引きちぎるに飽き足らず鼻血ブーさせ、しょっちゅうキシュタリアとバチバチして、ガワが頻繁に剥がれかけているジブリールを、未だに「可愛い」と甘やかすのも謎だ。


「久しぶりです、フォルトゥナ公子。知らぬ仲でもないですし、そう硬くならず結構ですよ」


「ありがとうございます。上級貴族としてはまだ日も浅いので、ご鞭撻のほどを頂ければ幸いです」


 どの口がほざくとミカエリスは呆れながらも、にこやかな笑みを崩さない。

 美男子二人が朗らかに会話をする様子に、周囲のレディたちが色めき立つ。こういった視線は、キシュタリアと並んだ時によく受けていた。その時のジュリアスは、影のように控えて気配を殺していたものだ。


「アルベルは?」


「陽があるうちは、帰還を楽しみにしていましたよ。ですが、貴方の訪問が絶望的な時間帯になると、しょげながらドングリトカゲたちと過ごしていたそうです。体調も安定しているので、できるだけ早く会いに行ってあげて下さい」


「面目ないな。私も会いたいのだが」


 声を少し潜めながら、砕けた会話をする。

 近くに巌の如く近寄りがたいオーラが迸っている熊ガードがあるので、いつもは押し寄せる女性たちも距離を取っていた。

 婚約者もいないミカエリスたちを狙う女性は多い。ミカエリスたちも失礼がない程度にあしらって、ジブリールに牽制して貰っているがキリがないのだ。

 ふと気づいて周囲を見れば、いつの間にかジブリールがいない。


「どこへ行ったんだ、ジブリールは」


「あの方であれば、屈強な男でも拳で沈めるでしょう」


「冗談でもやめてくれ。シャレにならない」


 ジブリールを心配してというより、ジブリールがトラブルを起こしたり、周囲が巻き込まれていたりないかを心配していたミカエリス。

 下手に求婚するような子息がいたら、その場は決闘場に早変わりしてしまう。ジブリールは社交界の華と持て囃される美少女令嬢だ。我こそはと迫る男性が後を絶たない――コテンパンに叩きのめされる男性も。


「令嬢が儂に対して何度も突っかかってきたのは驚いたぞ。あれくらいの少女は大抵この見てくれで逃げるからな」


 ガンダルフが面白そうにくつくつと笑い、ミカエリスとジュリアスは卒倒せんばかりに真っ青になる

 ジブリールはガンダルフに噛みついていくほど気骨があるのは知っていた。しかも、この様子では一度や二度ではないようだ。

 もしや、王宮で会うたびにガルガルと牙をむいているのだろうか。


読んでいただきありがとうございました!


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