そっと見守る存在
アンナ視点。短め。
アンナは小さな怪獣モドキたちに釣られ、いつもよりフォークの進みが良い主人に安堵する。
なんだかんだフォルトゥナ一家が顔を出して、最近は一人の食事が少なかったアルベルティーナ。
ジュリアスなど、ここぞとばかり最近は入り浸っていた。
晩餐や夜会などは貴族にとって大事な社交場であるが、それをなるべく控えてまでアルベルティーナへの時間を作っていた。
時には、二度の夕食を取ることすらあるくらいには、ジュリアスはアルベルティーナへ心を砕いていた。食への関心が強い割には、健啖家とは程遠いアンナの主人を、彼もまた気に掛けていたのだろう。
(ヴァユの離宮に住まうことになってから、明らかに食への関心も落ちていますが……)
ラティッチェにいた時は、次から次へと新しいアイディアや提案をし、シェフやジュリアスを唸らせていた。
お嬢様のレシピを、シェフたちが拳で奪い合うのが日常の一コマくらいには、良くあることだった。
王宮へ連れてこられて以来、連続する不幸に明らかに気落ちすることが増えた。
アンナは勿論、義弟のキシュタリアや元従僕のジュリアスや幼馴染のドミトリアス伯爵兄妹たちも積極的に元気づけようとしていたが、なかなか上手くいかないのが現実だった。
アルベルティーナも気丈に振舞おうとするが、以前の姿を知っていると痛々しさがどうしても拭えないのだ。
(やはり、父親であらせられる公爵様の死の傷はなかなか癒えない)
時折、哀し気にキシュタリアが持ってきた肖像画や、ラティッチェのある方角を見ていることがある。
言葉にせずとも、戻りたいとその眼差しが言っている。
それはラティッチェへか、それとも過ぎ去りし日々かはアンナには推し量れない。
あるいは、その両方だろう。
アンナは溜め息を飲み込み、アルベルティーナの湯殿と夜着を用意し、入浴剤とアロマオイルはとびきり贅沢なものを選んだのだ。
たとえどんな状況であろうと、アルベルティーナのために尽くす。
それがアンナの矜持であり、精一杯の出来ることなのだ。
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