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おばちゃま、ときどき狂犬

ジュリアスはちゃんと生きています。


 幼馴染の帰還に膨らんでいた胸がしょぼしょぼに萎んでいきそうです。

 いえ、実際に御胸は相変わらずボインと二つ膨らんでおりますが。今のところ、御膝に乗ったチャッピーやハニーの枕位にしか役に立たない代物です。

 ただ、枕にしているチャッピーやハニーを見るジュリアスの顔が、なんだか怖いのよね。笑っているんだけど、不愉快なオーラが微妙に漏れているというか……別に重くないし、苦しくないのに。

 それは兎も角ジュリアスが滾々と説いてきます。


「いいですか? 話しかけようとしてくる連中は、国王陛下以外はゴミムシの様に睥睨するくらいがちょうどいいんです。無駄に愛想よく微笑まない。はねのける笑みですよ?」


「わたくし以外を見るときのお父様みたいに?」


「そうです。分かっているなら、しっかりしてください。年下の可愛い子供、年端のいかない少年少女がいても、油断してはいけませんからね?」


 わたくし、ショタコンやロリコン疑惑があるのでしょうか? ペドフィリア疑惑でも出ているの?

 まさかの変態扱いでござる。ジュリアスの言葉にちょっとショックです。

 しかし、ジュリアスはわたくしがキシュタリアやジブリールという、弟妹扱いしている二人に対して、激甘・溺愛というダブルコンボを標準搭載している故の危惧だったそうです。

 む、むむぅ……否定できないですわ。

 ヒキニート令嬢と化したわたくしの代わり頑張ってくれる義弟のキシュタリアを労わるのは当たり前ですし、ジブリールが可愛いのは世界の真理ですのに。

 そして二人とも素材がいい。

 着飾らせるのが、すっごく楽しい。

 うっかり、あの二人をイメージしたクロックコートやドレスやバッグや靴をデザインしてしまうくらいには。

 そもそもわたくしの周囲には年下が極めて少ないのですわ!

 レイヴンもすっかり背が伸びてしまって、今ではミカエリスを追い抜かしているんじゃないかというくらいですし……! あ、でも頭は撫でさせてくれますのよ? ちょっと硬めの髪質と、丸い形の良い頭は健在です。

 ただこれを漏らせば、きっとジュリアスにお説教でござる。お口にチャックですわ。


「アルベル様、何か隠し事しませんでしたか?」


「し、してまちぇんれちゅわー!」


 だからなぜバレますのー! エスパーですの? まだ何も言っていないのに!

 そして噛んだー! なんでこうわたくしは嘘が下手くそなのですか!


「ほら、私の目を見てください? なんでそんなに頑なに目を閉じて、そっぽを向こうとするのですか?」


 ふえええん! わたくしの数少ない癒しその三が奪われる!

 一と二はチャッピーとハニーです! ジブリールは殿堂入りです!

 片手でわたくしの顎を掴み、ほっぺたを軽くふにふにとしつつ揶揄う声が降ってきます。ですが、目を開けたらきっとあのゴリゴリに押しの強い笑顔が待っています!

 口八丁で気づいたら丸め込まれて吐かされるのですわ!


「いーやーあー!」


「駄々こねないでください。また体調を崩す原因になるようなことを隠してはいないでしょう――」


 ん? ジュリアスの声が途切れた。

 恐る恐る目を開ければ、ジュリアスがいない代わりにニコニコしていらっしゃるパトリシア伯母様がいらっしゃいました。あら、いつの間に。

 その右手にはお花を抱え、左手はジュリアスをアイアンクロー。

 しっかり眼鏡の下に入り込んだ、おばちゃまの左手は高身長だけれど小顔なジュリアスの目元辺りをがっしり掴んでいる。

 わたくしは思わず情報量の多さにフリーズします。


「あらいやだわ、うちの義弟は王太女殿下に何をしているのかしら? 親しき中にも礼儀ありというでしょう?」


 うふふ、とおばちゃまが朗らかに笑顔を浮かべているけれど、なんだかいつものふわふわ笑顔より重々しいような?

 おばちゃまは器用に右手にあった花をベラに渡すと、左手に伸びていたジュリアスの手をバシバシと弾き落とす。

 あのジュリアスが圧倒されている姿を見て、アンナは強く言い放つ。


「フォルトゥナ伯爵夫人、最近とても浮ついているので〆てやってください。縊り殺すくらいに」


「殺しちゃダメー!」


 アンナのジュリアスに厳しいスタイルはここでも変わらない。むしろトドメを刺そうとしている!


「フォルトゥナ伯爵夫人、どうか……お、お許しを……!」


 ジュリアス割と本気で命乞いしていませんか!?

 凄く痛いの!? 今更ですけれど、顔色が凄く土気色していますわ! よく見たら、ジュリアスのこめかみに爪が立っている! お顔の皮と肉がぐにっとなってるー! ジュリアスのお顔が、このままだと全部パーツが中央に寄っちゃいますわー! 折角色白の綺麗なお顔なのに!

 咄嗟におばちゃまに抱き着いて、止めようとする。小柄だけれど、まるで根を張っているようにびくともしなかった。


「トリシャおばちゃま、やめてくださいまし……!」


 蚊の鳴くような声で懇願すると、ほんの一瞬おばちゃまの体が揺れた。

 恐々と顔を上げると、艶々のブラックベリーの様が星をちりばめたようにキラキラしています。意外とご機嫌でした。


「あら、あらっ、あら~~~!」


 歓喜の滲む声で、おばちゃまは振り返ります。

 ブゥンと風を切る音がして、ジュリアスが雑に床に転がされます。

 お部屋に毛足の長めの絨毯を引いていて良かった!

 ジュリアスはぎりぎり受け身は取れていたようですが、足がおぼつかずふらふらしています。立てずにへたり込んでいます。そして、ずっと顔を押さえ続けているのですが…。


「やっと『トリシャおばちゃま』って呼んでくれたわ~! パトリシアおばちゃまとかトリシャ伯母様とかぎりぎりあったけど、トリシャおばちゃまってなかなか呼んでくれなかった、嬉しい!」


 ぎゅっと抱きしめてきゃっきゃとはしゃぐトリシャおばちゃま。

 あ、あの、ジュリアスは良いの? でもトリシャおばちゃま喜んでいるし……。

 ジュリアスの方を向くと「大丈夫」という代わりか、手をひらひらさせている。でもずっと顔を押さえています。眼鏡が大破している……。レンズが抜けて、フレームが高難易度のフリースタイルになっています。

 あのジュリアスが手も足も出ないなんて、おばちゃまは本当に強かったのですね。




読んでいただきありがとうございましたー!

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