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浮き立つ心

なんだかんだで使用人の時の癖もあり、アルベルの面倒を見るジュリアス。




 その日は朝からソワソワしていました。

 ミカエリスが今日、戻ってきます。

 グレグルミーの戦線を退けたことにより、ゴユランは兵を本格的に引き上げさせたそうです。王宮では功労者たちを称える大規模な夜会をすることとなりました。

 これで暫くゴユランのちょっかいは減るのではないかとジュリアスも言っていました。

 減るのであって、無くなりはしないのはゴユランのしつこいところ。

 ゴユランの土地は大半が乾燥地帯です。ずーっと前は水源豊かな場所に緑が残っていたそうですが、それも長い歳月と共に失われて今では王家直轄のオアシスが点在するだけだそう。

 ですが、それも年々減ってきているそう。

 それもあり、水と緑が豊かな我がサンディス王国は垂涎の的。喉から手が出るほど欲しいのでしょう。

 土地の形状や風向き的なものか、はたまた地下水源の関係かは知りませんが、サンディスには少し砂が飛んでくる乾燥地帯はありますが砂漠化は進んでいません。

 ぶっちゃけゴユランの主食の穀物は、殆どサンディスを始めとした諸外国からの輸入だよりです。水がなければ、当然作物は育ちません。少なくても育つ植物もあるでしょうけれど、あの環境で国民の腹を満たす量を栽培するのは難しいでしょう。

 環境保全に予算を割く余裕もないゴユランは砂漠化は進む一方なので、じり貧と言えます。

 だからこそ、また奪いやすそうなサンディスに仕掛けようと躍起になっているのですけれど。

ゴユランはサンディスより国土が数倍あります。推定ですが……あそこって沙漠かつ周囲が険しい山岳地帯なのです。少数民族が多く、グレーゾーンが多いのです。

 これで肥沃な大地だったら山脈を超えた先にあるバレンシュタット帝国が狙ってきたでしょうけれど、険しい山と沙漠を超えて戦争をしても、あるのは実りの少ない不毛の大地ばかりなり。しかもゴユランの支配下ではない異民族がいるので、それを排斥するには時間を要します。ハイ、とっても面倒くさいですね。狙いませんね。ゴユランは戦争してまで奪うメリットがないです。

 過去にはゴユランとバレンシュタットが手を組んで、サンディスを落としに来たことが有りましたが、サンディスお得意の籠城・持久戦の間に仲間割れを起こしました。

 プライドの高い歴史あるゴユランと、強者主義の比較的若い国のバレンシュタットはどうも相性が悪いようで、手を組んでも短期間しか持ちません。

 その喧嘩別れが更なる遺恨を作り、互いの関税や貿易の法改正でやりあってギッスギスの国交だとききます。

 原因はバレンシュタットの軍が進軍の裏で、墓荒らしをするからです。ゴユラン国土に点在する遺跡には、数多くのロストテクノロジーが眠っています。未だに新たな遺跡が見つかることもあるほどです。

 ゴユランとしても数少ない稀少な財産を盗掘されれば、怒りますよね。

 バレンシュタットはゴユランを制圧するかと思いきや、ゴユランの過酷な気候の前にバレンシュタットの強力な軍隊もデバフ状態のスーパーアウェイ。

 他の国は、我が国とは違って攻撃型の血族魔法を王族が持っていると聞きます。

 ですが、バレンシュタットは隣のウォリス王国に攻め込まれると困るので、そうそう虎の子の血族魔法を使うことはできません。

 歴史を紐解けば、何度かサンディスに虎の子の血族魔法をぶっ放したことが有るのですが、サンディス王家十八番の結界に阻まれます。

 籠城潰しに躍起になっている背後を、ウォリス王国軍にグサッとやられたそうです。そのドサクサで奪われた領地は今も火種としてくすぶっている。

 サンディスは色々と特殊なので、戦争がお得意のバレンシュタットでも苦戦する相手です。負けはしないけれど、勝てない。下手にサンディスにかかりきりになってると、四方八方から漁夫の利を狙った輩がでてくるので難航しているのです。

 結界という完全防衛型の耐久へと極振りした、我が国が珍しいのですが……。

 サンディスは籠城戦・防戦にはめっぽう強いせいもあり、亀さんを聖獣としているので、それを揶揄して鈍亀だのミドリガメだの言われることが有るそうです。

 これって王族の瞳への嘲りもあるんでしょうね。

 それはさておき、ミカエリスが帰還するのです!

 楽しみですわー!

 うきうきしていると、その様子にジュリアスが溜息をつく。


「王太女殿下、気持ちが浮き立つのは分かりますが、公の場でそんなふにゃけた笑顔を振りまかないでくださいね。虫が涌きます」


「むし!?」


 わたくしの笑顔にそんな効果が!?

 衝撃の事実にドン引きしていると、ジュリアスが更に頷いて、トドメを刺していくスタイル。容赦ない。

 ジュリアスはにっこりと完璧な笑みを浮かべると、わたくしの顔を覗き込んできた。


「蛆虫でも羽根虫でも毒虫でも何でもありですよ。ご理解いただけたのなら、そのように愛らしく微笑まず、防虫と殺虫効果のある笑顔を練習しましょうね?」


「ぴぇ……」


 思わず情けない声が漏れると、ジュリアスが一瞬止まった。

 ずれてもいない眼鏡を直すと、深々と溜息をついた。しかも二回も。幸せが逃げますわよ? あれ? 前もこんなやり取りしたような?


「だから、それはやめろと言っているでしょう。ただでさえ効果抜群の誘蛾灯モドキと化しているのに、これ以上、私の敵を増やすな・作るな・生み出すな」


「ぴゃ……」


 顔を上げたジュリアスは、眼光鋭く釘を刺してきます。お小言モードなのー?

 怖いですわ……なんでそんなに怒っていますの? わたくしの笑顔はそんなに害悪なのでしょうか。


読んでいただきありがとうございましたー!

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