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最悪の想定

アルベル、ジュリアス、ラウゼスのターン





 そういう話は嫌というほど伺っていますが、マクシミリアン侯爵親子もそうですが、王子殿下を宛てがわれるのも相当嫌なのですが。

 状況的に生涯独身を掲げるのは不可能なので、三人に頼み込んでいるのです。

 特にルーカス殿下! あの方、わたくしを馬車から引きずり降ろして石畳に転がした挙句、罵倒した方よ?

 今は随分まともになり、静かに謹慎していらっしゃるそうですけど……。

 婚約者のいないレディが、近親者にエスコートを頼むのは良くあることです。

 今まで社交をしてこなかったわたくしには、その機会すらなかった。


「できれば私で手を打ちたいところですが、残念ながら防波堤としてはまだ弱いでしょう。陛下は主催者ですし、迂闊に近づけば妃殿下らの餌食になります」


 陛下の隣には、基本妃である二人がいることが多いです。

 ご挨拶はすべきですが、近寄らない方がいいですわね。


「一番はフォルトゥナ公爵です。クリフトフ様でも良いでしょうけれど、普通に考えれば夫人であるパトリシア様をエスコートするでしょうし」


「あの熊さんですか……」


「あの熊を怖がる人間は多いですからね。存在感からしてアレですから」


 王家側に立つことは、喪中で傷心とフォルトゥナが後見人という立場をフル活用して阻止してくださるそうです。


「それが嫌となると、私がエスコートするすぐ後ろに熊付きで出ることとなります」


「熊無しはダメですの?」


「そこは我慢してください。アルベル様の心身の安全第一です。最近は、露骨な拒絶反応も出なくなってきましたし、やはり四大公爵家当主というアドバンテージは大きいので」


 塩対応は引き続き実施中ですが、威嚇はほどほどにするようになりました。

 だって効かないと分かってしまったもの

 クリフ伯父様でも薄々感じてはいましたが、わたくしの威嚇は無意味なのですわ! 

いくら睨んでも、じっと見られていると感じましたが、あれは単に愛でられていると最近気づいてしまったのです!

 トリシャおばちゃまが「アルベルちゃんが真っすぐ見てくれるようになって、お義父様嬉しそうよ」とニコニコと報告してくださらなかったら気づきませんでしたが。


「……ねえ、ジュリアス」


「なんですか?」


「絶対熊側に立ってくださいまし」


 わたくしが妥協できるのはそれだけでしたわ。

 アンナに熊付きジュリアスにエスコートされることになりそうと伝えたら、慰められました。

 ……フォルトゥナ公爵、すっかり熊呼びで定着している?






 別室でアルベルティーナが側近の侍女に甘えていた頃、書類の入った箱を一瞥したジュリアスは顔を顰めた。

 少しずつだが、着実に重さが増している。書箱を開ければ、やはりというべきか厚みがあった。

 トントンと苛立たし気に机を指で叩き、ぽつりと吐き捨てた。


「増えている」


 着実に増えている。

 薄々そんな気がしてはいたが、アルベルティーナに回されている文書――つまりは仕事が増えているのだ。

 まだ喪中で、病弱と言われているアルベルティーナの執務が増えている。

 それは勿論、王太女として行っている事業があるのだから、全く執務をしないわけにはいかないだろう。

 これはアルベルティーナの今後の権力基盤や、勢力基盤のためにも必要なことだ。

 それだけでなくフォルトゥナとアルベルティーナの繋がり、そしてジュリアスの繋がりを宣伝し、ジュリアスを通して人脈を作るために不可欠な事業でもある。

 だが、それ以外の書類が散見される。

 原因はもともと公務らしい仕事をほとんどしないエルメディア。そして、アルベルティーナを自陣に引き込めない二人の妃がストライキを起こしていることだ。

 度々思い通りにならないと、王妃達はそうやって我儘を通してきた。


(この緊急時でもやるとは、恐れ入る)


 王妃たちの横暴さに嫌気がさした文官たちは、着実にアルベルティーナ寄りになっている。

 だが、回されたものを諾々と受け取っていたわけではない。ジュリアスはアルベルティーナの領分でないと判断すれば、容赦なく弾いてきた。

 だが、特定の筋――ゼファールからの仕事は弾いていなかった。

 彼が回す仕事は王族しかできない仕事や、滞ると大問題が起こる類、そして緊急性のあるモノばかり。彼も苦虫を噛み潰しながらも、アルベルティーナ以外に頼めなくて泣きつかなければならなかったのだろう。

 事情を説明されれば、ジュリアスは頷く以外できなかった。

 彼は相変らず執務室で缶詰状態だった。連日に及ぶ仕事漬けのゼファールは、酷い老け込みを見せていた。

 便宜を図っている分、ゼファールはジュリアスに敵対する人間の情報を融通してくれたり、色々と宮殿の作法を教えてくれたりした――表立ってはない、裏のルールも。

 味方であれば心強いし、アルベルティーナの叔父というだけでなく、ビジネスパートナーとして申し分ない相手だ。

 仕事も情報も、優先順位を考えて限りなく厳選してきたことが推測できる。

 時折だが、そこはかとなく、クリフトフやパトリシアの様に姪LOVEの様な雰囲気を感じる。だが、ゼファールはキシュタリアの好みなどのこともちょろちょろ聞いてくるあたり、あれは年下――弟妹や甥姪に甘い人種なのだろう。

 それに対して、アルベルティーナが『お父様の偽物』と相変わらず、微妙な温度を持っているのも笑える。キシュタリアに至っては、献身的なサポートをしているにもかかわらず激しい苦手意識を持たれている。

 だが、それは置いておこう。今のジュリアスにもっと気がかりなことが有った。


(……ラウゼス陛下のあの話。どうもきな臭い)


 あの老王は、思っていた以上に思慮深い。

 そして、警戒心が強く忍耐力がある。意志薄弱ではなく、寧ろその真逆と言えた。

 耐えて耐えて、只管相手の隙を窺い、周囲に愚弄されても鋼の意思で機会を待つ男だ。自分が主役でなくても望む『いつか』に届くための最善を尽くせる。

 ラウゼスは息子を王座に付けることに躍起となっている妃たちと違い、平等に二人の王子に愛情を注いでいた。

 ジュリアスが宮中で噂好きの雀たちから、多くを語らない文官まで幅広く伝手を作りながら情報集をし、吟味して出来たラウゼスの人物像はけして愚かな人間ではなかった。

 人としても、親としても、王としても。

 だが、そのラウゼスが息子二人を当て馬の様に王配候補に挙げて、あえて落とすと断言した。妃二人の反発は必須だろう。期待をさせておいて、裏切るようなものだ。

 本来、この手のことは好まない穏健タイプだ。

 だが、そうしてまでやる必要がある何かがある。


「いや、まさかな」


 ラウゼスは王だ。

 人や父親としての愛情は有っても、王として冷徹な判断を下さなければならない時もある。

 権力に狂った妃たちを国母にするならば、国母不在で強い求心力を持った王太女に、それを支える不足のない若者を伴侶にした方が安定する。

 きっと、ただそれだけだろう。


(そうでなければ、いよいよ厄介過ぎる)


 ジュリアスは常に最悪を想定していた。

 対策ができるように、反撃できるように。

 その癖に助けられたことは幾度としてあるが、杞憂も多い。当たらなければいいと思ったことは数えきれないほどあった――今回もまた、思い過ごしであればと。





きな臭い王家の事情。


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