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言葉の裏に

また投稿が遅れた……予約あるあるの設定間違い。




 ジュリアスはその強い決意に何かを感じ取ったのか、さっと頭を下げる。


「陛下の深慮を計るような発言をして申し訳ありません。差し出がましく、私の勝手な憂慮で御心を騒がせたことを深くお詫びいたします」


「構わぬ。義娘を預ける者とならば、必要とあれば踏み込む。それくらいの豪胆さは欲しいところだ。王太女の影に隠れて威を借る若造には任せられぬ」


 それ、ヴァンとかどこぞの分家の放蕩息子とか、投獄されているマクシミリアンの嫡男とかヴァンのことですわね。

 わたくしとラティッチェの名を使って色々やらかしてくださりやがりましたし。

 ラウゼス陛下はわたくしの方を見ると、優しく目を細めます。


「ドミトリアス伯だが陞爵の祝いの宴を開く予定だ。体調が良ければ、そなたも参加するとよい」


「よろしいのですか?」


「グレグルミーの戦線をはじめ、数多くを守り切った功績を称える意味での、慰労でもある。そなたが来れば喜ぶだろう。グレグルミー辺境伯は殆どミカエリス伯に指揮を投げて自分は安全な場所へ籠っていたと聞く。どうやらそちらの令嬢の結婚も決まり慌ただしいようだから、あれらは呼ぶ必要もあるまい」


 領主が呼ばれないって、どれだけミカエリスに投げっぱなしだったのかしら。

 ジュリアスから、ミカエリスはいろんなところに便利屋扱いで引っ張り出されていたそうですが……わたくしの大切な幼馴染を何だと思っているの。

 ラウゼス陛下、グレグルミー辺境伯を呼ばないってその辺のおサボりを見て判断しているということよね?


「殿下、いくら喪中とはいえ顔を出してしまえば一瞬で囲まれます。今まで、ずっと社交を控えていたのですから、こぞって寄ってくるでしょう。どうか顔出しの挨拶だけにしておいてください」


 ジュリアスは落とした声で窘める。

 うーん、きっと本心は参加もさせたくないのでしょう。

 どうしましょうとわたくしが視線を巡らせば、王色の瞳とかちあった。持ち主のラウゼス陛下もゆっくりと頷く。


「そうだな。また倒れたと聞くし、長居はしない方が良いだろう。だが、これは父親としての頼みであり、王としての命令でもある」


「陛下の御意向のままに」


 お辞儀と共に、是と答える。ラウゼス陛下からの命令なんて、初めてだわ。


「衣装は喪服のままでよい。迂闊に着飾れば、隙があるやもと沸き立つ者も出る。間違いなく周囲が目の色を変えるだろう」


 下げたわたくしの頭を、そっと撫でるラウゼス陛下。

 その目は愛おしげで、気づかわしく――お父様を思い出させた。

 お父様のように凍え、時に煮えたぎり、そして荒れ狂う――激しいものを内包してはいなかったけれど同じものを感じだ。

 ああ、だからきっとわたくしはラウゼス陛下を嫌いにならないのだ。

 命令と口にするけど、その後ろにはわたくしの為を思ってのお考えがあるのでしょう。


「……花盛りのレディをこんな場所に閉じ込めて済まないな。私にもっと力があったのなら、このような扱いにならなかっただろうに」


 わたくし、別に窮屈だとは思っていませんわよ?

 一番はラティッチェ公爵邸なのは変わりませんが、アンナやジュリアスがいますし、なんだかんだとフォルトゥナ一家もそれなりに良好な関係になりつつありますし。

 ラティお義母様とお会いできないのは寂しゅうございますが、お手紙は来ております。

 人見知りなわたくしのために、とラティッチェの使用人もこちらに移動していますわ。

 世間知らずでも陛下のお気遣いと、最大限の譲歩は分かっています。

 

「ガンダルフを疑うわけではないが、万一がある。何が起こるか分からぬ。くれぐれも警戒を怠らぬよう」


「御意に。この命に変えましても」


 視線を受けたジュリアスは胸に手を当て、スッと片膝を付いてラウゼス陛下に首を垂れます。

 ラウゼス陛下への恭順を示す、家臣の礼の一つです。

 ジュリアスの返事に納得したのか、ラウゼス陛下はすぐに離宮を後にしました。

 随分心配性ですのね。王宮ですのよ? あの熊公爵は元帥と騎士団長を兼任している、W軍トップなのに……不安をあおるようなセリフが気がかりです。

 ジュリアスはラウゼス陛下が去った後の廊下を、じっと見ていました。

 その視線が、心なしか険しいような?


「ジュリアス?」


「はい、アルベル様」


 ぱっとこちらを振り返り、いつものよく作りこまれた笑みを向けてきた。

 きっとジュリアスにはラウゼス陛下の態度に何か感じ取ったのでしょう。わたくし以上の何かを。


「ジュリアス?」


「はい、なにか?」


 教えてくれるつもりはないようですね。

 小さく嘆息して、踵を返して私室へと向かいます。

 その私の手をさっととり、歩調を合わせてエスコートするジュリアス。


「宴の件、わたくしなにか準備した方が良いかしら?」


「流石に喪服のアルベル様をダンスに誘う馬鹿はいないと思いますが、喪が明けたらそうでもなくなります。今からでも体力作りも兼ねて練習をした方がいいですよ」


「……わたくしが触れる男性、今の近くにいるのは貴方かレイヴンくらいなのですけど?」


 お父様がお亡くなりになり、ミカエリスとキシュタリアが不在の今、更にその範囲は狭まっている。

 帰ってくると言っても、二人はすごく妨害が多そうなのよね。

 ジュリアスはわたくしの事業や、後見人かつ護衛をしているフォルトゥナ公爵家ということもあり、三人の中では一番行き来がしやすい。

 思案顔のわたくしに、ジュリアスはしれっと恐ろしい可能性を伝えてきた。


「隙があればメザーリン妃殿下とオフィール妃殿下はそれぞれのご子息殿下を、義兄弟なのだからと捻じ込んでくる可能性は十分あります」


「……わたくしに死ねと?」


読んでいただきありがとうございます!

ブクマ、コメント、評価、レビューありがとうございます。


<お知らせ>

ゼロサムオンラインで連載中のコミカライズ、次回は10月1日に更新予定です。


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