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サンディスライトの約束

ラウゼス陛下は結構キーマン



 わたくしとラウゼス陛下は義娘・義父という立場となっています。

 元々ちょっと遠いものの、親戚関係ではあります。システィーナお祖母様はラウゼス陛下の姉です。

 お二人は仲が良かったそうで、その交友はクリスお母様にまで繋がっていたそうです。

 それもあってか、ラウゼス陛下は随分わたくしに対してお優しいのです。

 二人ともラウゼス陛下より早くお亡くなりになったのも、理由でしょう。そして、わたくしのお父様がラウゼス陛下には(比較的)忠誠を尽くしていたこともあり、いよいよもってわたくしへの愛情や憐憫はフルスロットルだったのでしょう。

 わたくし、ご本人ではないので予想の範囲ですが言葉や視線と言いますか、空気の端々にそういったものを感じるのです。

 急に王太女として祭り上げられたわたくしではありますが、陛下は夫をなるべく自分で選べるようにと配慮してくださいました。

 ここで息子の王子二人を強引に推薦しないあたり、ラウゼス陛下の人柄が分かるというもの。メザーリン王妃とオフィール王妃からはガンガンにあの手この手で押し売りの気配がすると言いますのに。



 応接間に行くと、心なしか顔色の優れないラウゼス陛下がいらっしゃいました。

 やや落ちくぼんだ目や隠しきれない隈が、一層深くなった気がします。髪色もさらに白いものが増えたような気もします。

 もともと高齢でしたが、それ以上に隠しようのない疲れというものが滲むお姿です。

 それでも堂々たる貫禄は健在です。静かなのですけれどオーラというか気迫があるのです。


「大変お待たせいたしました。ラウゼス陛下」


 義理の親子とはいえ、上下関係はきっちりある。臣下としての礼を執るのは当然だが、途中で手で制された。


「ああ、挨拶は良い。君もだ」


 そう言って、わたくしに付いてきたジュリアスは、臣下の礼を執ろうとして軽く頭を下げた状態で止まった。


「とりあえず座りなさい、アルベルティーナ。君は確か、ジュリアスだったか。フォルトゥナ公爵の新しい義息だったね」


 ラウゼス陛下の落ち着いた低い声は、穏やかでも貫禄があります。

 視線を受けたジュリアスは、一礼し挨拶とともに応えます。

 ラウゼス陛下とは場を設けた場所では初対面ですので、わたくしとは違ってやはりジュリアスはきちんと名乗る必要があります。と言っても、簡易になりますけど。


「我が国の太陽にご挨拶申し上げます。ラウゼス国王陛下、覚えに預かり光栄の極みにございます。ジュリアス・フォン・フォルトゥナと申します」


 丁寧過ぎず、短すぎず絶妙なラインにきちんと収めるのは流石ジュリアス。

 こう、お辞儀の仕方とか声の速さや張りとかがね、なんとも上手なのよね。


「アルベルティーナの事業にも関わっているそうだからな。随分と有能だと聞いている」


 穏やかに目を細めるラウゼス陛下とそれを静かに受け止めるジュリアス。

 ラウゼス陛下の眼差し静かですが、王の眼力というものを感じさせます。

 玉座の重責に耐え続け、サンディスの長としてある静かながらに重厚な気配は、やはりその辺の人間とは全く違います。

 ああ、やはりこの人は『王』なのです。


「……君はアルベルティーナから、サンディスライトを受け取ったかね?」


 その言葉に、ジュリアスの顔を見る限りは反応はない。ただ、静かに手袋を外すと、指からするりと抜き取る。

 広げた手の平には、指輪が一つ。ミスリルの銀色とサンディスライトの緑色が輝いています。

 手袋越しだと全く気付かない――それこそ手を握ったり、かなり近づいてみない限りは難しいでしょう。


「こちらの物でしょうか」


 ジュリアスがラウゼス陛下に良く見せる様に手を差し出す。

 それをじっくり眺めるので、何故かわたくしが物凄く緊張してしまいます。ややあって口を開いたラウゼス陛下。


「成程。我が義娘は伴侶を選んでいたか――喪が明けるに間に合わないかと思ったが」


 どこか安心したように呟き、目を細めるラウゼス陛下はわたくしを少し悪戯っぽく見つめます。

 陛下は、これを確認しに来たのね。

 そうですわよね、わたくしこれをお預かりした時かなり困惑していましたもの。

 基本、サンディスの令嬢や姫君といった高貴な出自を持つ女性は、貞淑を叩きこまれます。正しい血を残すために、婚姻という契約を守るために幼いころから淑女のマナーとして教え込まれるのです。

 王家の瞳が極端に少ないからという消去法での王太女任命、お父様のショックを始め、その他もろもろあり過ぎでした。メンタルボロボロだったので、ちょっとその辺が緩くなっていたかもしれません。

 日本だったとしてもあり得ませんわよね、一妻多夫とか。

 一夫多妻は歴史を紐解けばありましたが、それもだいぶ昔に廃止されましたし。


「彼一人だけか?」


「ラティッチェ公爵家のキシュタリアと、ドミトリアス伯爵家のミカエリスにも渡しております」


「三人か。少ないが良い人選だ」



読んでいただきありがとうございましたー!



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