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二人の王妃、二人の王子

ジュリアス、残念ながら空振り




 叡智の塔から出たジュリアスは、暗澹たる思いであった。釣られて足取りも重いが、それでもアルベルティーナが気がかりで、かなりの早足になる。

 アルベルティーナの容態の変化には細心の注意を払い、それでも最悪の予想は考えて立ち回っていた。

 だが、実際に弱った姿で眠るのを見てしまえば、いとも容易く感情は揺さぶられた。


(少し考えればわかることだ。ヴァニア卿は、アルベル様派といっていい。あんなに資金に余裕があり、態度にも寛容なパトロンは放しがたいだろう)


 ジュリアスより先に、投薬を考えた可能性は十分にある。

 だが、リスクを考えやめにしたのだろう。

 現状、サンディスの王侯貴族はアルベルティーナを王太女にすることに異論はない。

 最初こそ四大公爵家とはいえ、ラウゼスに実子がいるのに臣下の娘を王太女へ引き立てることに不満があった王妃二人。

だが、二人には権力を握る為に別の考え方がすぐに浮上したのだろう。アルベルティーナは女性だ。そして、正妃メザーリンにはルーカス、側妃オフィールにはレオルドという王子が二人いる。

つい最近までレナリアに言われるが儘に放埓となっていた二人を王座に就かせるより、王配という立場で実権を握る方がはるかに現実的だった。

アルベルティーナの実家のラティッチェは絶大な権力と財力、そして人脈を持っているのも魅力的であり、二人の王子に足らないものを全て補えるのも大きいだろう。

 カインが魔物となって謁見の間で暴れる中で結界魔法を複数行使し、王侯貴族たちを倒れるまで守った――正確には戦っていたグレイルたちの為だが――アルベルティーナは非常に評価が上がった。外見だけでなく、王族としての資質もあると判断された。

 何より、グレイルが居なくなって無防備なアルベルティーナが、さぞ甚振り毟りがいのある獲物に見えたのだろう。


(私がアルベル様から預けられた事業は、時間が経てばより大きな成果が出てくる。衣食住の恩義と、学を得た子供たちが大人になればアルベル様に必ずや良い影響を与える)


 特に優秀な者たちは引き抜くことも検討したほうがいい。

 平民は貴族との柵が少ないから、取り込みやすい。有能でも、下手に他派閥の人間を組み入れれば、裏切りやスパイによる情報漏洩や損害が起こる可能性は十分ある。

 だが、あくまで見込みだ。

 それでも、貧民街が犯罪の巣窟となり、住民の生活を脅かしていた。非合法な商いが横行し、ならず者たちが実権を得て、再開発も滞っていた。それらが王族直々の勅令により、綺麗に排除となった。

 中にはアルベルティーナの実家であるラティッチェに脅しを掛けようとしたのもいたらしいが、その辺の『お貴族様』とは違う、叩き上げ実力派が多いラティッチェの騎士や使用人に逆に叩きこめされている。

 分家の横暴の憂さ晴らしにされたのも少なくない。

 王太女になっても、ラティッチェの者たちのアルベルティーナへの崇拝は消えていない。

 グレイルが亡くなった中、一貫してキシュタリアを当主として推しているアルベルティーナ。そのお陰で、ラティッチェ本家での派閥争いは起きなかった。


(アルベル様は、ご自身を過小評価なさり自信がない方だが、閣下とは違う方向性で稀有な求心力がある)


 グレイルが畏怖による求心ならば、アルベルティーナは庇護欲による求心だ。

 グレイルは敵対したくない、そして圧倒的な力に平伏してくなる類。アルベルティーナはこの人に何かしてあげたい、守ってあげたいと思わせるものだ。


(だが、あの人は自分と関わった人間はそのせいで犠牲になるのを良しとしない)


 それが本人の選択であっても、だ。

 そういう性質だからこそ、敬愛される。

 王侯貴族の中では、目下の者を道具扱いしたりする者も少なくない。

 同じ王女という立場でも、エルメディアはそういった類だ。ラウゼス王の親心や期待を、何度も裏切って好き放題にしている。

 最近、その怠惰が祟り、太り過ぎのせいで骨折をした。体重という負荷に、骨が耐えきれなかったのだ。運動もせず偏食の極みと言えるエルメディアは、あの体型を支えるには骨が脆かったのだ。

 それに激怒したエルメディアは、痩せる努力よりもそれを防げなかった主治医とメイドたちのクビを求めてまた暴れたと聞く。再教育のために人事を大分改めたが、年季の入った傍若無人はまだ改善は見られない。

 王妃らどちらかといえばそちら側だ。最初こそは叱ったが、今の母のメザーリンは見て見ぬふりである。

 サンディス王国のトップレディの質の低さに、嫌気がさす。権力に固執し、気位だけは高い。為政者としての能力は低いと言えるだろう。


(精々、王配の座を奪い合っていればいい。最後に笑うのはこちらだ)


 あの二人の王子の謹慎は解けていない。

 ルーカスは相変わらず貴賓牢だし、レオルドは婚約者のキャスリンに頭が上がらない。

 グレイルに罰せられて暫くしてから、二人は憑き物が落ちたように王座に固執しなくなった気がする。

 当の本人をほったらかして、母親たちが燃え上がっているというのもなかなか滑稽だ。

喪が明けるまでには何とかしようとしているようだ。その時点で、王配候補に名を連ねていなければ、名ばかりの下位の王配になるのも難しい。


(そもそも、今更すり寄ろうっていう魂胆が気に食わない)


 甘い汁を啜りたいというのが見え透いている。寄生虫にしか見えない。

 とどめに、アルベルティーナは王妃たちに良いイメージは持っていない。そして、二人の王子にも。

 だいたいあの二人――特にルーカスは絶対アルベルティーナに近づけたくない。

 ジュリアス個人的な感情を言えば、隙あらば殴りたいくらいに嫌っている。




読んでいただきありがとうございました!

そろそろ輪数総計300話いきそうです。思ったより長く続いていることにびっくりです。


ブクマ、レビュー、コメント、評価ありがとうございます! 楽しく見させていただいております!

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