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地獄への道、破滅への道1

 チャッピーとハニーはアルベルティーナにとっては癒し。

 




 芳醇な香りの立ち上る紅茶に映る顔を眺める。

 鮮やかな色が出た水色は、流石に瞳の色までは映し切らない。

 この瞳に、この顔に、何の価値があるのだろうか。お父様が生きていた時は、少なからず愛着を抱いていた容姿。お父様を喜ばせることのできる姿だから、悪くないと思えていた。

 前世の記憶が戻った直後は、その整い過ぎた容貌に慄いたくらい。馴染まなくて、違和感を覚え、そして自分の未来にくるかもしれない恐怖と戦っていた。

 今では利用価値があるが、忌まわしさを覚えていた。


「地獄への道は、善意で舗装されているそうよ」


 でも、とわたくしは続ける。


「破滅への道は、誰が舗装しているのかしら?」


 自分? 悪意を持つ第三者?

 一枚の手紙を気もなく眺めながら、溜息を隠すこともできない。

 マクシミリアン侯爵のオーエンが、手紙を出してきた。

 明らかに脅迫していると分かる『応じてくれないならば、貴女の大事な方がどうなるでしょうね』と書き添えてある。

 あれだけジュリアスにコテンパンにされて、まだ懲りていないようだ。

 チョコチップクッキーを齧りながら、小首をかしげるチャッピー。

 その丸い額を撫でながら、わたくしはごちる。

 ちょっと一人になりたいと申し出て、護衛やメイドたちは少し離れた場所に待機してもらっている。

 ラティッチェの顔なじみのパティシエが(こしら)えてくれたティーセットが、藤籠のバスケットに入っている。

 魔物の鞣革でできたシートを敷いたシートの上でちょっとしたピクニックのようである。

 王宮ってどこもかしこもきっちり管理されていると思いきや、うちの裏庭みたいな野原のような場所もあるのね。芝ではなく蓮華草が茂っています。

 何故わたくしがここにいるかといえば、王太女としての執務といいますか、公共事業の決済と並行して、ヴァニア卿に頼まれていた古文書の翻訳をしておりました。

 一部カルマン女史にも頼んでいましたが、先日熱中しすぎて飲まず食わずを続けて机の上で伸びていたのを発見されました。

 わたくしの授業にやってこなかったので使いが尋ねたところ、危機一髪の状態でした。脱水と絶食と過労が祟り、現在療養中ですわ。寝る間を惜しんで古文書に挑んでいたようです。

 熱意は買いますが、やり過ぎですわ。滋養に良い物を贈らせていただきましたわ。


「ぴー?」


「わたくしも、舐められっぱなしなのはダメね」


 お父様に何かあったらどうするの? 全てジュリアスたちに任せてしまえばいいじゃない。

 臆病なポンコツがわたくしの心に囁く。

 わたくしは変わると決めたのだ。

 たとえ皆がそのままでいいと言っても、そのままではダメなのです。


(それにしても、本当にどういう頭をしているのかしら? 厚顔無恥にも程があるわ……わたくしが、あの事業に掛けた資金がどういう使われ方をしたか知らないとでも思っているの)


 それを纏めていた会計士が「殿下に見せられるものではない」と難色を示していましたが、きっちりと目を通させていただきました。

 わたくしの名前で行われる事業ですもの。

 出るわ出るわ、ほとんどが社交費という名の豪遊三昧。それとなく、禄でもないこと使用していたことは分っていましたが……必要性を疑う出費がありすぎですわ。夜のお店を何日も貸し切って酒池肉林をしたという報告付き。

 ヴァンはわたくしに贈ってきたあの破廉恥なドレス。きっと気に入りの娼婦と間違えて贈りましたのね。

 わたくし、王太女の事業資金で!

 半分近くなった残りの資金で、ジュリアスがきちんと事業を回してくださいましたが……本当に許すまじ、マクシミリアン侯爵家。

 税金は国民の皆様が収めてくれた、まさに血税というべき労力の証ですのよ。


(でも、ここ(しばら)くお父様の安否を確認していませんわ。あの男、適当な保存をしてはいないかしら……お父様をちゃんと守っているかしら)


 少し悩みましたが、会ってもいいがお父様を連れてくるように認めた。

 早く救い出して差し上げたい。

 お父様を、静かに眠らせてあげたい。

 あのような不埒者に、お父様が囚われているなんて侮辱以外の何物でもない。

 間違っても中を改められることのないよう、王太女用の封蝋を押す。

 わたくしが久方に会ってやると、かなり上から目線です。ですが、事実身分は上ですし、マクシミリアン侯爵家はわたくしの顔に泥を塗るばかりの失態ばかりですので何ら不自然ではない。

 出会い頭に伏してお詫びするくらい、当然のことをしたのです。

 あの家は、あの資金をプレゼントだと思っているのでしょうか。

 詫び状一枚、送ってこないのです。

 わたくしは失望しきっておりますし、最初から良い感情など欠片もありませし、信頼も何もないので勝手にしやがれですが周囲はそうではないのです。

 王家、ラティッチェ、フォルトゥナのサンディス王国巨塔といえる国主と当主に、かなり悪い心象を与えております。

 あの温厚なラウゼス陛下からすら顰蹙(ひんしゅく)を買ったというのですから、相当でしょう。

 しかし、わたくしという最強の餌にマクシミリアン侯爵は食いついてこなかった。

 忙しいので日を改めて、と手紙には書いてありました。

 かわりに当主のオーエンではなくヴァンに会ってやって欲しいと代替にもならないダメオブ却下の提案をしてきました。

 そして厚かましくも資金提供や融資の願い出までありました。

 その前にわたくしの事業資金を返すのが筋でしょう。恥の上塗り、借金の追加ですわ。

 それなら来なくて結構と冷たくあしらってやりました。

 わたくし、忙しいのです。

 本当ですわ。

 昼は古文書の解読をしつつ、寝る前には結界魔法の練習をしております。

 わたくし、もっとできますわと訴えるのですがアンナとベラに監視され、ヴァニア卿からはドクターストップ。夜中はレイヴンが目を光らせております……っ!

 ちょっと長く読書や解読に勤しんでいるとすぐさまストップが入ります

 しかもアンナが、最近わたくしに有無言わさず休ませる方法を発見してしまったのですわ……っ

 それが!


「ぴゃー?」


「ピギャ?」


 チャッピーとハニーを巻き込むことですわ……!

 わたくしが休憩を忘れてしまったり、後ですると伝えてそのまま続行したりすると御膝にのせてくるのです!

 あの丸いフォルムと大きな緑の瞳にわたくしがとても弱いと分かっての所業ですわ!!

 おやつにしようとすり寄られて毎度陥落……

 ジュリアスの場合はサクッと持ち上げられて、テラスや四阿、ティールームやサロンルームに連行されます。

 今日も、マクシミリアン侯爵家からのお手紙ならぬ汚手紙を受け取って少し、その、ふさぎ込んでいたのが気付かれてしまいました。





 読んでいただきありがとうございます!


 ブクマ、評価、レビュー等していただけると嬉しいです!

 書籍発売に向けてテンションを上げたいので、ぜひよろしくお願いします! 更新もがんばります!

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