1.始まり
拙い文章ですが読んで頂けたら幸いです。
まるで雷が鳴り響いたかの様な轟音と共に、自分が石畳の床の上に横たわっていることに気が付いた。
「名前はなんだ。」
「山中龍翔です。」と、反射的に答えてしまった。
起き上がり前を見ると、白髪白髭の老人が腕を組み、険しい表情でこちらを見つめていた。
その風貌は高い鼻、 深い彫り、広い肩幅にがっしりと引き締まった身体。普段我々が想像するステレオタイプの白人男性だった。
老人にしては、かなり衰え知らずというところだが、恐らく鍛えているのだろう。
「どちらが名、どちらが姓だ。」
「龍翔が名で、山中が姓です。」
またもや反射的に答えてしまった。
「ほう、リュウショウか、わかった。私は、アウトレアスの子、ヘルムート。ヘルムート・オブ・ルシルファール。ラートゥム大陸、唯一無二の大国グリフガルドの貴族だ。これから宜しく頼むぞ。」
何が何だかさっぱりわからない。
「何が何だかさっぱりわからない、と言いたいのだろう。顔を見ればよくわかる。」
どうやら顔に現れていた様だ。どんな間抜け面をしていたのだろう。
「あの、どういうことなんすか。俺、友達と高校から帰ってた筈なんです。普通にですよ。何も変なことしてない。普通に帰ってたんです。そしたら、こんな事になってて…」
「まあ、落ち着け、難しいかとは思うがな。この状況は偶然ではない。私が行った行為によるものだ。
これから言う内容は理解し難い、いや、出来ない事が前提の話だ。
もし、理解しようとするならば、小僧、お前の常識という枠組みを取っ払って聞いてほしい。心の準備はいいな?」
「頑張って理解してみます。準備出来てます。多分。」
取り敢えず聞いてみよう。そうすれば、少しは前に進めるだろう。
「では、話そう。まず、結論だ。リュウショウ、お前は、このグリフガルド次期王候補、"竜王紋の刻勇者"、72人の1人に選ばれた。
正確には、私がお前のいた世界から、その王候補をこちらの世界へ召喚しようとしたら、お前が偶然、王候補として召喚されたのだかな。」
「つまり俺は異世界に召喚されたという事なんすか。で、そのよくわからん凄そうなものに選ばれてしまったと。まあお陰でここにいる理由はわかりました。」よりわからないものが増えてしまったが。
「すんなり理解してくれたのは嬉しかった。では、恐らくお前が訳がわからないと思っているであろう、竜王紋の刻勇者について話そう。
上半身の服を脱いでみろ。」
俺は着ていた学ランとカッターシャツ、タンクトップのインナーを脱いだ。
何をしようというのだろう。
「エイダ、鏡を持ってきたまえ。」
ヘルムート老人の背後に立っていた若い使用人らしき女性が、「はい、承知しました。」と言うと、予め部屋の隅に置いておいた大きな鏡を持ってきた。
ちなみに、このエイダと言う使用人や鏡の存在を認識したのは今この瞬間初めてだった。
混乱し、目の前の事しか見えてなかったのだろう。
少し見渡すと、ここが薄暗い石造りの地下室の様な所である事がわかった。
「さあ、鏡に映った自身の背中を見たまえ。」
振り返り、エイダの持っている鏡に映る自分の背中見た。
驚いた。そこには何やら竜の描かれた魔法陣の様な黒の刺青がびっしりと刻まれていた。
「な、なんなんすかこりゃぁぁぁ。」大きく目を見開き、大声で叫んだ。部屋によく響いた。
「それが竜王紋だ。お前が異世界から召喚された王候補である事を示す証拠だ。立派なものだろう。」
「確かに立派なものっすけど俺、こんな趣味ないっす。てか、温泉入れないじゃないすか。」
「温泉がなんだか知らんが、仕方ないものなのだ。ほれ、儂の背中にもあるぞ。」
ヘルムート老人の背中にもびっしりと同じものが刻まれている。
「うっそだろ。マジで嘘だと言ってくれって。ただでさえ面倒なことに巻き込まれて、ショックだったのによりによってムッキムキのジジイとオソロのファッションなんてオーバーキルじゃんかよ。ああ、死にてえ。」
最悪だ。人生で三本の指に入るほどの出来事だ。しかしながら、妙な親近感が湧いた。堅苦しい言葉はやめよう。
「良いではないか。これでも儂はこの国最強格の戦士だ。儂に憧れを持つ男児など腐る程おるのだぞ。光栄に思わんか。まあよい。もう一度話を戻そう。
その竜王紋は王候補とその召喚者の背中に刻まれるものだ。竜王紋の刻勇者とは、儂らにとっての異世界、つまりお前のいた世界から召喚された王候補のことを指す。
まずは、その起源から話そう。
かつて、この国、グリフガルドあった地は戦乱の時代であった。いくつもの国と国が争い、国が起こりてはまた滅び、それを繰り返していた。
そんな世を、神にも等しき強大な力を振るい、国を統一し、このグリフガルドを建国して救ったのが初代国王であるグリフェンと名乗るものだった。
彼は言い伝えによると、背中に黄金の竜王紋が刻まれており、自分は異世界より召喚されたと言っておったらしい。
彼は72人の妻を娶り、それぞれの子とその子孫、つまり後の儂ら貴族だ、彼らにお前たち竜王紋の刻勇者を召喚する力を与えた。
そして一世紀に一度ずつ、その中から王にふさわしいものを決定する王位継承戦を開催する事にした。
それが起源だ。」
「なるほど、でもその王位継承戦ってのはどうするんだ?そもそも何故、異世界の人間なんかを王にするんだ?そこがさっぱりわからん。」
「簡単だ。黄金の竜王紋を持っていた彼ほどではないが、お前らの竜王紋にも強大な力が宿っているからだ。」
「俺にもあんのか?」
「ああ、ある。我々の黒の竜王紋は強力なものだ。いずれ分かるだろう。」
「勿体ぶらず教えてくれよ。」
「焦るでない。自らでその力を知ることが大切なのだ。特に我々の場合はそうだ。」
「わかった。じゃあそうする。」
「そして、王位継承戦だが、これは生き残りを賭けた壮絶な戦いだ。最後の一人になるまで、竜王紋の力を振るい闘う。シンプルなものだ。」
「じゃあ、最後の一人になるまで勝ちまくればいいわけか?」
「ああ、そうだ。」
「なら頑張ってみるぜ。俺は。大して王になりたい理由なんてない。けど、そのうち、それが見つかるはずだ。なら、見つかったそれを叶えるために俺はやる。宜しく頼むぜ。ヘルムートのじーさん。」
「ああ、儂は、お前の見つかるであろう夢の為に手を貸してやる。改めて宜しく頼むぞ、リュウショウよ。」
お互い、固い握手を交わした。
俺たちはまだ知らない。この先に壮大な物語があることを。ここがその始まりであったことを。
読んで頂きありがとうございます。