第三王子と侍女?の話
お久しぶりです。
後書きにて、色々補足しています。本文も後に加筆修正していこうと思います。
※なんちゃって要素強め、主人公は口悪いです。ご注意下さい。
ほんの少し前まで城内あちこちで聞こえてきていた怒号やら悲鳴やらが徐々に収まってきていた、夜も更けてきた頃。
「おいおい…マジかよ」
人気の無くなった長い廊下を第三王子付きだと見れば解る侍女服を纏う女が一人…って、まあアタシ――…メアリの事だけど。
喧騒の代わりに、とでも言いたいのか、辺りがキナ臭くなってきている。
どこからか、かすかに木が爆ぜるような音も聞こえるし、誰かが城内に火を放ったのかもしれないなー…と、考えながら。
火がまわるのが遅く、比較的マシな道を確認しながら。アタシは、主…正しくは雇い主が依頼した護衛対象の居る場所まで足音を消して走っていた。(え? 一介の侍女が何で非常事態にパニックにもならず、その上足音を消して走れるかって? それは、まあ…すぐ解ると思うよ)
「…ん?」
(お。居た、居た! って、隠れていろっつったのに何で部屋の外に居るんだよ、あの坊ちゃん!)
そして、その所在無さげに立ち尽くしている坊ちゃんに声を掛ける者が、アタシが来た場所と反対側の道から現れたので、アタシはサッと物陰に隠れ、少しだけ様子を伺ってみる事にした。
「ディルグラーツ様、よくぞご無事で! ここに居ては危険です。さあ、こちらへおいで下さい! 安全な場所まで私と逃げましょう!」
侍女服に身を包む女性が坊ちゃんに、ニコニコと笑みを浮かべながら手を差し出す。
「…」
坊ちゃんは首を横に振る。
「…ぼく、メアリ、待ってる」
「メアリーさんでしたら、もうとっくにお逃げになっていますから、ご安心下さい」
あー、あの女。見た事無い顔だな。それに、アタシの名前よく間違えられるけど“メアリ”だから。“メアリー”じゃないのよ。うん、敵だな。仲間(この場合は第三王子の従者・侍女的な意味で)なら間違えるような事じゃないし。
「まあまあ、小さな子に嘘をついてはいけませんわよ?」
サッと素早く、胸元から細身のナイフをニ本取り出し、女が片手に隠し持っていた小振りのナイフ(ソレで何をする気だったのかなー? 物騒だねー?)目掛けて投げつける――…
…ザシュッ、ザシュッ!!
「誰っ!? ぐっ…く!?」
あっれー? 腕と太腿に当たっちゃったー? 武器に当てて落とそうと思ったんだけどなぁ。ま、いっか!
「ヒュー! 命中っ!」
「…お前な。ホントは外しただろ」
何!? どこからか声が! …て言うか背後からだけどね。
「いいじゃん、当たったんだし。つーかアタシの背後に気配無く立つの止めてくんない?」
アタシの背後に気配を消して立っていたのは、アルトという、アタシと同じく坊ちゃんにお仕えしている侍従で、見た目は侍従と言うよりも護衛騎士だと言った方が分かりやすいガッシリとした体格の良い男だ。
コイツ、アタシから見たら悪役顔なんだけど何気に顔の造形良かったりするから侍女達に人気があるんだよねー。(怖そうだけど、そこが格好良い! とか言われてたな。よく解らん)
「これ位、気づけよ」
「無茶言うな。そして、敵まだ居たし。誰だよ、取り零したヤツ。そんな訳でアルト、回収宜しく。アタシは坊ちゃんを回しゅ…んんっ、お助けするから」
なんて、呑気な会話をしていると。
「…くそっ、捕まる訳には――…」
負傷した腕を押さえ、足を引き摺る女は割れた窓から逃走しようとしていた。おいおい、標的の坊ちゃんは、もうイイのかい? (まあ、手ぇ出させないけどー)
「ほらー、アルト! サッサと回収回収! 今日は上司も来てんでしょ? あんまり待たせるとヤバくない? あ、そうだ。オネーサン、忘れ物返してあげるねー!」
敵の彼女が落としていた小振りなナイフを投げると――…
…ザシュッ!
「ぎゃっ!?」
ドサッ!
あっちゃー、また外しちゃったよ。
「メアリ、お前な…ナイフ投げの訓練、やり直せ? 俺も付き合ってやるから、な?」
何故にまた外した(当たってはいるけど狙った箇所では無いんだな、これが)とバレたし。
やれやれ、と。首を振ったアルトは、しっかり嵌っている筈の窓枠を蹴り壊し(わあ! だいたーん!)、窓から落ちた…まあ、落としたとも言わなくも無いかな? 敵方の女を回収に出て行った。(あ、ちなみにココは一階だから敵も無事な筈だよ! 回収後の事は…アタシには解らないけど!)
「ヤメて、そんな憐れみの目で見ないでっ! とか言ってる場合じゃないな…もう、アルト居ねーし。坊ちゃーん、大丈夫ですかー? 大丈夫ですね。ああ、良かった!」
坊ちゃんの無事をササッと確認し(坊ちゃん、何も言ってないけどね!)アタシのスカートをぎゅっと握り、アタシを見上げる坊ちゃんの背に手を添え、アタシ達は敵の居なくなった廊下をゆっくりと歩…いている場合じゃないな! そろそろ煙がヤバイわ。火より煙のが回ってくるの早いからね!
「坊ちゃん、これを鼻から口元辺りに当てていて下さい。それから、ちょっと失礼!」
坊ちゃんにハンカチ(大丈夫! キレイなヤツだから!)を持たせ、彼の膝裏に腕を回し―…
「! わっ」
「はーい、しっかり捕まってて下さいよー!」
…―横抱きにし、アルトが窓枠を外した所から飛び出し、深夜の城内からの脱出に成功。(もう、経路確認なんてしないで最初からこうしてりゃ良かったな)アタシは予め雇い主と上司に知らされていた避難場所へ、坊ちゃんを抱えながら。城を後に街の中へと走り去ったのだった。
この時。坊ちゃん…ディルグラーツ様は、六歳。アタシ…んんっ、私。メアリは十六歳。ついでに、アルトが二十歳。
…――そして、今。あの日から、八年の月日が流れている。
そうそう! あの時、八年前。何が起きていたのかを簡単に説明すると―…
クーデターが起きた、王国軍負けそうで…あちゃー、やべぇな王国軍! と思っていたら。おお! まさかの隣国からの援軍キター! 形勢逆転やったね! クーデターは失敗となり首謀者達は捕まった。城半壊しちゃってたけど、めでたしめでたし! 以上、おわり。
それから、クーデターからの約二年間。反乱分子が完全に殲滅されるまでと、城の修復作業の為。アタシとアルトと坊ちゃんという奇妙な(まあ、表向きは侍女と侍従と、雇い主の子供なんだけど)三人で、ひっそり暮らしていたのだけど。これについては今は置いておいて。
現在の話をすると。六年前に城はすっかり元に戻り、アタシとアルトも、この時。お役御免(反乱者達から第三王子を守れってのが依頼だったし、反乱者達はもう居ないし。しかし、フツーに侍女職やってた方が…長かったな)の筈が――…
「メアリ。勉強、終わった…構って」
…――うん、フツーにまた城で働いてるんだな、これが。
第三王子付き侍女として。暗部じゃなくて王子付きの侍女よ? 何故だ!? と思うでしょ? 答えは簡単。
依頼主(まあ、ぶっちゃけ王様だよね! ちなみに他の王子達にも騎士以外の護衛も付いていたよ!)に、息子(この場合、第三王子だね)からの強い希望で侍女と護衛を続けて欲しいとの依頼を受けた為、それを上司(実は私の師匠なんだけどね)が快諾。今に至る。
「お疲れ様です、殿下。それでは、お茶を――…」
ご用意致しましょうか? と尋ねる前に。
ぎゅっ、と。正面から抱き着かれてんだけど。誰にって、ディルグラーツ第三王子殿下に。
「まあ、お戯れを……って、おい。坊ちゃん、離せー?」
本性は知られてるし。今、殿下の部屋に二人きりなので(面倒になったので)素で対応する事にする。
「や」
ふるふると頭を横に振るのは構わないが胸に顔を埋めるな。
「…ったく、アンタは相変わらず甘えん坊だなー、もう十四だろ?」
「…だけ」
「ん?」
何事か呟いたディルグラーツが顔を上げ、綺麗な蒼い瞳と目が合う。
「…メアリ、だけ」
「甘えるのが、って事?」
「ん」
何だよ、コイツ。可愛いじゃん…とか思っていたら。
「おい、エロガキ。どこに手を回してんだ」
腰の辺りをサワサワ撫でられている。油断ならねーな!
流石にベシッと頭を叩き、離れさせると――…
「いた…い」
…――涙目で見上げて来た。大抵の女の子なら許すだろうけど。アタシには効かないからね!
「痛くしてんだから当たり前ー。ホント最近戯れが過ぎますよー? 坊ちゃん」
「戯れ…じゃない。本気。それに…坊ちゃん、違う。ディル、呼ぶ、言ってる」
「ハァ、坊ちゃんがフツーに喋れるようになったらディル様とお呼びしますよー」
ディルグラーツは四歳まで訳あって母君の実家(隣国の王室)に居たらしい。そのせいなのかは解らないけど、ずっとカタコトでしか話した事がない。いや、でも王妃の実家(隣国)とは大陸続きだから言葉は殆ど変わらないんだけどね? それに、他のゴキョーダイ達も時々、隣国の王室を訪ねる事があるけど普通に話しているよ? 不思議だ。
「本当? それなら話す。 疲れるけど僕、普通に話すよ、メアリ」
「えっ! 疲れるとか、そんな理由だったのっ!?」
不思議が驚きに変わった瞬間だった。
「他にもあるけど、メアリは気にしなくていいよ」
あ、そうなの? 何か今一瞬見せた笑顔がニコッじゃなくてニヤリだったね! 聞かないけど!
「邪魔するぜー、あっれ? 何、俺ホントに邪魔だった?」
ガチャリと。ノックもせずに部屋の扉が開き、少し崩れた髪型と、侍従服を着ている筈なのにどことなくワイルドに見えるアルトが入ってきた。
「いや、別「うん、アルト邪魔」に…」
おお、ディルグラーツが反抗的だ。反抗期なの?
「へえ? そいつは悪かったな。ああ、そうだコレを届けに来たんだった」
アルトは、ピラピラと淡いピンクの封筒を見せてきた。
「…何それ?」
「ラクレット侯爵家のパーティーの招待状だとさ。どうやら、侯爵は娘を第三王子殿下の嫁さんにしたいらしいぜ?」
「断る」
ラクレット家のご令嬢と言えば二人居る筈だが、どちらも可愛らしく、おまけに優秀。是非嫁に婚約者にと引く手数多だと聞いた事があった。
「せめてパーティー位、行ってみたら? 坊…ディル様、婚約者まだ居ないじゃん」
「は? そんなの行くわけ無いでしょ!」
何言ってんだ、コイツ。みたいな目で見られた。は、反抗期!
アルトはと言えば、クックックッと肩を震わせながら笑ってるし、何なんだ??
「あー、オマエら見てると飽きねーわ」
「どういう意味? アルト」
アルトがポスポスと私の頭を軽く叩き、肩に腕を回そうとした所で、ディル様が無言でその腕を叩き落とす。おお、手間が省けた。
「つまり、そういう事だろ?」
「は? どういう事よ?」
「にっぶいなー、幼少期から暗器ばかり弄ってたからな、メアリは」
それは、今関係あるのか?
「え? 私、喧嘩売られてんの?」
「売ってねーし。まあ、久々に手合わせしてやっても良いが…後でな。殿下さー、こんなんで良いの?」
おい、人差し指で頬を突くな、地味に痛いわ。
「メアリに触らないで。それに彼女の魅力は僕だけが知っていれば良い事でしょ?」
にっこりと無邪気な笑顔を浮かべるディル様は、再び私に抱き着き(いやー、抱き締めてるつもりかもしれないけど、私の方がまだ少し背が高いものだから)、私の顔を覗き込む。
「ねえ、メアリ。この際だからハッキリ言っておくよ。僕はメアリが好き。だから、メアリは僕のものになって?」
ここで『ウン、ワカッター』と簡単には流石に言えない。
「いやいやいやいや!」
「メアリ、そんなにいや?」
「いやいやいやいや、そうじゃなくて!! え、何。ディル様、アタ…私の事が好きなの!? 何で? 私、基本ディル様の事を小突いてる…いや、うんアレだ。アレだよね!? 好かれるような事してないよね!?」
恋愛なんてのは、そこらの可憐なお嬢さん達がするもんで、暗器を磨いたり、新しい暗器をわくわくしながら見つめていたり、使ってみたりしている二十代には眩しくて! アレだ!
「っ、無理!!」
しかも考えてみたら、坊ちゃんは王子じゃん!三番目だけど王子じゃん!? 何言っちゃってんのー!?
「っ、ぶはっ! やべー、メアリが顔真っ赤にしてあたふたしてる! 笑える! こりゃ、シショーに報告してこねーと! っ、おお! 照れんなって!」
シュッと、アルトに向けてナイフを投げたが簡単に避けられた。むかつく!
「照れてない! けど、困っている! アタシ…私は、歳の離れているディル様をそういう風には見ていないし、見た事はない。だから――…むむっ」
そこまで告げると、口元をディル様に手のひらで塞がれた。
「待って、メアリ。その先は言わないで。そういう風に僕を見ていないのは解ってたよ。だから、これから…これからは僕の事も恋愛の対象として見て欲しい」
「むむー…」
手を離せ、と目で訴えると。すぐに手は離された。
「アルト。もう用は済んだでしょ。席外してよ。ディル様と真面目な話をする」
と言えば。『はいよ』と。アルトは頷き部屋から出て行った。
「ディル様…いえ。ディルグラーツ様」
私は跪く形になり、彼を見上げる。
「貴方様はとても高貴なお方です。私のような者にお気持ちを向けて頂きました事は大変光栄な事です。ですが、それは一時の気の迷いでございましょう。貴方様の世界はまだ狭い。これからどんどん広がる事でしょう。その時こそ…っ!?」
おい、人が珍しく真面目に話してんのに突き飛ばしたぞ、コイツ。
態勢を崩しドサと。床に尻もちをつくと、そこにディル様が覆い被さって来た。おまけに、服のボタンを外そうとして…あっ、一番上は既に外されてるし!
「は? ちょ、ちょちょちょ、まっ、待て! 何で今の話からこの流れになるんだ!? 落ち着いて!? ディル様っ、話し合おうじゃないか!」
流石にマズイ気がする。ディルの手首を掴み、何とかそれ以上進もうとするのを止める――…が。
「メアリに…解らせたいからだよ! さっき伝えた僕の気持ち、全然伝わってないじゃないか。だから、もう身体で伝える事にした!」
開けた箇所にディルの顔が近づき…首の辺りにチリッとした痛みが走った。
「ちっ、いい加減に…しろっ!!」
「!? わっ!」
王子に蹴りを入れる訳にもいかないので、腕を掴み上げ思い切り投げ飛ばしてやった。(…蹴りよりはマシでしょ?)
「っ、いたた…。メアリ、酷いよ」
「ディル様が暴走するからだろーが!」
フカフカのカーペットの上(王子の部屋だからね。硬い石畳に直接投げた訳じゃないよ!)に、寝転んだ形のままのディルの顔を除き込み――…
ピシッと、おデコを指で弾いてやった。勿論、力は殆ど入れてない。アタシも随分と甘くなったものだ。
「たっ!? メアリ…」
「ああ、もう! そんな捨てられてる仔犬みたいな顔すんな! くそー、昔なら何とも思わなかったのに…絆されたのか? ほら、掴まれ」
「え? あ、ありがと」
ディルを起こして、乱れた髪を手でササッと整えてやり、彼と視線を合わせて――…
「あと二年、だ」
「二年?」
ディルは首を傾げ、アタシの言葉の意味に気づいたのか『あっ、僕の成人の儀? それと、メアリとアルトとの雇用契約の解消…』と口にする。そう、正解だ。
「二年後までに、もしも。アタシがディル様を好きになってしまったら、アタシは愛人だろうが妾だろうがディル様のものになってやってもいい。…だが」
「本当!? でも僕はメアリ以外の人とは結婚しないから、愛人でも妾でもなくて正妻だよ?」
頬をほんのり赤らめながらディルは興奮気味にアタシに詰め寄って来た。まだ話の途中だっての。(て言うか、愛人と妾ってそんなに変わりないような? まあ、いいか)
「待った。続きも聞けって」
「ええ? 何かあまり良い内容じゃなさそうだから言わなくてもいいよ」
「いや、聞けよ。二年後。アタシの感情が今と変わらない場合、契約更新はせず今度は本業に戻らせてもらう」
とは言っても。また依頼が要人警護だったりすれば、やる仕事は今とあまり変わりは無いと思うけどね。
「聞くんじゃなかった」
「まあ、頑張って下さい。坊ちゃん」
「また坊ちゃんって言うし…でも、メアリに『僕の事が好き』と、絶対に言わせてみせるから」
固く決意した(らしい)ディルの蒼い瞳に向けて、アタシもニヤリと笑って見せた。
二年後。アタシ達の関係は変わって行くのかどうかは――…今は、まだわからないまま。
補足
主人公のメアリやアルトは孤児院出身。その孤児院から師匠(ギルドの長)に引き取られた二人は護衛もしくは暗殺者としての訓練を受けて育ち、その後、国王の依頼を受けた師匠からの命令で、第三王子付きの侍女、侍従として普段は働いていました。
ディルはメアリが普通の侍女でない事についてはクーデターの時に知りますが、それまででも、メアリは時々ボロを出していたので割りとすんなり受け入れられています。最初は姉のように思っていたのですが、一緒に暮らした約二年から感情が変わって来ています(本編で書けなかったので機会があれば三人共同生活時の話も、と考えています)
色々ツッコミどころのある話ではありますが、ここまでお読み下さりありがとうございました!!