出会い
ある夏の朝、セミの声と暑さが二度寝を妨げる。そこから、いつものように洗面台へ向かい顔を洗い、朝食の用意されている食卓へ向かう。当たり前の日常。繰り返される毎日。トースト、ゆで卵、コーヒーというまるで喫茶店のような朝食をいつも通り食べながら、朝のニュース番組を見る。このアナウンサーきれいだなぁ、そんなことを思うのもただの日課であるわけだが。この番組で天気予報が放送されるころには家を出て学校へ行かなければならない。外へ出ればセミの声が一層強くなるのもイライラするし、何より暑い。紫外線に代わってマイナスイオンとか降ってこないかな、とくだらないことを考えているうちに天気予報がテレビでは流れている。予報で夕立が来るというので、折りたたみ傘をかばんに忍ばせ学校へ向かう。
「行ってきます」
行ってらっしゃいと、家事をしながら家の奥から小さく聞こえる母親の声を尻目に早くも汗を流しながら靴を履く。バスは座れたらいいな、そんなことを考えながら家を出る。
家の前を通る同じ高校の制服を着る女子がこちらを見ていることに気づき、俺もそちらを目で追いながらそちらへ進む。その反対側からクラクションの音が聞こえる。朝からうるさいなと思い、そちら側を向くと俺が鳴らされていることに気づいた。バンっと、鈍い音を立てた直後に俺は空中で自宅の表札を見た。地面にたたきつけられ、アスファルトの熱を肌で感じる。血が流れているが不思議と痛みはない。ただただ、苦しいだけである。先ほどの女子高生は恐怖からか、走って立ち去ろうとする。
待ってくれ。救急車を呼んでくれ。せめて、学校には連絡してくれ。頼む。
こんな心の叫びは空気には乗らず、体内から出されることはなかった。はぁ、ここで俺の人生は終わりか。せめて、あの子と少ししゃべりたかったな。今日は夕立が来るよって教えてあげたいな。
ここで、視界が真っ暗になった。
次の瞬間、いつもの家の天井が見えた。夢か、、、
洗面所へ向かい、朝食を摂る。先ほど、夢の中で行った日課を行う。テレビでは夕立が来ると予想されている。先ほどの夢でも、同じことを言っていた。
正夢か。
珍しいこともあるものだな。ただただ、そう思い折りたたみ傘をかばんに忍ばせて家を出ると先ほどの女子高生の姿を期待してしまう。期待していたとおり、彼女は現れた。目で追うと死んでしまう。注意しなければいけない、そう思うが夢の通り彼女はこちらを見ている。ついつい見て、追いかけてしまう。
「あの、、、」と声をかけた瞬間、それを遮るようにクラクションが雄叫びをあげる。
案の定、家の表札は空中で見た。アスファルトの熱、流血、声も出ないほどの苦しさ。先ほど経験したことが今、実際起きている。しかし、痛みはまるでない。夢と同じだ。実際に死ぬ時はこんな感じなのだろう。死は最高の快楽というしな。先ほどと違うことは、彼女はこちらへ向かってくる。
「2回目だね」
意味深な言葉を俺は、理解出来ず再び視界が真っ暗になった。
そして、同じく家の天井が見える。
夢の無限ループ。嫌な気がする。俺は、一生この悪夢を見なければいけないのだろうか。しかし、彼女の言葉が気になる。2回目というのはどういうことなのだろうか。
そんなことを考えていると、時間がなくなり朝食は摂れなかった。しかし、傘はかばんに忍ばせて家を出る。彼女の姿を再び、期待している自分がいる。すでに彼女は家を出て少し進んだところにおり、こちらを向いている。しかし、彼女は歩いていない。立ち止まっている。さらに、微笑んでいる。自然と駆け足になる。何か大切なことを忘れている気がする。道路に出た瞬間思い出した。
俺は死ぬ。
案の定、車はクラクションを鳴らしながら俺に衝突する。空中からの景色も慣れたものだ。
落下後、彼女は「3回目だね」と、今度は笑いながら話しかけてきたあと、目の前が真っ暗になった。
目を覚まし、先ほどから行っている日課をこなし家を出る。しかし、今度は彼女の姿はない。これで、死ぬこともないな。安心して学校に向かう。道路に出て、いつも車が来る方を見る。衝撃的な事実があった。
彼女が車に乗っている。
クラクションも鳴らさず、事故を起こし倒れている俺のところへ近づいてくる。
「これで最後だよ」
その言葉はもはや恐怖だった。本当に死ぬと思った。しかし、再び真っ暗になった視界は光を取り戻した。
「おはよう」
先ほど聞いた声だが、誰かは分からない。視線をそちら側に向けると彼女は俺のベッドに座っている。驚きのあまり、声も出ない。その代わり嫌な汗は出てくる。
「夢の中まで会いに来ちゃった」
彼女は笑顔でそう言った。
再び目を覚ます。本日6度目の目覚めである。その瞬間、携帯が鳴った。知らない番号ではあったが、出てしまった。もしもしと、聞こえた声の主は夢の中で出会った彼女であった。
「どう、夢は楽しかったかな。今日学校で会おうね」
一方的に話され、電話は切られた。ツーツーと、電話が切れた合図が鳴ったその直後に再び電話がかかってきた。
「今日は出る時間を少しだけでもずらすこと。本当に死んじゃうよ」
再びツーツーと電話が切れた。夢のこともあるので、不思議にも5分早く家を出ていた。
今日は彼女に言わなければいけないことがある。
夕立が来るよって。