第七話
この世界には、いくつもの種族が暮らしている。人間、ドワーフ、エルフ、龍人、獣人がいる。魔族もいるが奴らはどの種族にも好戦的で巨人などもいるから厄介な存在として忌み嫌われている。
準備をしている間に夜になった。
あいつらも寝静まった頃だろう。仕掛けるなら今だな。
「主。早く奴らを血祭りにあげましょう。」
普段はクールなヒルダもさっきの光景をみて怒気をまとっている。
ヒルダが怒るってのも久しぶりに見たな。
「わかってる。今から始めるところだ。」
あらかじめ書いておいた魔方陣からヘルハウンドが出現し、寝ているゴブリンたちに襲いかかる、それと同時に黒騎士たちが現れゴブリンたちを包囲した。
「ヒルダ!あのクズどもをぶち殺しに行くぞ!」
まず、俺にとびかかってきた2体をグレイヴで撃ちぬいた。魔弾には火属性が込められており2体とも火だるまになってもだえ死んだ。
次に目の前にいた黒騎士が倒され、向こうにいた3体が反応する前に1体目は頭を撃ち、2体目は腕をひねりあげて剣を奪い袈裟がけに振り下ろして殺した。3体目は槍で突きかかってきたところを紙一重でかわし、足を引っ掛けて転んだところを背中に剣を突き刺した。
そうして20体ぐらい始末したころ奥から通常のゴブリンより二回り大きく、大斧をもったゴブリンが出てきた。見たところこいつがこの集団のボスのようだ。
「オ前ガ サモナーカ!ナゼ 襲ッテキタ!?」
「主。」
振り向くとヒルダがゴブリンの首を切り飛ばしたところだった。
「そのようなやつの質問に律儀に答えることはありません。」
「まあ、待て。ヒルダ。」
そう言って、今にも飛びかかろうとするヒルダを手でいなす。
「俺はお前らを殺す依頼を受けただけだ。村などを襲わずに大人しく暮らしておけばよかったな。」
「ウルサイ! 貴様ラ人間ゴトキ二 ヤラレハ センハ!」
「シネェェェェ!」
自分の軍団を破壊されての怒りか。いきなり上段から切りかかってきた。
とっさにグレイヴを交差させて大剣を受け止める。
ガキィィン!
甲高い金属音とともに火花が弾ける。
「全然軽いな!」
グレイヴに傷一ついていない。流石、ゴドフリィが作っただけある。10万も払ったかいがあったな。
「おらぁ!」
大斧を思い切り押し返す。
こいつもなかなかの怪力だが俺には遠く及ばないな。
「ナニィ!?貴様ハ 化ケ物カ!?」
化け物の姿のやつに化け物とか言われたくないな。
生まれた隙をヒルダが弓から放たれた矢のごときスピードで捉えた。
「セヤアアッ!」
短く鋭い気勢に乗せて放たれた突きはボスの脇腹を深々と打ちぬく。
続けてもう一度突きを放つが後ろへ飛びかわされてしまった。入れ代りに俺が距離を詰め、懐に潜り込んで腹部への連撃をお見舞いする。そして、怯んだところをあらんかぎりの力を持ってボスを蹴り飛ばした。
飛んでいった衝撃で周りに土煙がたっている。
近くまで行くと血まみれのボスゴブリンが倒れている。
「ヤ、ヤメテクレ。イ、イノチダケハ ドウカ。」
「人の命をさんざん奪っておいてこれか。さっきまでの威勢はどうした?」
「スマナカッタ。ナ、ナンデモスルカラ。」
「そうか…。なら死ね。」
グレイヴの引き金を二度引く。
弾はボスゴブリンの両足に当たり、そこから火が燃え広がって全身を包み込んだ。
「ギャアアアアアアアアア!!」
炎に包まれながら地面を転がっていたがしばらくして動かなくなった。
周囲を見回すと所々で使い魔がゴブリンと戦っているようだったが、ボスを倒されたことによりゴブリンたちが逃げ出している状態だった。もちろん、残党がまた同じことをしないように使い魔に追撃させ殲滅した。
この後、死体の後処理などをしてすぐに村へもどり村長に報告を済ませた。
「たった一日であの軍団を!?もうニ、三日かかるものだと思っていましたが…。」
「ええ。一応、残党を殲滅しておきましたが何からったらまた連絡をください。それでは、帰りますので。」
「そうですか…。これが報酬です。」
「では、またのご利用をお待ちしています」
「主。少しいいですか?」
帰り道の途中、ヒルダが話しかけてきた。
「ん?どうかしたか?」
「戦っている時に主が笑っているように見えたので…。」
「え~?そうだったか?笑っていたつもりなんか全然なかっただがな。」
「主。隠し事をするのはいいですが、それで死なないでくださいね。困るのは私だけではないんですから?」
「…そうだな。すまない。」
「わかって頂ければいいのです。早く帰ってご飯にしましょう。」